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令和 十二所の戦い 慶応4年以来二回目

慶応四年、戊辰戦争の火蓋が十二所で切られた。 そして令和の今、奇しくも同じ地に再び戦火が迫る。 東北義勇軍の侵攻は、予想外の報告と混乱の中で停止していた。 武装集団、実弾、消息不明、遅れる援軍—— 情報が輻輳し、戦場は再び“照らされぬ道”へと沈み込んでいく。

大館市十二所は、奇しくも戊辰戦争でも南部藩(盛岡藩)と佐竹藩(久保田藩)との間で、戦闘が行われた地であった。

そこで東北義勇軍側の侵攻は停止していた。

各方面からの予想外の報告が相次いでいたためだった。

「この先に武装集団が陣を構築している」

「サバイバルゲームなどとふざけたことを言っているようだが、実弾が飛んでくるらしい」

「盛岡の部隊は、消息を絶ったという噂が…」

「それよりも日本海からの援軍が遅れているそうだ」

情報は輻輳し、混沌が生じていた。


中朝国から派遣されている(おそらく人民軍所属)の将校たちは、強行突破を主張するが、一部の政治将校はそれでは国際世論の矢面に立つのが中朝国になると懸念を表明する。

中国出身の妻とその家族を人質同然とされて、この蜂起に参加した現役自衛官は、そもそも待ち伏せされている時点で勝てる見込みは無いし、遠望する敵の所持する装備を見て絶対勝てないと悟っていた。

それは陸自でも精鋭中の精鋭にのみ供与されるHeckler & Koch社のHK416 / HK416A5だったからだ。


中朝国も東北義勇軍には銃器を提供していた。

北九州、神戸、大阪、新潟、各地の秘密集積所から、67式汎用機関銃やType 73軽機関銃、ロシア製汎用機関銃PKMまで用意していた。しかし、この十二所という縦深陣地の構築に非常に適した地形で南北の山地を利用して精鋭に守られたら、屍を積み上げるのは練度の低いこちら側であろう。


「103号線を強行すれば大館まで、すぐでは無いか!」

強硬派が主張するが、地図を見つめていた数名は頭を振り、

「山が迫っていて、いくらでもトラップを掛けられる地形です。むしろ旧道の方が備えが甘いかもしれませんが、こちらも防衛線を構築しやすい地形です」

「ならば、どうするというのだ」

「我々の目的は高度に政治的なプロパガンダのはずです。このまま膠着でも、他の局面が動けば勝利を得られるのでは?」

冷静な意見も発せられた。しかし、彼は知らなかった。他の局面でも「押さえ」の手が効いて、また別の局面では「切り」が進行中であることを。



☆☆☆☆県境の山中、南部敏行別邸☆☆☆☆

「今夜、儂の子飼いは離脱することになった」

南部は少し残念そうにしていた。

「監視はされているものと、想定する方が良いですよ」

当然、南部を切り捨てようとした中朝国である。暗殺に失敗した情報も現地に届いている可能性もある。

「もともと、腹心は現地に入らせていない」

なかなかに南部も、安易な信頼信用とは無縁の男であるらしい。

「てんごてんごに山に逃げるしかないから、そちらの要員には、見逃すよう伝えてほしい」

「まあ、一斉離脱となれば、追手もかかるでしょうから、識別するよう連絡します」

阿久津は答えながら、見せ駒のゲーム参加者との接触が無いことを祈っていた。

横田恵の連絡では、ほぼ山中は玄人の精鋭が守り、一般のサバイバルゲーム参加者は里山のふもとで戯れているだけとのことなので、まずは大丈夫だとは思っていたが…

「それよりも、何だこのネットニュースとやらは、まるで陸奥と羽後とで馴れ合いの戦争ごっこをしていることになっているではないか」

「まあ。それは欺瞞情報の発信をこちらでしていますから。インフルエンサーが相当、動員されているはずです。有償の者も、それに乗っかって何も知らずに引用リポストしている者も…」

南部はこれまでの人生で、政治を動かすことは何度もしてきていたが、一般の国民に何らかの誘導を行える術があることは知悉していなかった。

「時代は変わっていたのだな」

老人の肩が落ちた。

「このネットの力で、例えば南部さんの会社の売り上げを3年くらいで倍増することも可能なんですよ」

阿久津が信じがたい言葉を南部に告げる。

「馬鹿な!儂の会社の年商も全部は把握しておらんだろう?」

「確か、建設関係で30億、石油販売で20億、商社卸売りで100億、簿外資産が50億でしたか?」

淀みなく答える阿久津に、南部が瞠目する。

「ウチの可愛い後輩に任せれば、新規事業も含めて東北一いや日本でも有数のコンツェルンになると思いますよ。僕は何もできないけど」

爽やかに阿久津は笑う。

「いや、実印を持ってきていなくて良かったよ」

南部が微笑む。

「今の話を聞けば、君にすべてを任せたくなって実印まで託していたかもな」

もちろん、冗談であろう。しかし、次の阿久津の言葉に彼は苦笑をすることになる。

「あれ?南部さんでもですか?今までにも何人もそんなことが有って、任せるって言うから任せられたら、悲喜こもごもで申し訳ないやら、うまくいった時は嬉しいやら、皆さん意外と人を信用するの早いですよね」

「若造め、世の中を舐めてるな。まあ、その胆力だけは認めよう」

二人が談笑している間も、「切り」と「押さえ」そして「打って返し」の手が進んでいた。

お読みいただきありがとうございました。 この章では、戦場の地形と政治の裏側、そして情報戦の現代的な様相が交錯しました。 「押さえ」「切り」「打って返し」——囲碁の手筋が、戦場と人間関係の局面に重なっていく様子は、まさに“照らされた道”の深層です。 南部と阿久津の会話は、信頼と疑念、老獪と若気が交差する場面でもありました。 次回、山中の“照らされた者”たちが動き出すかもしれません——

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