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【8】西の空

 まどろむ様な時間は儚くも終焉を迎えることになった。

 それは、西の空が赤く燃え、空気に緊張が走ったからだ。

 少しして遠くに聞く雷の様な低く重い音と、地表を伝って来た振動が山を……そして森を越えて届いて来た。


「これは……」

『うむ、ついに来たかんにゃん』


 鬼かーッ!? 鬼なのかーッ!?


 あたしが想像していた鬼の騒ぎと全然違うじゃないか。

 てっきり酔っ払った鬼が陽気にヨイヨイと踊って騒いでいるのを想定していたよ。

 だが、今の振動と音は何だ? 戦争でも始まったんじゃないか? って位のスケールだったぞ。


 あたし達はベニトを起こし家に戻る様に言うと、原因を突き止めるべく西の空を目指した。


『どうやら山を越えた先だんにゃん』

「急ぎましょう」


 村は小さな山に囲まれた盆地になっている。

 そして、鬼が起こしていると思われるその音は、その山を越えた先から聞こえて来ている。

 しかし、小さな山と言っても実際には相当な距離があり、山頂にたどり着くのに一時間位かかってしまうかもしれない上に、道中には灯りがない。


『待った!

 この夜道を走るのは無茶というもの、なので乗り物を作るんにゃん』

「そうですね、真っ暗ですから」


 あたしは両手を「パン」と合わせ、辺りに小気味よい音を響かせると地面に手を付けて小細工魔法を使った。

 手をついた地面から光の円形の図形が現れ、そのお陰でつかの間だが闇を照らす事が出来る。

 辺りにはブンブンと言う物の飛び交う音や、その物が削れる様な音が響き、少ししてその音は治まった。

 円形の図形もそれと同時に消えて行き、また周囲は暗闇に戻った。


「今のアクション、今までの中では一番良かったですね」

『ふっふーん、やっぱりそう思うかんにゃん?

 人気漫画「赤毛のレンコン地主」から頂いたんにゃん』



 この「赤毛のレンコン地主」の物語は、主人公がレンコン地主だけにレンコンネタだけで構成されている。

 レンコンをいかに短時間に多く刈取るかを、何故か次々現れるライバルと勝負し、毎回苦戦の末勝利するというのが大体の大筋だ。

 また、レンコン界には10日交換という絶対的なルールがあり、一つの畑は10日刈取ったら次は別の畑で刈取らないといけないというものらしい。

 そうしないと畑のレンコンが育たないかららしいんだけど、いいレンコンを作る為には絶対守らないといけないんだとか。

 途中で10日交換のルールを守らない「悪いレンコン地主」が登場し出して、物語は以外な方向へと進んでいくのだが……その話はまたの機会があったらするとしよう。

 ともかく、読むと必ずレンコンに詳しくなるという今どき珍しいタメになる農作漫画なのだ。

 あたしがしたアクションは、主人公が刈取る時のモーションそのままである。


 主人公とごく一部の登場人物は刈取りが熟練しているので、パンと手を合わせて水に波紋を与えるだけで、どこにレンコンの根が這っているかを知ることが出来るんだ。その後はうまく引っこ抜くだけ。

 円形の図形は、主人公やライバル達が刈取る時に現れるものなんだけど、多分圧倒的な熟練度を読者に分りやすく表現する為に付加された効果なのだろう。

 コマの背景によく「ゴゴゴゴ……」とか「ザワザワ」とか書かれてるのと同じ様に、場の雰囲気を出しているだけで実際に図形が現れてる訳じゃないんだろうけど、それを付けると付けないとじゃ重さが全然違うのが不思議な所だね。


「えっと……それでこれは一体何なのですか?」

『山道がダメなら空を飛べばいいじゃないのかんにゃんッ!?

 って事で、羽ばたき機を作ってみたのだんにゃん』


 あたし達の横には、細長細い胴体に4枚の大きな羽を持つ羽ばたき機が出来上がっていた。


「羽ばたき機? 鳥みたいなものでしょうか?」

『ビンゴだんにゃん!

 さぁさ乗った乗ったーッ!』


 羽ばたき機にまたがると、あたしは羽ばたき始動の魔法をかけた。

 4枚の羽が交互に羽ばたき始める、それは鳥じゃなくてトンボに近かった……想像とちょっと違ったけどまぁいいや。

 羽ばたきは段々と速くなって行き、胴体はあっけなく地面から離れた。


『ヨッシャーッ! 大成功なのだんにゃん!』

「すごいすごいッ! やりましたね!」

『フッフッフッ、あたしが居れば乗り物には困らないんだんにゃん』


 これで少しは点数が稼げたかな?

 少なくとも移動する事が多い旅に、乗り物が提供出来るっていうのは絶対便利だと思ったはずだ。



 西の空は尚も真っ赤に燃え、雷の様な低い音が不定期に響き渡っていた。

 森の上をワサワサと言う音を撒き散らして飛行する巨大な羽ばたき機、うーん……辺りが真っ暗過ぎて木に当たらないか心配だなぁ。

 あたしはもう少し高度を取る事にした。


 ――すると


 後ろに乗ってるクリーダの、あたしにしがみ付く強さが一気に強くなったよ。


「高いとこは少し……怖いです」

『落ちないようにしっかりつかまってるんにゃん』


 そう言ったのは間違いだったかもと少しだけ思った。

 そもそもつかまるハンドルはちゃんと作ったのにそれを利用しないで、ニッコリしてあたしにしがみ付いた時から分っちゃいたんだけどさ。

 だってね、クリーダはあたしの首の横に顔を出してはいるんだけど、前なんか見てやしないんだよ。

 ギュッとして首の辺りにすりすりしてるんだ。


「首……いい匂いがします」

『うむ、それは良かったんにゃん』


 分るかな? 匂いって重要なんだ、大体高感度を感じる相手からって好きな匂いがしてるもんなんだよね。

 どんなに見た目で気に入っても、匂いが好みじゃないと全部ダメになっちゃいかねない。

 人間は人それぞれ違う体臭を持っているけど、それが重要とされるのは動物的な感じがして不思議だな。


 クリーダはよっぽどあたしの匂いが気に入ったのか、執拗にクンクン嗅いでるよ。


『うぎゃーーッ! くすぐったぁいッ!!』


 うひーッ! 場所を考えないと落ちますぞーッ!

 多分、今は地面から50メートル近くの高さで飛んでるはずだ、落ちたら多分……ちんじゃう。


 もちろん落ちる訳にはいかないから何とか踏ん張ったさ。

 こんな所じゃなければ嫌じゃないんだけど、前に乗ってもらえば良かったかなぁ。

 あぁ、現場に到着する前に随分と体力が……タヒ。


 炎の灯りに照らされた山の頂上を、あたし達は足元に見下ろして通過した。

 そして、山を越えた先に見えたものは……更にあたし達の想像を絶する状況だった。


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