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第一章:標の残像(12)


「……色、ですか」


 結衣さんが小さく繰り返した。


「ええ。最後の方は、モニターの青白い光だけが世界の全てでした。それ以外は全部、煤けたグレーに塗りつぶされて。……結衣さんは、どうして看護師に?」


 今度は僕が問いかける番だった。

 結衣さんは少しだけ意外そうに目を見開いたが、すぐに寂しげな微笑みを浮かべ、自分の膝の上に視線を落とした。


「私は……誰かに必要とされていないと、自分が透明になって消えてしまいそうだったんです」


 彼女の告白は、意外なほど重く、切実だった。


「私の実家は、とても厳格で……。良い成績を取り、良い子でいることだけが、私が居場所に居るための条件でした。看護師という仕事を選んだのも、感謝されることで、自分の存在価値を証明したかったから。でも、心療内科に来て分かりました。救おうとすればするほど、自分の中のバケツも空っぽになっていくんです」


 彼女は細い指先を組み、ぎゅっと力を込めた。


「患者さんに『頑張らなくていい』って言いながら、私自身が誰よりも頑張ることをやめられない。期待に応えなきゃ。嫌われちゃいけない。そうやって自分を縛り付けていないと、立っていられないんです」


 彼女の視線が、僕と重なった。

 その瞳には、昼間の完璧な看護師としての光はなく、一人の、傷ついた女性の震えがあった。


「和真さんと私は、少し似ているのかもしれませんね。私たちは、自分を殺すことで、なんとかこの世界に繋ぎ止められている」


 初めて、彼女が僕の名前を呼んだ。

 「佐藤さん」ではなく、「和真さん」。

 その響きが、夜の静寂の中に波紋のように広がり、僕の胸を締め付けた。


 僕は思わず手を伸ばし、彼女の指先に触れようとした。

 けれど、その手は空を切った。

 彼女はふと立ち上がり、いつもの穏やかな看護師の顔に戻っていたからだ。


「……少し、話しすぎましたね。もう三時です。少しでも、目を閉じてみてください」


 彼女は懐中電灯を点け、僕に背を向けた。

 ドアが開く直前、彼女が一度だけ立ち止まった。


「和真さん。私は、貴方が貴方のままで笑える日が来るのを、心から願っています」


 それが、後のあの言葉へと繋がる最初の予兆だったとは、その時の僕はまだ知る由もなかった。





この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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