第一章:標の残像(2)
時計の針を、あの「白」の世界に堕ちる少し前へと戻そう。
当時の僕は、広告代理店のグラフィックディレクターという、
響きだけは華やかな職に就いていた。
午前二時。オフィスを支配するのは、サーバーの低い唸り声と、
誰かが吐き出したまま放置された、湿ったストレスの匂いだ。
モニターの青白い光が、僕の濁った瞳を容赦なく刺してくる。
キーボードを叩く指先は、もう数時間前から感覚を失っていた。
「佐藤、さっきの修正、クライアントからダメ出しだぞ」
背後から飛んできたのは、上司の乾いた声だった。
心臓が、ドクンと嫌な跳ね方をした。
「……どの部分でしょうか。構成案は先方の指示通りに……」
「指示通りじゃねえんだよ、意図を汲めって言ってんだ」
机を叩く音が、静まり返ったフロアに銃声のように響く。
僕は謝ることしかできなかった。
深夜のオフィスには、僕と同じように死んだ魚の瞳をした同僚たちが、
淡々と作業を続けている。
誰も助けない。誰も助けを求めない。
ここは、効率という名の神に捧げられた、現代の生贄たちの祭壇だった。
コンビニで買った三本目のエナジードリンクを開ける。
化学的な甘みが喉を灼き、強制的に脳を覚醒させる。
心臓の鼓動が速くなり、指先が微かに震え始めた。
僕は、自分の人生を少しずつ削って、一枚の画像を作っている。
その画像が、明日の朝にはゴミ箱に捨てられるかもしれないとしても。
ふと、窓ガラスに映る自分の顔を見た。
土色の肌に、深く刻まれた隈。
そこには、かつてデザインを愛していた青年の面影はなかった。
僕はただ、鳴り止まないチャットツールに返信を続ける、
代わりのきく歯車の一つに過ぎなかった。
世界から色が消えていく。
赤も青も、ただのカラーコードの羅列にしか見えなくなっていた。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
指摘や感想とか頂ければ励みになります。




