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第一章:標の残像(13)


 深夜の対話を経てから、僕の目に映る結衣さんは、より危うい存在として映るようになった。


 彼女は相変わらず完璧だった。


 乱れのない髪、穏やかな声、患者一人ひとりの小さな変化も見逃さない観察眼。


 けれど、その「完璧さ」が、彼女の命を削って作られた薄氷のようなものであることを、僕は知ってしまった。


 ある日の午後、リハビリを兼ねて廊下を歩いていた僕は、ナースステーションの奥で激しい口論が起きているのを耳にした。


「鈴木さん! また独断で三〇五号室のケアプランを変更したわね。


 医師の指示書には『安静』としか書かれていないはずよ」


 年配の主任看護師の声が、鋭くフロアに響き渡る。


「……申し訳ありません。ですが、あの患者様は、お一人で窓の外を眺めているときが一番心拍が安定していたんです。少しだけ、車椅子で屋上へお連れした方が……」


「そんなの、あなたの勝手な解釈でしょう。何かあったら誰が責任を取るの?


 あなたはいつもそう。患者に感情移入しすぎて、プロとしての境界線が曖昧なのよ」


 結衣さんは俯き、ただひたすらに謝罪を繰り返していた。


 彼女の正しさが、組織の論理によって塗り潰されていく。


 僕は壁の陰で拳を握りしめた。


 自分の不甲斐なさが、心臓の奥を焼くように熱くさせる。


 僕がデザインの現場で、クライアントの言いなりになって自分を殺していたあの時。


 彼女もまた、この白い箱の中で、自分の信念を磨り潰されている。


 救う側も、救われる側も、結局は同じ重力に縛られているのだ。


この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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