南部敏行 東北の巨人と
視点が飛ぶ場合の表現が良くできないのが悔しいですが、今回初めて、☆☆☆山中の監視者視点☆☆☆という説明を付けました。わかりやすさ優先とは思いますが、本来はそのような標識を立てずに、地の文で簡単に理解してもらえるような筆力が有ればと忸怩たる思いです。この辺りは、章の構成を見直すなど、推敲の際に考えてみたいと思います。
紅葉が色づき始めた奥羽山脈を望む別邸の縁側に、南部敏行は腰を据えていた。
古びた木造の屋敷は、どこか時代に取り残されたような佇まいだったが、磨き上げられた廊下や庭の苔むした石灯籠は、老人の矜持を静かに物語っていた。
南部敏行。
東北各地に拠点を置く八戸産業を中核とする南部グループの総帥。知る人ぞ知る、裏の東北を牛耳る巨人と呼ばれた男だ。
その彼が、今、初対面の客を迎えていた。「アイツの紹介がなければ、こんな山奥で会うこともなかっただろうな。」
南部の声は低く、どこか刺々しかった。目の前の男、阿久津は、端正な顔に不釣り合いなほどリラックスした笑みを浮かべていた。「そうですね。ですが、国の重大事ですから。使いたくないコネも使わざるを得ませんでした。」
阿久津は、差し出された茶を一口啜り、ぬるさに眉をひそめるでもなく答えた。
「国の重大事? 何を言ってるのか、さっぱりわからん。」
南部の目が一瞬鋭く光ったが、すぐにまた穏やかな老人の仮面に戻った。
「東北義勇軍、でしたか? 貴方の手駒も動いていると聞きましたが?」
阿久津の言葉は軽やかだが、その裏に潜む刃のような鋭さが、部屋の空気を一瞬で冷やした。
「個人の意思で参加しているだけだ。わしが関知することではない。」
南部の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。余裕の笑みか、虚勢か。
「盛岡方面の部隊ですが、残念ながら、こちらで止めさせていただきました。」
阿久津は茶碗を置き、静かに告げた。「止めただと?」
南部の声が低く唸り、老いた肉体とは裏腹に、眼光は猛獣のそれに変わった。
縁側の向こう、遠くの山で鳥が鳴いた。鋭い、まるで警告のような音だった。
「北の手勢が面倒そうでしたので、まずは南から。止めると言っても、自然に霧散した、と言いましょうか。あのあたり、熊が増えすぎてましてね。」
阿久津の口調はあくまで軽妙だったが、その目は南部を一瞬たりとも離さなかった。
「峠で仕掛けたか。」
南部の声に、ほのかな感嘆が混じる。
「逆に、皆さんは何に怒っているのですか? 日本政府にそこまでの恨みがあるとは思えませんが。」
阿久津の言葉に、南部の顔に初めて本物の笑みが浮かんだ。
「君は、怒りで動いているようで、実は冷めすぎている。だから怖い。」
南部は茶を一口飲み、ゆっくりと続けた。
「わし達はな、中央の下請け、土方扱いだ。何年、何十年、いや、知る限りずっと搾取されてきた。何かあれば、真っ先に肉の盾にされ、切り捨てられてきた。」
阿久津は天井を見上げ、ため息をついた。
「まさか、アテルイ以来の恨みを、その手で果たそうと?」
南部の目が一瞬剥き出しになり、口元に深い皺が刻まれた。
「その思いを抱いて、何が悪い?」
その言葉は、まるで山脈そのものが呟いたかのように重く響いた。
☆☆☆山中の監視者視点☆☆☆
山の斜面に身を潜める影たちが、別邸の灯りを遠くに見据えていた。
黒い装備に身を包んだ男たちは、夜の闇に溶け込むようだった。リーダーの男が、双眼鏡越しに縁側の二人を見つめる。
「良くないね。」
隣にいた若い隊員が、静かに呟いた。
「本当だ。あちらもこちらを視認済みだろう。警戒態勢に入ってる。」
リーダーの声は低く、冷静だったが、どこか緊張が滲んでいた。
「目的はなんだ? 所属は?」
別の隊員が、装備を点検しながら尋ねた。
「我々と同じ、所属不明の装備だ。内閣調査室か?」
「いや、動きが違う。あれは調査じゃなく、実働部隊だ。」
その時、傍らで特殊な通信機を握っていた男が、片手を上げ、親指を下に倒した。
「女王様からのオーダーだ。無力化しろ。」 リーダーの目が一瞬鋭くなり、静寂が揺らいだ。
「了解。動くぞ。」
どこかで鳥が鳴いた。鋭く、まるで何かを告げるように。
筆者はXにても妄想を垂れ流ししております。
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今は、小説関連で絡んでいる方は少数ですが、相互に発信できる良さを活かして、切磋琢磨させていただきたいと願っております。もしよかったら、覗いてみてください。




