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第14話 証人喚問

お待たせしました。

 証人喚問当日。


 弓の姿で来た俺は更紗と一緒に国会議事堂内にいた。

 手には乃東君が用意してくれた秘密兵器が入ったかばんげている。


 既に委員会には提出・解説済みで公開・発表の許可ももらっている。


 その時の与党議員たちは感心していたが、野党議員たちは軒並み反発気味だった。


 雰囲気からして許可が下りないかもしれないと不安になったが、どういうわけか一部の反発する野党を残して他が賛成に回り、多数決で許可となった。


 それにしても気に食わないのは委員会での一幕である。俺と更紗に遠慮の無い視線を向けるのは理解できなくもないが、胸や尻にねっとりとした視線で舐め回すのは止めろ。


 更紗は平気そうだったが、俺は怖気が走りっぱなしだったわ。


「時間です。議場へ案内します、付いてきてください」

「分かりました」


 俺たちは歩きながら辺りを見回す。


 国会議事堂内はそうそうお目にかかれないからだ。


◆     ◆     ◆


 議場に入ると俺たちは中央に設置されているマイク付きテーブルと2つの椅子まで誘導され着席した。


 持ち込んだ鞄を脇に置く。いわゆる証人席のようだ。


 既に大勢の国会議員が着席しており、こちらに様々な感情がこもった視線を向けていた。


「只今より、バクバク・イーツ従業員の倉阪くらさかゆみ君。並びに彼女の親戚の妻の更紗さらさ君の証人喚問を行う」


 議長が告げた。


「なお、この証人喚問はN◯KなどのTV・ラジオ局並びにニャゴニャゴ動画でも生中継されているので心するように」


 その言葉に俺たちは頷く。


「続いて、国会法第63条に基づき、証人は宣誓を行うように」


 テーブルの上に伏せられていた用紙をひっくり返すと一番上に『宣誓書』と書かれており、これを読めば良いらしい。


 マイクに顔を近づけて宣誓書を読み上げる。


「私、倉阪弓と親戚の妻の更紗は質問に対し嘘偽り無く真摯に真実を述べる義務を負う事を誓います」

「宣誓書に署名を」


 議長に促され、俺と更紗は着席したまま自身の名前を書き込んだ。


 近づいてきた役人がその紙を持って下がる。


「それではこれより倉阪弓君に対し質問を行う」


 「はい」という声と同時に議場のあちこちから手が上がる。


「RM党、◯◯君」


 席を立った議員がマイクの前まで歩く。


「アジテレビの朝のニュースであなたがインタビューに答えていましたね? あれはあなた本人で間違いありませんか?」

「《《姿形》》は私本人で間違いありません」

「含みのある答え方ですね。インタビューでのあなたの発言はあなたの本心で間違いありませんか?」


 あくまでも俺の発言にしておきたいらしい。


「あの発言。過去にそれに近い感情を抱いた事は間違いありません。ですがインタビューではあのような発言は一切しておりません」

「嘘はいけません。あなたははっきりと言っているではありませんか。逃げないでください」


 ふと思ったがこの質問者、アジテレビとずぶずぶの仲なのではなかろうか。


 あまりにも態度が露骨すぎる。


 一流ならそうと思わせない演出家なんだろうな、


「逃げてなどいません。あれはアジテレビが私の発言を並び替え編集したものです」

「そんな証拠がどこにあるのですか!? 例えあったとしてもそのように受け止められる発言をしたあなたが悪いのではありませんか!?」

「このまま押し問答するのは時間の無駄ですので証拠をお見せしましょう」

「いいでしょう、見せてください」


 脇に置いた鞄からmicroSDカードを取り出す。役人が持ってきたプロジェクターに差し込んで配線を繋ぐ。

 再生する前にマイクで報道陣向けに発言する。


「あ、お見せする前にマスコミへ忠告を。もし貴方がたにとって生中継で国民に知られては不都合な内容でしたら、遠慮なくCMなどでカットしてくれて構いませんので」


 もちろん、マスゴミの良識なんぞ期待していない発言だ。


「何?」

「再生します」


 役人が合図をしながら再生ボタンを押した。


 議場の大きなスクリーンに映し出されたのは弓を中心に外周360°の風景だ。


 背後は事務所だけだが正面にはあの時インタビューしてきたレポーターとカメラを向ける報道陣がいる。


 装着しておいて良かったボディカメラとボイスレコーダー。


 俺はあの時サッシの枠にカメラとレコーダーを設置して仕事をしていたが、他者の視線に対して違和感無く見えるのは実験済みだ。


 さらに、あらかじめ委員会でお願いしていた各TV局の生中継の映像が小さめに並んでいて、唯一あの局だけはアニメ放送だったが。


 国会内にざわめきが起きる。


 ああ、予想外だったんだな。理解できなくもないが。


 そして流れ出す弓とレポーターのやり取りをみんなが画面を注視している。


「ニュースで見たのと全く違うじゃないか……」


 呆然と述べる議員の声。


「あ、各TV局が……」

「CMに入ったぞ」

「1つだけアニメだ」

「ぶれねえな、あそこは」


 弓とレポーターのやり取りをいまだに中継してるのはニャゴニャゴ動画だけになった。


 画面内を大量の文字が右から左へと流れていく。


 画面が小さすぎて文字が見えないのが残念だが反応は上々だ。


 弓がレポーターとの話を打ち切り事務所に入った所で動画は終了した。


「問題になった場面の動画は以上となります」


 俺の言葉をよそに議場はざわめいている。


「静粛に、静粛に!」


 議長が木槌を叩いて注意し、ようやく静かになった。


 なりはしたが隣同士でひそひそと言葉を交わす議員があちこちに見られる。


「誰か、質問したい方はいますか?」


 さっと手が上がったのは開始時よりも少ない。


「JM党、✕✕君」

「ええと、倉阪弓君と言いましたね? 今の動画の解説をお願いします」

「仕事を終えて事務所の前に来た所で報道陣に呼び止められてインタビューを受けました」

「アジテレビで見た内容とまるで違う内容でしたが?」


 困惑する質問者に俺の予測を伝える。


「信じたくないけど、インタビューでの私の言葉を解析してAIでそれらしい音声をでっち上げたのではないかと。よくよく聴き比べてみてください。ニュースでの私の訛りが異なると感じられるはずです」

「……お答えいただきありがとうございます」


 マイクから離れ席へと戻る議員が左右に首を振る。


 あちこちから「これだからマスゴミは……」などという愚痴が聞こえてきた。


「えー、質問者と証人の双方の見解の食い違いは解消されたと考えてよろしいですか? それでは証人喚問を終わ」


 議長が周囲を見回し


「議長! まだあります!」

「NK党、△△君」

「フードデリバリーサービスであるバクバク・イーツの従業員が客に届けるはずの料理を食べてしまう問題です!」


 △△はこちらを睨む。


「その責任をどう取るのかお聞かせ願いたい!」

「私はそんな事していませんし、仕事を始めてから累計で2週間ちょっとしか働いてません」

「仲間の犯罪を見て見ぬふりをした時点で、あなた方は同罪なんですよ!?」

「個人で手分けして仕事をするので、仲間の状態を把握しようがありません」

「屁理屈を!」


 居丈高な奴だな。


「ちょっと確認しますが、△△議員のお考えは党の総意で合ってますか?」

「当然だ!」


 なるほど。

 俺は議長に振り向いて尋ねる。


「議長、発言よろしいでしょうか?」

「発言を許します」

「実は、この件に関しても証拠映像を持ち込んでいるのですが、再生されますか?」


 質問者の顔が引きつる。


「何?」

「許可します」

「議長!?」


 質問者の△△が目に見えて狼狽えるのをよそに、まだ片付けられていないプロジェクターに差し込んであるカードから別のファイルを読み込む。


「ちょっと細かいですけど、ざっとで良いのでご覧ください」


 弓の言葉が終わらないうちにスクリーンに映像が出た。


 それは、小さな画面が整然と並べられている動画だった。


 それぞれの画面が街中の道路を進んだり、赤信号で停止していたり、注文客に料理を渡していたりする内容だ。


「弓君、これは?」


 議長の問いに俺はきっぱりと返す。


「従業員たちが配達してる映像です」

「それが何だ!」


 △△議員の横柄な態度を半ば無視して解説を続ける。


「この映像は従業員全員の者ではありません。告発してきた新人たちがバクバク・イーツに入社する《《前に導入》》しました。もちろん、新人たちにはこの制度は教えていませんし導入するよう強制してもいません。何せ、会社から予算が降りなかったので従業員自腹でそろえましたから」


 ここまで説明すると議員たちの中にも俺が何を言いたいのか察したらしく、感心したり悔しげな表情を見せ始めている。


「だから何だ!」


 それでも、△△のような者もいるが。


「おや、理解されておられないのですか? 新人たちが従業員が配達する料理を食べたと告発しましたが、映像の通り《《新人以外の》》従業員たちは真面目に仕事をなさっておいでです。それでは一体誰が人様の料理に手を付けたのでしょうね?」

「あっ」


 指摘されて気がついた△△が声を漏らした。


「まだ疑いを持つのであれば消去法で犯人を当ててもよろしいのですよ?」


 弓の言葉に青ざめた△△は何も言わない。


「△△、もういい。下がりなさい」


 恐らくNK党の重鎮だろう、議場の議席の中からそんな声が響いた。


「あ、いえ、しかし……」

「下がれ、と言っている」

「あ、はい」


 先程まで威勢の良かった△△はすごすごと引き下がっていった。


「他に質問はありますか?」

「今は無い。……ところで、そろそろ休憩に入りたいのだが。年を取るとかわやが近くてかなわん」

「……それもそうですね。一旦休憩を挟むことにします。証人には専用の控室が用意されているのでそちらで休憩してください」


 彼の言葉に議長が同意すると議員たちが席を立つ。


 プロジェクターからカードを回収した俺は更紗と一緒に控室に向かう事にした。


 御手洗いを済ませ、控室で待機してる間に更紗と雑談を交わす。


「た……弓ちゃん、証人喚問はさっきので終わりじゃないんだね」

「そうみたい」


 まだ何かあるのだろうか?


 バクバク・イーツで起こされた問題2つは片付いたし、他に思い当たるような事は無いはず。


 となると。


「次の難癖は私か……更紗ちゃん?」


 バ美肉した俺の正体が一部の国会議員にバレている可能性は否定できない。


 そこを突かれると自白に追い込まれるだろう。


 そうなったらサッシの秘密も暴かれていらん騒動に巻き込まれるのは確定だ。


 絶対に避けなければならない。


 対して更紗は氷河期世代婚活促進制度に関わってる。


 あの制度にいまだに反対する自称フェミニストにしてみれば格好の標的だ。


 確か国会議員の中にもそういう類いの人間がいたような気がする。


 警戒せねばと、俺の独り言に更紗がびくりと肩を震わせる。


「更紗ちゃん、どうかした?」

「……ううん、何でもない」


 首を横に振る更紗だが何となく青褪めた表情をしている。


 俺が今言った言葉に何を考えたのだろうか。


「ねえ」

「あの」


 出された言葉はほぼ同時。


 お互いに顔を見合わせ、同時に手のひらを差し出してどうぞと示す。


 数秒間、拮抗したが俺が根負けして切り出す事にした。


「次に更紗ちゃんが質問されたら何か困る事があるの?」


 妻が目を見開くと苦笑いして顔を俯けた。


「……弓ちゃんあのね、私、まだ規君に話していない秘密があるの」

「……それは一体?」


 彼女は無言で表情を青くしたり白くなったり、はたまた赤くなったりと変える。


 はたから見て迷っているのは理解できた。


 焦れったいが辛抱強く待つ。


 こういうのは本人の決心が大事なので強要するのは良くない。


 やがて、何か決意したのか何時になく真剣な顔になる。


「弓ちゃん、実は」

「時間です、証人喚問を再開します。証人たちは議場へ移動をお願いします」


 役人の言葉に妻は口を無言で開閉させる。


 機会を失ったか。


「あの」

「更紗ちゃん、行こう。……大丈夫、何を知ったところであなたを嫌いになったりしないから」

「……うん」


 力無く頷く妻の手を取り議場へと踏み出した。

次話は再編集が済み次第、再投稿いたします。

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