【7】目的
ベニトはあたしとクリーダに挟まれた形の中、すっかり眠ってしまっている。
――そして
はてな? はてなはてな?
あたしは今起こっている出来事が何なのかよく分からないんだ、クリーダは一体何をやってるんだろう? って見てる感じなの。
小さい子にいい子いい子ってする様に優しく撫でてるんだ、その表情はとても優しい顔をしていたよ。
でも、どうしてこうなった? 暫くしてやっと思考が動く様になり、あたしは口を開く事が出来た。
『どういう事?』
「見ての通りそのままです」
見ての通りってどういう事?
クリーダは髪を撫でるのが好きなの? それともあたしの事がが好きなの? はては女の子全般に好きって事?
どれだとしても、クリーダの目は少しも隠すことないって目をしている。
『分かった様な分からない様な感じ……』
「偶然なのです」
『うむ?』
「あの街で偶然あなたを見かけたのですよ」
『ほほぉ、それは偶然そうだ、してどこで見かけたのかな?』
「あれは、教会の建てかえでしょうか? その建築現場です」
『おーッ! 懐かしい!
そんな事もしたもんだ、もう一年近く前になるっけね』
「その前を通り過ぎようとした時、目に止まったのがあなたでした
あの教会はあなたの魔法で作ったのですよね」
『そうそう! へぇーッ!
でも通り過ぎただけなのに、よく覚えてたねぇ』
「えぇ、その向かいの宿屋に泊まって毎日様子を見てましたから」
『おぉーッ!? なんて暇人! でも何でまた?』
「わたしは魔戦士組合の帰り、あなたを気に入ったって言いましたよね」
『うんうん、言ってた言ってた』
「なので、どうすればあなたと仲良しになれるか考えてたのです
まず、あの街に引っ越して、次にあなたの家の前を散歩コースにしました」
『ほぇー、そんな事まで、、それからどうしたの?』
「いっその事手紙を書こうとも思ったのですが、それも不自然ですし……」
『そんな事ないと思うよ、手紙書いてくれれば良かったのに』
「考え抜いた末、魔戦士組合のチラシをポストに入れてみました」
『あぁッ! 入ってたーッ! それで魔戦士組合に入ったの
でもそれって結構最近だよね?』
「そうですね、ずいぶん時間がかかりました、話しかけるきっかけが出来るまで
そして今やっと触れる事が出来ました」
『ふむー、一年近くも見られてたとは知らなんだぁ』
へぇー、クリーダはこの一年あたしをずっと見ていたのか、常識で考えれば気持ち悪い事だけどクリーダなら全然そう思わなかった。
こんなに美しい人でもそんな事するんだ、見た目からは想像がつかないなー。
「正直に話しました、気分を害しました?」
『いんやー、よくもまぁあたしなんかをとは思うけどさ』
「わたしはあなたと仲良くなりたかった、ただそれだけなのです
無理に理解してくれなくてもいいですよ」
あたしはクリーダの長く綺麗な黒髪を指で梳かしてあげたら、彼女はとっても嬉しそうな顔をしたよ。
ちょっと冷たい手触りのツヤのある髪、あんまり人にこういう事ってする事ないからまたちょっと不思議な感じがする。
クリーダの雪の結晶のピアスがランプの光を反射して綺麗に光ってゆれた。
「あんまりドキドキしてないんですね」
クリーダがあたしの胸の鼓動に触れて言った。
『うん、結構何ともないみたい』
あたしは少し起き上がってクリーダの胸の鼓動を確かめてみた、彼女のやわらかい肌の感触と体温が手に伝わって来る。
そして、心臓の鼓動が脈打っているのがわかる。その鼓動はトクトクと早くなっていたよ。
「わたしなんて目が回りそうな位ドキドキしてるのですよ、ちょっと……ズルイですね」
悲しそうな嬉しそうな、何とも言えない表情をするクリーダ。
その時、クリーダの顔が不意に近づいて来て、いきなり目の前が真っ暗になったんだ。
あぁそうか、あたしが無意識に目を閉じたんだね。
そしたら、唇にやわらかな感触と暖かさが伝わってきたよ、耳を澄ますと凄い近くにクリーダの息遣いが聞こえた。
そして、クリーダはあたしを確かめるように手を這わせ、背中に手を回したらギュっとしてくれたんだ。
ギュっていいなぁ、これってするのもされるのも大好きなんだ。心地よい安心感がするんだよ。
あたしもクリーダの背中に手を回してみた、彼女の背中は思ったよりずっと小さくて華奢だった。
指で背中の薄い肉の下にある骨の感触や、肩の骨格を確かめる。それは雑に扱ったら壊れてしまいそうな繊細さなんだ。
身長はあたしより10cmは高いのに、こんなにも弱弱しかったんだ。
世間で言う所の「守ってあげたい」って思わせるタイプには間違いないんだろうな。
でも、クリーダはあたしと仲良くなりたいって思って、一年近くかけてそれを実現させようとしてる。
欲しいものは手に入れたくなるなんて弱い人間なら言いそうもないし、本当のクリーダってやっぱり強いんだろうか。
思った事を実現させられるなんて凄いなぁ、偉いなぁ。
そこへ行くとあたしはどうだろう、何を目的に魔戦士組合に入たのかすらハッキリ言えるものがないんだ。
ただ、入ったら何かが変わりそうな気がしたんだよ。何か見つかるんじゃないかって思ったんだよ。
クリーダが魔戦士組合に入ったのって、やっぱりあたしが入ろうとしたからなんだろうか。それともあたしと一緒に行動したくてチラシを入れたのかな?
もし、クリーダが目的を完全に果たした後どうするのかな? 目的を達成したら「ハイ次」ってなっちゃうのかな? それとも、ずっとあたしと一緒に居たいとか思うのかな?
あたしから興味を失ったりしたらちょっとイヤかもしれない。
「ふふっ、やっとドキドキしてくれましたね」
少し不安を感じたからかな、何だか急にドキドキして来たみたいだ。
『あ……』
「不安を感じてくれたんですね? ……うれしい」
そっか、クリーダも少しは不安に思っていたんだろうね。
それってどんな不安だったのかな? あたしに拒否される事への不安だったのかな?
そう思われてたならちょっと嬉しい、あたしは何だかクリーダがだんだん愛おしいく思えて来たんだ。
きっと今までは見た目だけで見ていたんだね、感情に届くものが出来ると全く感覚が変わってくるって今知ったよ。
あたしはこれからどうして行ったらいいのかな?
漠然と仕事をうまくこなせる様になればいいとか、楽しく出来ればいいなんてものじゃ足りない気がする。
出来ればクリーダにとって、真になくてはならないものになれたらいいなぁ。
そうだ、あたしはこれからそれを見つける為の旅をする事にしよう。
夜行性の動物の声を遠くに聞きながら、闇夜のツリーハウスを照らすランプの下で寝息を立てるベニトを挟み寄り添うあたし達二人の影が小屋の壁に映っていた。
「ありがとう、んにゃんを付け忘れてくれて」
クリーダに言われて初めて、あたしは口調を変える事を忘れていた事に気がついた。
設定上はずせない為、少しGLを挟ませてもらいました。
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m