第三章:標の残像(5)
結衣の拒絶は、和真がこの数ヶ月間、幾度となく想像してきた通りのものだった。
彼女は今もなお、かつての自分という「理想の虚像」に縛られている。
和真は、脇に抱えていたスケッチブックをゆっくりと開き、彼女に向けた。
「これを見てくれ。……僕が、病院でずっと描いていたものだ」
結衣は顔を覆っていた手を僅かに離し、その絵に視線を落とした。
夕暮れの斜光が、紙の上に踊る鉛筆の線を鮮明に浮かび上がらせる。
そこに描かれていたのは、かつての長い黒髪の彼女ではなかった。
髪を失い、泣き崩れ、自らの罪に打ちひしがれる、剥き出しの彼女だ。
けれど、和真が引いた一本一本の線には、憎しみも軽蔑も微塵もなかった。
「僕が愛していたのは、白衣を着た完璧な鈴木結衣じゃないんだ」
和真は絵を掲げたまま、一歩、また一歩と距離を詰めていく。
「僕と一緒に地獄まで堕ちて、一緒に震えてくれた、一人の女なんだ」
「……こんな、ボロボロの絵を、描いていたの?」
結衣の声が、微かに震えながら和真に届く。
「そうだよ。僕にとっては、これが一番美しい君の姿だったから」
「そんなの、嘘よ……。私は、和真くんを失望させたのに」
「失望なんてしていない。むしろ、君のその弱さが、僕を救ってくれたんだ」
和真の声は、夕暮れの風に乗って、真っ直ぐに彼女の心へ届く。
「二人でもう一度、始めよう。救い合うんじゃない。ただ隣に立って生きるんだ」
和真は絵を地面に置き、彼女に触れようと、静かに手を伸ばした。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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