第一章:標の残像(5)
どれほどの時間が経ったのだろうか。
意識の混濁の中から僕を引き戻したのは、規則正しい機械の音だった。
ピッ、ピッ、という無機質な電子音が、僕の心臓の代わりに時を刻んでいる。
重い瞼を押し上げると、視界に入ってきたのは、やはりあの「白」だった。
けれど、その白は、オフィスのコピー用紙のような鋭い白ではなく、
どこか柔らかく、僕を包み込むような質感を帯びていた。
喉が、砂を飲んだかのように焼けるように乾いている。
「……み、ず」
自分のものとは思えないほど掠れた声が、唇からこぼれた。
その時、不意に視界の端で何かが動いた。
「佐藤さん、気がつきましたか?」
耳元で、鈴の音を転がしたような、透き通った声がした。
ゆっくりと視線を動かすと、そこに彼女が立っていた。
紺色のスクラブに、白いナースエプロンを重ねた姿。
そして、何よりも目を引いたのは、
頭の高い位置で、見事なほど丁寧にまとめられた漆黒の髪だった。
彼女は、枕元に置かれた吸い飲みを手に取り、僕の唇にそっと運んだ。
「少しずつ、ゆっくり飲んでくださいね」
冷たい水が、渇いた喉を潤していく。
その安堵感に、僕は思わず目から涙が溢れそうになった。
彼女は僕の顔を覗き込むと、困ったような、けれど優しい微笑みを浮かべた。
「ここは病院です。貴方は仕事の途中で倒れて、ここに運ばれてきたんですよ」
仕事。その言葉を聞いた瞬間、僕の身体は反射的に強張った。
「プレゼン、は……。資料、出さなきゃ……」
起き上がろうとする僕の肩を、彼女の細い手が、静かに、けれど強く押し留めた。
「もういいんです。佐藤さん、もう頑張らなくていいんですよ」
その言葉は、僕が何年も、誰かに言ってほしかった魔法の言葉だった。
張り詰めていた糸が、ぷつりと切れる音がした。
僕は子供のように声を上げて泣き、彼女はただ黙って、僕の背中をさすり続けてくれた。
彼女の指先から伝わってくる体温だけが、
僕がまだ、人間としてこの世界に存在していることを教えてくれていた。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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