【6】ツリーハウスでの不思議な体験
子供リーダーのベニトのお陰でお腹を満たせたあたし達は、村の周辺を一回りして来る事にした。
もう少し暗くなってるけど、見ておいた方がいいからね。
村の入り口でベニトの言っていた2本の木を見つけた。
『ふむー、これかんにゃん』
「えぇ、結構ありますね」
二本の木は幹の太さはそんなにはないから多分若い木だね。高さも5メートル位かな?
と、いう事は鬼の大きさはやっぱり10メートル位はあるって事か、30が10になってもデカい事には変わらないな。
問題はその鬼がどんな戦法を取るかだね、あたしの想像だとイボイボの付いた大きな棍棒を持っていて、それを力任せにただ振るうだけなんだけど。
これはどうでもいい事だけど、鬼はトラの皮で作ったパンツを履いているって言われている。
もちろん物語での話しだけど、そんな大きい体だと何匹分必要になるのやら。
今回の仕事、鬼が何を目的として暴れているのか分らないけど、討伐が依頼だから分ろうが分るまいがただ鬼を倒せばいいんだけどさ。
だからと言って、1匹倒してゾロゾロと他の鬼が現れたらちょっと困るな。
暴れてる鬼を倒しました、そうしたら大勢鬼がやって来て村がやられました、じゃぁやっぱ完了のサインはもらえないだろうし。
なら最初は鬼に暴れている目的を聞くべきなんだろうね、鬼に言葉が通じればいいけどさ。
『それじゃ外を見回って来ようかんにゃん』
「えぇ、ちょっと暗くなって来ましたし急ぎましょう」
あたし達は村の外に出ると周辺探索兼、見回りを開始した。
村の周りは森になっていて、その後ろはいくつもの小さな山になっている。
森は木の密度も高さもそれ程ではなく、山道も整備されて歩きやすい。
森を歩いていると小動物がちょろちょろ辺りに走るのが見え、鳥達が日暮れの為巣へと帰る様子が見れた。本当にごく普通のきれいな森だ。
『ごく普通の森だんにゃん』
「そうですね、わたしは靴のせいで少し歩きにくいですけど」
足音をトントンと鳴らしながらクリーダが言った。
クリーダの靴は、あたしが小細工魔法でロングブーツにしちゃったからね。
山には向いてない靴だけど、この仕事が終わるまではそれでガマンしてくれ。
村の周りを軽く一周して村の入り口に入った頃、すっかり辺りは暗くなっていたさ。
あたし達がこの村に乗ってきた木馬の荷馬車の前に戻って来た。
「ここで待機するのも何ですし、小屋か何か作れますか?」
『よし来たんにゃん』
あたしは大げさにピアノを弾く仕草をして、最後によっと言う感じに小細工魔法を使った。
荷馬車の材料といらなそうな廃材が丁度側にあったので、それも有効利用させてもらった。結構いいものが作れたと思う。
あたしが作ったのは、木の上に家があるツリーハウスだ。
屋根に荷馬車に積んでた干草を使ったからかそれっぽく見えるじゃないか。
実は、こういうのってずっと憧れてたんだよ。
だけどさー。
『うへ……真っ暗だんにゃん』
「暗過ぎて木に登るのは難しそうですね」
辺りはホントに真っ暗なんだよね。
ランプを作れそうな素材があればいいんだけど、作っても肝心の油がないナァ。
松明とかじゃうっかり全部燃えそうだし……。
あたしとした事がぬかった、昼のうちに何とかするべきだったよ。
村長に言ってもらおうかな。あんまり会いたくないけど。
「お前たちここにいたのかー!」
声のする方向に振り向くと、ベニトが灯りを持って立っていたよ。
『どうしたんにゃん?』
「母ちゃんがどうしてるか見てこいってさ」
『ふーん、そんなウソついてー
そんなにあたし達が気になるんだんにゃん?』
「バァカ! お前達なんか気になる訳ないだろッ!
でも真っ暗だなー! このランプ使うか?」
『おーッ! ベニトはナカナカ気がきくんにゃん
丁度今そんなランプが欲しかった所なのだんにゃん』
あたしはベニトの頭をぐりぐりしてやった、まさかこんなに役に立つとは思わなんだ。
「イテテ! やめろよぉー!
ん? そこに何か作ったのか? おぉ!?」
ベニトは木の上のツリーハウスを発見して、そりゃぁ大興奮だったよ。
そう言えば、あたしも夢見た頃はベニト位の年の頃だったっけね。
クリーダがベニトが持ってきてくれたランプを、ツリーハウスの入り口側の天井に吊るしてくれた。
身長的に屋根に手が届くのはクリーダだけだったんだけど、それはしょうがない事って事さ。
入り口に吊るす事で、木に付けたハシゴが見えるのでここへの上り下りが可能になるのだ。
「こんな感じでしょうか?」
『いい感じだんにゃん』
ランプの灯りは暗闇に慣れた目には十分明るかったよ。
所でこのツリーハウスは床面積は荷馬車ベースって事もあり、せいぜい3人が寝そべられる程度の大きさしかない。
はじっこに荷物を置くとかなり狭くなる、もしベニトが大人だったらかなり窮屈だったろうね。ホント、子供でよかった。
ベニトが少し眠そうにしていたので、あたしは荷物袋から毛布を出してかけてやった。
『ねーんねーん、とーんとーん』
「うぅーん、子供扱いするなぁ……」
せっかくだし添い寝してトントンしてあげたら、ベニトは寝言の様にそう言うとすうっと寝てしまったよ。
やっぱ小さい子ってかわいいねー、その寝顔を見てギュッとしてあげたいって思ったさ。
「何してるんですか?」
『ギクり』
クリーダにベニトをギューってしてるのを見られてしまった。向こう向いてるのを確認したのにここぞと言う時にやたらと目ざとい奴だ。
『ベ、、ベニトが寒そうだったからんにゃん』
「へぇ」
その「へぇ」って言うその表情、ちょっとにやりとしてるじゃないか。
クリーダって鈍感そうに見えるのに、洞察力センサーはやたら高性能なのかもしれないな。
「それじゃ……」
はてな? 何故かクリーダも混ざってきたよ。クリーダって少年スキーだったのか?
あたしとクリーダはベニトを挟んで向き合った。何だろねー、この図って。
だけど、クリーダの目はベニトじゃなく真っ直ぐあたしを見つめてたんだ。
美しい顔で見つめられたら見つめ返したくなるからね、あたしもクリーダをずっと見つめてた。
クリーダが微笑めば、わたしも微笑み返すと言う。何か不思議な感じがするなー。
――ハッ……!?
<それにわたしはあなたと、あなたの小細工魔法士というクラスがとても気に入りました>
最初に出合った時、確か「あなたと」ってクリーダは言った。ってまさかね……。
でも、毛布の内側からすすすっとクリーダの手が伸びて来て、あたしの髪を撫でたんだ。なんにも言わずにずっとね。
不思議な事にあたしも全然嫌って思わなかった。ごく自然に感じられたよ。
何なんだろうこの状況……って不思議に思っていたら。
「欲しいものは手に入れたくなるものです」
一言だけクリーダが言ったんだ。
その欲しいものって、あたしの事なのかな?
ツリーハウスの薄暗いランプの下、あたしはそんな不思議な体験をしたんだ。