第三章:標の残像(12)
一ヶ月後、和真は新居の小さな玄関先で、落ち着かない手つきでネクタイを直していた。
古びたアパートの階段を上がる足音が聞こえた瞬間、彼の胸は激しく波打った。
ドアを開けると、そこには父親に付き添われた結衣が立っていた。
「……こんにちは、和真くん」
結衣は、少しだけ照れくさそうに、けれど真っ直ぐに和真を見つめて言った。
「いらっしゃい、結衣。……待っていたよ」
付き添いの父親は、部屋の中を一瞥し、短く頷くと、結衣の背中を軽く押した。
「……明日の夕方、迎えに来る。佐藤さん、娘を頼んだよ」
父親が去り、ドアが閉まると、部屋の中には二人きりの沈黙が降りた。
かつての密室のような淀んだ空気ではなく、開け放たれた窓から入る風の匂いがした。
「本当に、いいお部屋ね。……和真くんが、一人で全部選んだの?」
結衣は、まだ少しぎこちない足取りで、部屋の中をゆっくりと歩き回った。
「ああ。あまり広くはないけれど、ここなら陽当たりがいいから」
「……あ、金木犀の匂いがする」
結衣は窓辺に寄り、少しだけ伸びた髪を風に揺らしながら目を細めた。
「和真くん。私、ここにいてもいいのかな。……本当にいいの?」
「もちろんだよ。……ここは、君が自分に戻るための場所なんだから」
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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