第三章:標の残像(7)
施設内の談話室は、外の喧騒から切り離されたような静寂に包まれていた。
和真と結衣は、色褪せたソファに肩を並べて座り、スケッチブックを広げた。
「……これ、あの雨の日のこと?」
結衣が、ページの中央に描かれた、荒々しい鉛筆の線を指でなぞった。
「ああ。君が髪を切り落として、僕たちがすべてを失った夜だ」
和真は、その時の記憶を呼び起こすように、静かに言葉を返した。
「あの時の僕は、絶望を描くことでしか、君に触れることができなかった」
結衣は、スケッチブックの隅に小さく描かれた自分の横顔を見つめた。
「私、あの夜に自分を殺したつもりだった。……でも、和真くんが私を描いてくれていた」
彼女の指先が、紙の凹凸を確かめるようにゆっくりと動く。
「この絵の中の私は、生きてる。……すごく苦しそうだけど、確かに生きてるわね」
「今の君の方が、ずっと生き生きとしているよ。その土のついた指先も」
和真は、結衣の泥が残る手を、自分の手でそっと包み込んだ。
「和真くん。私……もう一度、筆を握るあなたの隣にいたい」
「ああ。僕も、君という光がなければ、何を描けばいいのか分からないんだ」
結衣は、短く刈り揃えられた自分の頭を、和真の肩に預けた。
「私の髪、いつかまた、あなたに梳かしてもらえる日が来るかしら」
「毎日梳かすよ。……ミリ単位で伸びていくその時間を、僕が全部記録する」
結衣は、今日初めて、少女のような無垢な笑い声をこぼした。
「ふふ、そんなの退屈じゃない。……でも、あなたなら本当にやりそうね」
「退屈なことなんて、一つもないさ。君と一緒にいられるなら」
二人の間に流れる時間は、かつての「救済」という重圧から解き放たれていた。
窓の外では、一番星が静かに瞬き、二人を優しく見守っている。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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