第三章:標の残像(4)
じょうろの先から、規則正しく水が落ちる音が、静かな園庭に響く。
和真はその音が途切れるのを待って、震える声で彼女の名を呼んだ。
「……結衣」
じょうろを持つ手が止まり、彼女の背中がびくりと跳ねた。
彼女はゆっくりと、錆びついた機械のように時間をかけて振り返る。
西日に細められた瞳が和真を捉えた瞬間、その表情から色が消えた。
数ヶ月ぶりの結衣は、和真の記憶よりもずっと小さく、脆そうだった。
不揃いに伸びた短い髪は、彼女が自ら引き裂いた魂の傷跡そのものだ。
かつて誇らしげになびかせていたあの黒いヴェールはもうどこにもない。
彼女は言葉を失ったまま、じりじりと後退りをした。
その足元で、乾いた土が砂を噛むような小さな音を立てる。
「……どうして。どうして、ここが……」
「ずっと探してたんだ。……結衣、会いたかった」
和真が一歩歩み寄ると、結衣は拒絶するように両手で自分の顔を覆った。
その指先は、園芸作業のせいで泥に汚れ、爪の間には黒い土が詰まっている。
「来ないで! 見ないで、今の私を……!」
彼女の指の間から、喉を詰まらせたような嗚咽が漏れ出す。
「私はもう、看護師でも、和真くんを救う聖母でもないの」
結衣は激しく首を振り、溢れる涙を泥のついた手で拭った。
「髪を失って、心を壊して、ただここに生かされているだけの、出来損ないなの」
「結衣、そんな風に自分を言わないでくれ」
「和真くんに、見せる顔なんて、ない。……今の私は、ただの抜け殻なのよ」
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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