第三章:標の残像(1)
白い壁に囲まれた生活が三ヶ月を過ぎる頃、和真の心は凪いでいた。
かつての刺すような焦燥感も、死に物狂いの執着も、今は遠い。
彼はデイケアの作業療法室で、毎日静かにペンを走らせていた。
描いているのは、あの頃のような華やかな広告デザインではない。
結衣と共に過ごした、あの湿ったアパートの空気。
短く刈り込まれた彼女の襟足。床に散らばった黒髪の曲線。
それは他人から見れば、狂気の記録にしか見えないかもしれない。
けれど、和真にとっては、それが自分の輪郭を繋ぎ止める術だった。
「佐藤さん、また描いているんですね。……それは、彼女ですか?」
担当の若い心理療法士が、和真のスケッチブックを覗き込み、呟いた。
和真は、言葉を返さずにただ頷いた。
結衣との強制的な引き離しから、彼女の消息は一切知らされていない。
彼女の家族からは「二度と近づくな」と厳命されていた。
けれど、和真には分かっていた。
彼女もまた、どこかの白い部屋で、自分と同じ闇を飼い慣らしている。
その確信だけが、和真をこの世界に踏み止まらせていた。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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