【9】ルクトイ
やっとこ本題に入った様なない様な。
山を越えると、そこにはあたし達の想像を超えた光景が広がっていた。
落ち着け……まずは見たままを言おう。
山を越えた先には、見渡す限り何もない砂地が地平線が見える程広がっていた。
あたし達の真っ直ぐ前が西だから、見てる方向の左が南で、右が北なんだけど、その北と南には巨大な化け物がそれぞれいっぱい居て、双方で激しく攻撃しあっているんだ。
巨大な化け物達はチカチカと光り、その後敵対する相手に激しい爆発が起こる。
その度に雷を近くで聞く様な、痛々しい音が響き大地が震撼した。
『これは一体……何なんだんにゃん?』
「あれは光線ですね」
『もしかして、光線と交戦をかけたのかんにゃん』
「……え?」
何だ偶然か、駄洒落を言ったのかと思った。
『そか、ドラド村の人はあれを鬼って思ったんだんにゃん』
「えぇ、そうみたいですね」
巨大生物は確かに村長が言う様に、体長10メートルは超える巨体をしているよ。
下半身の割に上半身が異常に発達した様なその巨大生物、たまに光るのは光線の様なものを放っている為だった。
でもさ……
「残念ながら、あれは鬼じゃありませんね」
『そうだんにゃん』
鬼ではない巨大生物、それは「ルクトイ」と言う人工生命体だ。
人工という事はもちろん自然に存在する生物ではなく、人間によって作られた合成獣なのだ。
ルクトイは人型で、体は青黒い色をしている。
頭には大きな目の様なものが1つと、小さな目が複数おでこの位置に配置されている。
大きな目は遠距離までに届くルクトイの主砲で、その破壊力と来たら壮絶だ。
今撃ちまくってるのがそうなんだけど、あの一撃でドラド村などは跡形もなく吹き飛んじゃうんだろうな。
あたしがこんなものを何故知ってるかって理由? それは魔法学校の歴史で習うからなんだよ。
ルクトイは100年近く昔の世界大戦の時、マトラが使った対城攻略用の兵器なんだ。
100人の魔戦士組合員にアンケートを取ったとしても、まずガチでは戦いたくない相手と言うんじゃないかな?
それがざっくり換算で30体程見えるんだ。これだけでちょっとした戦争が起こせるよ。
「これ程の数のルクトイが居るとすると……これはどう考えても」
『お国が絡んでるとしか思えないんにゃん』
このマトラ王国は世界大戦以前は侵略国家だった、盛んに周辺の国々を次々と攻めその領地を広げていたんだよ。
そして、世界大戦後は見かけ上は大人しくなったんだけど、兵器の生産や開発は継続されているのは知っていた。
今は時代に合った小さい規模のものを扱い、それを商品として輸出するのが主だと思っていたけど、ルクトイがまだ存在していたとはね。
そうなるとこのルクトイ達は、ここで演習か何かをしてるんだろうな。
ルクトイ達の主砲は互いに相手に当たってはいない、多分わざと外しているな。
「どうします? やっぱり倒しますか?」
『まさか……国の兵器とやり合うつもりかんにゃん?』
そしたらさ、クリーダはクスリと笑ったよ。
しかも冗談で笑う感じじゃなかったんだ、これはヘタしたら本当に戦いかねない気がしたよ。
『コイツ等を動かしてるのがどっかにいるはずだんにゃん』
「えぇ、本当に戦ってる訳じゃないみたいですし、恐らく両方が見える所にいるでしょうね」
『んー、こっちにはいないみたいだし反対側かんにゃん』
「今回のお仕事のクリア条件は、騒々しい鬼を何とかして欲しいという事でしたね」
『そうだんにゃん
だから静かになればクリアなのだんにゃん』
あたし達はルクトイのいる地帯を、羽ばたき機で迂回して反対側に出る事にした。
ルクトイの主砲の音が耳に痛い、爆発の音の前に鳴る雷の様な音がとても嫌な感じなんだ。
「あれは一般的な精霊魔法と同じ方法で放たれています
威力は相当違いますが基本は同じです」
『ほほぉー、さすが科学魔導士だんにゃん』
思った通り、さっきの場所の正反対に大きなテントがいくつか見えた。
テントにはマトラ王国の旗が掲げてある、するとこれはやっぱり軍なのか?
真ん中の一番大きなテントの脇へ、あたし達の乗った羽ばたき機を着陸させた。
ともかくルクトイを移動するなり撤退するなりしてもらわないと、あたし達は報酬がもらえないからしょうがない。
着陸する前からテントから出てきた10人程の兵士に囲まれている、何だかちょっと悪い予感がするなぁ。
兵士達は剣を抜き、あたし達を警戒して取り囲んだ。
そりゃぁ、演習中にいきなり羽ばたき機で降りてくる者がいたら、不審に思うのは普通だろうけど。
「何者だ?」
その中の隊長っぽい男が、こういう場面でありきたり過ぎる言葉を投げかけてきた。
「わたし達はマトラ王国の魔戦士組合の者です」
クリーダが名乗ってバッヂを見せた。
「ふむ、ふざけた格好だがそのバッヂは本物だな」
確かに……、あたし達って思いっきりコスプレしてますからね。
「それで、組合が軍に何の用だ?」
やっぱり軍か、軍ってこんな所で演習していたのかーッ!
「わたし達は組合の業務を現在遂行中なのですが、
ここの責任者の方と少々面談させて頂けますでしょうか?」
「今は演習中だ、用事があるなら終わってからにしてもらいたい」
「そうはいきません、わたし達はこの演習の騒音被害を解決するのが今回の仕事ですから」
クリーダは妥協せず、組合の依頼書を男に見せて言った。
何者にも臆することないその度胸、コスも相まって美しすぎるぞー。
ところで、この組合の依頼書には実はちょっとした権限があるのだ、組織図では組合はマトラ王国の直下だから軍とは同じ位置にある。
簡単に言えば軍が王国のものならば、組合は民間のものという違いだね。
でもって、依頼書には王国の印も押してあり、任務遂行の為の権限を行使出来るんだ。
「そうか、ドラド村は確かにあの山の向こうだな……少し待っていろ」
今までとは一転したその男は大きなテントへ走って行った。
こういうものって軍人には特に効果があるもんらしい。ふぅ、どうやら無事解決しそうかな?
気が緩んだ所であたしは取り囲む兵隊達を横目に大きく伸びをして、しっぽをねじねじしてポーズをとって「んにゃん」と鳴いて見せた。
兵士達は決して顔は動かさず、目だけを動かしてあたしのしっぽを見つめていたよ。




