第一章:標の残像(16)
退院を三日後に控えた、雨上がりの午後だった。
病棟の空気は湿り気を帯び、窓から差し込む光はどこか白く濁っている。
主治医からは「社会復帰への第一歩」という太鼓判を押されたが、
僕の心は、晴れやかさよりも、言いようのない不安に支配されていた。
この白い箱庭を出れば、僕はまた「無職の佐藤和真」に戻る。
そして何より、僕を救ってくれた結衣さんと、もう会えなくなる。
ナースステーションの前を通るたび、僕は彼女の姿を探した。
けれど、結衣さんは僕を避けているかのように、忙しく立ち働いている。
あの夜、僕の絵の前で涙を流したあの日から、
彼女が纏う「看護師の仮面」は、以前よりも一層厚くなったように見えた。
夕方の検温の時間。結衣さんがようやく僕の部屋に現れた。
彼女は淡々と体温を測り、血圧計を僕の腕に巻く。
マジックテープの剥がれるバリバリという音が、静かな室内で不快に響いた。
「……退院、おめでとうございます。佐藤さん」
結衣さんは僕の目を見ずに、手元の数値だけを確認して言った。
「ありがとうございます。……結衣さん」
「はい、何でしょう」
「あの、退院したら、僕……」
言葉が喉に詰まる。結衣さんの表情は、まるで氷で作られた彫刻のように動かない。
「外で、会ってくれませんか」
絞り出した言葉は、自分でも驚くほど震えていた。
結衣さんの指先が、僕の血圧を記録するペンを握ったまま、ぴたりと止まった。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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