第一章:標の残像(6)
泣き疲れて眠りにつき、再び目を覚ましたのは、夕闇が迫る頃だった。
病室はオレンジ色の光に満たされ、窓の外には街の灯りがポツポツと灯り始めている。
「落ち着きましたか?」
ナースステーションの方から歩いてきた彼女が、僕に声をかけた。
手には、僕の検温表を持っていた。
「……すみませんでした。さっきは、取り乱してしまって」
僕は恥ずかしさで顔を伏せた。
「いいんですよ。ここは心療内科の病棟です。泣くのも、眠るのも、立派な治療の一つですから」
彼女はそう言って、僕の枕元の検温表を整えた。
近くで見ると、彼女の髪の艶やかさに改めて驚かされる。
アップにまとめられてはいるが、そのボリュームから、
下ろせばどれほど長いのかが容易に想像できた。
「鈴木さん……でしたよね。名札にそう書いてあったから」
「はい。鈴木結衣です。今日から佐藤さんの担当をさせていただきますね」
彼女は真っ直ぐに僕の目を見て言った。
その瞳には、仕事に対する誇りと、どこか他人には見せない影が同居している。
「僕、どのくらいここにいることになるんでしょうか」
僕の問いに、彼女は少しだけ視線を泳がせた。
「それは、佐藤さんの心が、どのくらいで色を取り戻すかによりますね」
「色、ですか?」
「ええ。今の佐藤さんの世界は、きっと真っ白か、真っ黒だと思うから」
彼女の言葉に、僕は息を呑んだ。
なぜ、彼女には僕の心が見えているのだろう。
モニターの青白い光に灼かれ、色彩を失った僕の視界。
彼女は、僕が言葉にする前に、その絶望を理解していた。
「……鈴木さんの髪は、すごく綺麗ですね。真っ黒で」
唐突に口走った言葉に、結衣さんは一瞬、驚いたように目を見開いた。
そして、照れたように自分の襟足のあたりを指先でなぞった。
「これ……ですか? ありがとうございます。唯一、自分で自分を好きでいられる部分なんです」
そう語る彼女の横顔に、僕は初めて、完璧な看護師ではない、
一人の女性としての「鈴木結衣」の断片を見た気がした。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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