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第19話 エピローグ後編 そして未来へ

 最終回です。三人称視点です。

 倉阪夫妻を映し出していた動画の再生が終了し、画面が太陽系ネットワーク・スタジオ・日本本局に戻る。


 ニュースキャスターが語り出した。


『……以上がノンフィクション・ドキュメンタリーとして現存している映像で再生された倉阪規の生涯となります』


 コメンテーターが質問する。


『地球連邦・日本支部が公開した倉阪規の生涯と言う割には彼の死までを追っていませんが?』

『それについては各々で見解が分かれます。映像での黄泉売テレビでのインタビューより10年後、彼は死亡します』


 10年後に死んだとの言葉にスタジオ内がざわつく。


 スタジオを映した画面上に右から左へ流れていくコメントも驚きと戸惑いに溢れている。


『原因は』

『腹上死です』


 画面上のコメントとスタジオ内が笑いに包まれる。


『えぇ……? あれだけの偉業を成し遂げておいて、そんな最期は何と言うか……』

『情けないですよね』

『ある意味、男として羨ましいと申しますか……』

『そっちですか』


 再び笑いに包まれる。


 スタジオ内が静かになるのを見計らい、司会者が解説する。


『今でこそ大量生産され安価で手に入るアンドロイドですが、生産開始当初は日産1000人という心許ない数値でした』

『倉阪規さんが所有していたのは何人なんですか?』

『奥さんの更紗さん含めて10人です』


 スタジオ内の観客席からへえと言う声が上がる。


『まあ、お金持ちなら普通ですよね』

『今の感覚で考えるのは間違いですよ。当時は氷河期世代限定で1人所有できるかどうかの問題でしたので、はっきり言ってしまえば異常だったんです』

『それで、毎晩毎晩誰かととっかえひっかえ寝ていた、と?』


 羨ましげなコメンテーターの言葉に司会者が首を左右に振った。


『それは無かったようです。日常生活に支障を来すほどの性生活はしていなかったと日記が現存しています』

『では何故?』

『単純に肉体が衰えたと見るべきでしょう』

『性行為に耐えられなかった、と?』

『そのようです。最終的に彼女たちは倉阪規さんの子供を1人あたり5、6人ずつの計62人出産しました』


 スタジオ内から驚きの声が上がる。


『今と比べても多いですね』

『いや、多過ぎます!』

『確かにそれだけやってたら死にますね』


 スタジオ内からも同意の声が漏れる。


 司会者の背後の空中投影画に『倉阪規が世界にもたらした物』と表示される。


『さて、倉阪規さんの生前の生活はこのくらいにしておいて、彼が当時の産業総合研究所に持ち込んだとある物が注目を浴びました』

『ある物とは?』

『2つのサッシ、いわゆる窓枠ですね』


 スタジオの観客席から困惑した声が上がる。


『窓枠と言うと、住宅の壁に取り付けられている?』

『そうです』

『産総研に持ち込むということは、単なるサッシでは無いのでしょうね?』

『その通りです。今でこそ当たり前のように使われていますが、当時は画期的な代物でした』

『それは一体?』

『空間繋装置。……要するに超小型のワームホールです』


 司会者の発言に少しの沈黙の後、ざわめきが起きる。


『ワームホール!? 100年以上も前に!?』

『そうなんですよ』

『倉阪規さんが開発されたのですか?』

『いえ、それが彼の遺した日記によると、街中で捨てられていたのを気になって拾ってきたのだそうです』

『捨てられていた!?』


 スタジオ内がどよめく。


『な、何故そんな所に?』

『今もその事について国が調査しているのですが不明のまま、だそうです』

『開発者が別にいる、という事ですよね? その方も?』

『不明なんです』

『謎が深まるばかりですね』


 ざわめきが治まるのを待ってから、司会者が語り出した。


『さてこの2つのサッシ、とある理由で壊れていたのですが、1年の時間をかけて修復されデータを収集しました。終わった後、倉阪規さんに返却されたという事です』

『え、返却したのですか?』


 コメンテーターの困惑に司会者が淡々と解説する。


『日記で彼は個人で恵まれない人を助けるのは限界があると思い至り、原理・技術が解明されれば日本のためになる……。そう考え伝を頼って寄贈という形で提出したそうなのですが、スパコンと量子コンピュータがあったので、データ取りだけで十分だったそうです』

『実際、解明されるまでどのくらいの時間を要したのですか?』

『何と驚き、たったの1年です』


 再びどよめくスタジオ内。


『1年!? それはまた短いと言うか、何と言うか』

『まあ、解明されたとはいえ、実用化には時間がかかったそうです。最初は倉阪規さんが所有していたサッシと同じ材質・構造の物が作られたのですが、試作品はたったの100m先の空間までしか繋がらなかったそうです』

『それでも十分凄い事ですよ!』

『以降、何度も改良を重ね100km先まで伸びたのですがここで大事件が発生します』


 スタジオ内の観客席が戸惑う。


『何が起きたのですか?』

『俗に言う産業スパイです。産総研に潜伏していた親中派により研究データを盗まれたのです』

『そんな話、聞いた事もありませんよ!?』

『実を言うと、この情報が解禁されたのはつい先ほどなんです』

『どういうことですか?』

『ワームホール発見から100周年という事が理由だそうです』

『何で盗まれた事が記念になるんですか?』

『結果的に意趣返しになったと聞いております』

『はあ?』


 再び観客席から困惑の声が上がる。


『あなたたちは学生時代、世界史の授業で100年前に何が起きたか習いましたか?』

『ええと、確か、中国南部で火山の破局的噴火が起きて大規模災害が発生。あふれ出す溶岩を食い止めるべく三峡ダムを爆破して災害を鎮静化させたものの南部は壊滅的打撃を受け、死者行方不明者が3億とも4億とも言われ…………』


 コメンテーターの口が止まる。不思議とスタジオ内に沈黙が降りる。


『どうしました?』

『ま、まさか…………。彼らは一体何をしたんですかっ!?』


 コメンテーターはもはや叫ぶような口調で問いかけた。


『真相は分かりません。これはあくまでスパコンの予測によるものですが。可能性としては大型化したワームホール装置を開発し、数値の入力を間違えて地下奥深くに存在するマントルの中に繋いでしまったものと考えられています』

『何ですって!?』


 スタジオ内がざわつく。


『普通なら溶岩の熱で装置が機能不全に陥り、すぐに空間が遮断されると予想されたのですが、どういう訳か延々と溶岩を噴き上げ続ける即席の火山へと発展してしまったようです』

『馬鹿な!』

『何の前触れもなく大規模にあふれ出した溶岩に対して当然対策できるはずもなく、周囲の農村や都市を呑み込み』

『もう止めてくださいっ!』


 コメンテーターが悲鳴を上げるも、司会者は解説を止めない。


『事実です。ちなみにこの日を境に中国共産党国家主席を含めた重要な幹部たちも行方不明となっています。恐らく、装置の近くで記念式典を開いていたものと思われます』

『何て愚かな事を……!』

『これにより、地球規模で一時的な気候変動が起きましたが3年で鎮静化。地球経済が2020年代前半に戻るまで20年かかる事になりました』


 コメンテーターは沈黙している。


 よほど堪えたのだろうか、スタジオ内も空気が重い。


 司会者は構わず解説を続ける。


『調べようにも肝心の装置が冷えた溶岩の奥底にあるし、掘り出したら掘り出したで再び溶岩が噴出なんていう笑えない事態も御免ですしね。……さて、日本がワームホール実用化を発表したのは倉阪規さんからサッシを受け取ってから10年後、つまり倉阪規さんが病死してから間もなくの事です』

『……その時に発表した理由は何ですか?』


 コメンテーターとして出演してる以上、黙っているわけにはいかないのか、声を絞り出すようにして尋ねる。


『倉阪さんの強い希望によるもので、手持ちのサッシを所持していると知られたら面倒な事に巻き込まれる。死んだ後サッシを手放せば後腐れない、との事でした』

『ああ、まあ、使いようによっては金儲けになるから奪い合いになるでしょうね』

『彼の死後、サッシは皇族に寄贈され今も保管されているそうです』

『それはまた、何故ですか?』

『記念すべきワームホール第1号だそうです』

『はあ』


 何となく、倉阪規の性格が分かってきたのかスタジオ内が微妙な空気に包まれる。


『実用化され、安全装置をほどこほされた民間用に製品化され販売されるまでさらに5年かかります』

『確か、最初は流通企業向けに販売されたのでしたっけ?』

『そうです。これにより流通コストが大幅に低下し、さらに10年後には世界中で販売されるほどのベストセラー商品へ化けます』

『さぞ利益も莫大なものになったのでしょうね』


 運送業も装置を導入しコストは大幅に安くなったものの、失業者があふれる事になり社会的混乱が起きた。


 彼らは別の業種へと移る事になったが、混乱が解消されるまで年単位で時間がかかった。


『さらに10年後、人類はワームホールを利用してラグランジュ・ポイントと月面に基地と都市を建設し、宇宙コロニーと月に移住する者が出始めます』

『人類が本格的に宇宙に進出した時期ですね』


 この頃、野心に燃える若者たちが一旗上げるべくコロニーや月へと旅立つ姿も珍しくなくなる。


 当然、全てが上手く行くはずもなく道半ば倒れる者も多かったが、成功した者は宇宙船を所有し経営する企業を持った。


『さらに20年後、つまり今から45年前にワームホールは地球から直接、木星圏に到達しました。これが何を意味するか分かりますか?』

『木星からのガス採掘!』

『その通り! 人類は無尽蔵とも言っても良いくらいのガスを手に入れ、コストは大幅に安くなりました!』

『当面のエネルギー問題はほぼ解消されたと学校で教わりました!』

『今から35年前の話ですね』


 西暦2090年、人類は木星で初のガス採掘が始まり社会的ブレイクスルーを巻き起こした。


 以降、今現在に至るまでその恩恵にあずかっている。


『この前のニュースではワームホールがヘリオポーズの外へ出たらしいとの話がありましたね』

『喜ばしい事です』

『このまま年月を重ねれば、いずれ太陽系外惑星へと届くのも夢ではありませんね!』

『そうですね。まあ、その頃には我々は生きていないでしょうが』

『見てみたいですね』


 スタジオ内がしみじみとした雰囲気に包まれる。


『ええ。……おっと、忘れてた事がありました』

『何でしょう?』


 司会者がわざとらしく咳をする。


『ワームホール装置をもたらした倉阪規さんの生涯を記した伝記が明日、大型書店やネットショッピングで購入できるようになります』

『おお、それは素晴らしい!』

『地球連邦及び太陽系に住む星系民へ。是非、100年前の英雄の物語を読んでください』

『はい。私も早速読ませていただきます』


 スタジオ内が明るい雰囲気を取り戻した。


『……と、話題が尽きましたし、しんみりしてきた所でこの番組も終了したいと思います』

『はい。今日はどうもありがとうございました』

『ありがとうございました』


 司会者とコメンテーターが礼をすると観客席から拍手が起きる。


 三次元空中投影機の片隅に『制作:太陽系・ネットワーク・スタジオ日本本局』と、続いて中央に『ワームホールの発見~人類にもたらした未来~』と表示され数秒の後に真っ暗になった。


 放映は終了した。

 これにて物語は完結しました。

 最後まで読んでくださった方、心よりお礼を申し上げます。

 是非、評価と感想をお願いします。

 また、いつか別の作品でお会いしましょう。

 それでは。

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