第一章:標の残像(11)
深夜二時。
病棟の廊下は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
非常口の案内灯が放つ淡い緑色の光が、床に長い影を落としている。
僕は眠れずに、暗い天井を見つめていた。
目を閉じると、あの真っ黒なオフィスの光景や、鳴り止まないチャットツールの通知音が、鼓動に混じって蘇ってくる。
身体は疲れているはずなのに、脳だけが冷たく冴え渡り、出口のない思考を繰り返していた。
不意に、ドアが静かにスライドする音がした。
廊下の薄明かりを背負って、一人の人影が音もなく病室に入ってくる。
懐中電灯の小さな光が、床を丸く照らしながら僕のベッドへと近づいてきた。
「……起きていたんですか、佐藤さん」
囁くような、けれど明瞭な声。結衣さんだった。
彼女は点滴の残りを確認し、僕の様子を伺うように少しだけ腰を屈めた。
「すみません。なんだか、目が冴えてしまって」
「いいですよ。無理に眠ろうとすると、余計に苦しくなりますから」
彼女は空いている丸椅子を、音を立てないように引き寄せて座った。
深夜の巡回。本来ならすぐに立ち去るべきなのだろうが、彼女はそのまま僕の傍に留まってくれた。
暗がりの中でも、きっちりとアップにまとめられた彼女の髪が、微かな光を反射して艶やかに光っている。
「佐藤さんは、あのお仕事、好きだったんですか?」
唐突な問いだった。けれど、責めるような響きは微塵もなかった。
「……好き、でした。最初は」
僕は遠い記憶を手繰り寄せるように言葉を選んだ。
「白い紙に、自分の描いた線が形になって、誰かの心を動かす。それが誇らしかった。でも、いつの間にか、作る喜びよりも『間に合わせなきゃ』っていう恐怖の方が大きくなっていったんです。自分が何を作っているのか、誰のために働いているのか、最後には色さえ分からなくなって……」
暗闇の中で、自分の声が独り言のように響く。
結衣さんは、遮ることなく静かに僕の話を聞いてくれた。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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