第二章:フルカラーの停滞(8)
異動の手続きを終え、結衣は虚脱したままナースステーションに戻った。
既に彼女の私物はまとめられ、棚の一角がぽっかりと空いている。
「……お疲れ様、鈴木さん。小児科なら、あんな叫び声聞かなくて済むわよ」
先輩看護師の一人が、慰めとも嘲りとも取れる声をかける。
結衣は返事をする代わりに、深々とお辞儀をした。
きつく結い上げた髪の重みが、今は首を折らんばかりに重くのしかかる。
心療内科は、彼女にとって自分の「救い」を確認するための鏡だった。
そこから引き剥がされることは、自分の存在価値を剥奪されるに等しい。
病院の廊下を歩きながら、結衣は何度も壁に手をついた。
小児科という、命の灯火が消えそうな子供たちが待つ戦場。
今の自分に、その子たちの「重み」を支えるバケツの余裕など、残っていない。
けれど、誰からも必要とされていない自分に戻るのが、何よりも怖かった。
「……働かなきゃ。和真くんのためにも、私の、ためにも」
彼女は自分に言い聞かせるように呟き、エレベーターの鏡を見た。
そこには、昨夜の嵐でボロボロになった自分を押し殺した、
蒼白な顔の「装置」が映っていた。
和真には、言えない。
自分が「不適格」だという烙印を押されたなんて。
家という名の最後の聖域を、この敗北感で汚すわけにはいかないのだ。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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