第五部:再生のフルカラー(2)
ふと、画廊の扉が開くたびに流れ込む外気の中に、沈丁花の香りが混じった。
結衣が和真の視線に気づき、頬を少しだけ緩めて、人混みを縫うように歩み寄る。
彼女の歩調に合わせて、ワンピースの裾が、穏やかな波のように和真の心を揺らす。
「和真くん。……お父さんが、さっきあそこの廊下で立ち止まって、泣いてたわよ」
結衣の声は、かつての掠れた悲鳴とは違い、鈴を転がすような透明感を湛えていた。
「……そうか。……僕が奪ってしまった君の時間を、少しは返せただろうか」
「ううん。奪われたんじゃない。……私たちは、一緒に新しい時間を創ったのよ」
結衣は、和真の手――看板制作で節くれ立ち、絵具が染み付いたその指――を、
慈しむように、壊れ物を扱うような手つきで、自らの両手でそっと包み込んだ。
その温もりは、かつてのアパートで感じた、凍えるような渇望とは対極の熱だった。
「私……今日、看護学校の合格通知を受け取ってきたの。……また、白衣を着るわ」
「……結衣。……今度は、大丈夫なのか」
「ええ。……もう、誰かを救うことで自分を満たすようなことはしないから」
彼女の瞳の奥には、かつて和真が描ききれなかった、揺るぎない「生」の炎が宿る。
「今度は、私自身の喜びのために。……誰かの痛みと一緒に、笑えるようになりたい」
和真は、彼女の言葉を噛みしめるように、自身の描いた『標の残像』を見上げた。
そこに描かれた二人のシルエットは、不完全で、どこまでも不格好だ。
けれど、キャンバスの隅々に散らされた色彩は、かつてのフルカラーよりも、
ずっと残酷で、そしてずっと美しい、真実の輝きを放ち続けていた。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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