第一章:標の残像(15)
僕はベッドから身を乗り出し、彼女の震える肩に手を置こうとして――。
けれど、それを思いとどまった。
今の僕は、まだ彼女を支えられるほど強くはない。
無職で、心を病み、この白い部屋から出ることさえ許されない身なのだ。
「……ごめんなさい。和真さん。看護師が患者さんの前で泣くなんて、失格ですね」
彼女はすぐに涙を拭い、無理に微笑んで立ち上がった。
「失格なんかじゃないです。結衣さんが人間だから、僕は救われたんだ」
「和真さん……」
彼女は何かを言いかけ、けれどそれを飲み込むように、深くお辞儀をした。
「……ありがとうございます。この絵、大切にします。
私のバケツ、少しだけ軽くなった気がします」
彼女はスケッチブックを僕に返すと、逃げるように病室を後にした。
廊下へ消えていく彼女の後ろ姿。
きつく結い上げられた髪の毛先が、一度だけ、跳ねるように揺れた。
その夜、僕は確信した。
僕がこの病室を出て、社会に戻ろうとする理由は、もう「生活のため」だけじゃない。
いつか、彼女をこの「柵」から連れ出し、
その長い髪を、自由な風になびかせてあげるためだ。
それは、恋と呼ぶにはあまりに切実で、
祈りと呼ぶにはあまりに身勝手な、僕の新しい「色」だった。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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