【59】トリックススターズ・スプレンデンス
翌早朝、まだ空が暗いうちにあたし達はリドナを出発しようとしていた。
出発の前にみんなに挨拶しておこう……って思ったけどミメットは寝たままか。
あたしはミメットの枕元へ、戦いで砕け散ったメガネを密かに修復しておいたものを置いた。
それから他の起き上がって手を振る組合員達に軽く挨拶すると、あたし達5人は乗り物に荷物を載せ乗り込んだ。
因みにヘリオの剣は想像以上に長く、乗り物の後ろのドアからドーンと飛び出しちゃってる。
ま、しょうがないね。いっそのこと途中で折り曲げてやろうかとも思ったけど、ヘリオの大切な剣だからやめといた。
ヘリオの剣の横には、あたしの赤い剣も並んでる。魔法を使う時の新しいアクションのバリエーションも増えそうだ。
「忘れ物はないな?
んじゃ、出発するぞ」
『よろり』
結局、乗り物はヘリオが運転する事になった。この乗り物を軍にもらってから、あたしは乗り物を用意しなくて済んでる。
あたしが魔法で作り出す乗り物って、他の人には運転出来ないから重宝するな。
まだ夜が明けない薄暗い中、白い花の様な乗り物は照明で辺りを照らしながらゴトゴトと動き始めた。
「ヘリオさん運転お願いしてすみません」
クリーダがヘリオにさりげなく労いの言葉をかけた。
「いやぁ、近いしどうって事ないさ」
スフェーンとシンナバーは何度起こしてもちっとも起きなかったから、荷物と一緒に詰め込んでおいた。寝てくれてるお陰で乗り物は静かだけどね。
『ところでさ、何でこんなに早く出るんだんにゃん?』
「軍の話ではマトラへは2~3日中にって事だったのですが、時間は午前中を指定されてますからね
今出れば今日の午前中には着けるのですよ」
『そか、まーさっさと100万丸貰って帰りたいんにゃん』
ただ行くだけで100万丸貰えるなんて思っちゃいないけど、もし条件があるならそこで考えればいい事だ。
「よし街道に出た、少しだけスピード出すぞ」
マトラに続く街道は道がまっ平らで速度が出せる、その距離はリドナから近いと言っても宿場町だから歩きで丸一日とかかかるんだろう。それが乗り物なら朝の早いうちに到着する事も出来ちゃう訳だ。
マトラの街の関所の高い塀を通り抜けると、目の前に超巨大な街が現れた。
城下町の建物は全てが統一された雰囲気をかもし出していてリドナよりもずっと規模が大きく、はるか彼方にお城の建物が少し霞んで見えた。
マトラは早朝から人々で活気あふれていた。
「さすが王国の首都だけあってすげぇな」
『うむ、まるで未来の世界に来たみたいだんにゃん』
なんと道は石畳ではなく、濃い灰色をした不思議なもので覆われていた。触ってみたら石みたいには硬いけどちょっと違っていて、あたし達の他にも乗り物がいくつも動いていた。
中央に向かって伸びている大通りの左右には、お洒落な街灯が並んでいた。人々の格好も何だか垢抜けて見える。
「街の見物をしたい所ですけど、それは後にしましょう」
「そうだな、まずは城に行ってからがいい」
中央の大通りの行き止まりには大きな広場があり、中央に銅像があった。すごく威厳がありそうな人の銅像なんだけど、これがマトラ王だったりするのだろうか?
そして、その広場から先がお城へ続く入り口らしく、上に跳ね上がりそうな橋がかかっていた。その橋の幅は人が二人が並んで通れる程度に狭くなっている。多分、一気に攻め込まれない為の工夫なのだろう。
あたし達はここで乗り物から降りて歩く事にした。スフェーンとシンナバーはやっとここでお目覚めだ。
「うーん……もう着いたのぉ? んー……よく寝た」
「あっりゃー、いきなりお城のまん前って言うのも感動がないもんだッ!」
いきなり到着しててさぞ驚くかと思ったらずいぶん地味な反応だな。
ともかく中に入らなきゃ、衛兵に軍からもらった礼状を見せると案内人が来るまで少し待つ様に言われ、やがてその案内人らしき人物がやって来た。
その人物はお城の文官っぽい身なりをした女性だったよ。
「皆さん随分とお早い到着でしたね、では控えの間へ案内しますので後に付いて来てください」
あたし達は少し緊張しながらその女性の後ろについて歩いた。おそらく時間外は畳まれると思われる橋の上を通り、お城の中へと続く石で出来た立派な通路を歩いた。
『案内してもらうのはいいんだけどさ、この後何するのかんにゃん?』
「さぁ……、そこまでは聞いてないのでわかりません」
「んー……、勲章とかもらえたりしてねぇ」
勲章ねぇ……、確かに遠からずの様な気はするけどさ。こういう展開な場合、もらった後に何かありそうな気がする。騎士として迎える代わりに国の飼い犬になれとかさ。
「なら、おチビの勲章はきっとおチビで賞だねッ!」
『そだね、シンナバーのは存在が毒で賞かもしれないんにゃん』
「わぁー、いいねソレッ! 楽しみぃッ!」
くぅぅコイツ……かなり出来るな! いつか必ずギャフンとか言わせてやる!
「お城の中ですよ、静かにしましょう」
『うはぃ』
ちッ、変な振りされたせいでクリーダに注意されちゃったじゃないか。変な振りをしたシンナバーはクスクス笑ってる。
それから更にかなり歩いてやっとこ控えの間に到着だ。いやぁ……お城って思った以上に広いんだね。お城だけでベイカの街より確実にでかいと思う。
「すぐにお茶の用意をいたしますので、くつろいでお待ちください」
通された控えの間には長く立派なテーブルがあり、その左右にいくつもの椅子が並べられている。
部屋にあるものはどれも気品漂う立派な作りだ。これは一般市民への待遇とは思えないな。かなり期待してる反面不安にもなって来たよ。
「さて、オレは時間まで寝るわ」
ブッ、ヘリオはこんな所でも寝られるのかッ! クリーダは礼儀正しく椅子に座っているってのに。
スフェーンとシンナバーは相変わらず楽しそうにお喋りしてクスクス笑ってる。全くもって学校の休み時間のノリですよ。そうじゃなくてもあたし達って完全に場違いな感じなのに。
その後、さっきの案内人の女性が言っていた通りお茶が配られた。そのお茶は初めて嗅ぐとてもいい香りのするお茶だった。
『これはッ……きっとすっごく高いお茶だんにゃん』
「んーいい香りねぇ、どこで売ってるのかしら?
シンナバー、後で街のお店を探してみなーい?」
「うんうん、街を探検だッ!
スフェーンが隊長であたしが副隊長、後のみんなはただの隊員だよッ!?
あたし達の言う事には絶対服従だからねッ!?」
『あー、はいはい
あんたらの能天気さが今は頼もしく思えてならないんにゃん』
一息ついた頃、案内人の女性が説明を始めた。
「では、改めまして
マトラ城の武官の一人を務めるアルミナです
今回あなた達がこのマトラ城に招待された理由を説明させて頂きます」
このアルミナって人、服装や体格から見て文官にしか見えなかったけど武官だったのか。って事は魔法使いなのかもしれない。アルミナは説明を続けている。
「ご存知とは思いますが、このマトラ王国は魔法や兵器を開発していて、それを他国へと輸出しています
周辺の国々ではまだ魔物との緊張が現在も続いている国もありますので、その需要も高い訳です」
それはみんな知ってる事だね、魔物と人間との戦いはずっと続いてるんだ。一体何を争っているかってのは簡単な事で、どちらがこの世界に君臨するかって事らしいよ。
魔物達は人と共存しようなどとは思っていない、人間を滅ぼして魔物達がこの世界を治めようとしてるってみんな学校で教わっている。
「もちろんこのマトラ王国も諸国の例外ではなく、魔物とは常に対立しています
現在、我が軍は南方の守りを強化している状態です」
何かアルミナの話は切羽詰った感を感じるな。悪い予感が当たらなければいいけど。
「単刀直入に申しますと、南方に人材を集中しなければならない事によって、国内は深刻な人手不足が起こっています
特に優秀な人材、つまり強力な力を多く必要としています」
アルミナは両手を机に手を付いて力説した。
「魔戦士組合を王国が設立したのはその様な状況の為、一般国民からも人材を発掘しようと言う試みによるものです
組合員へ支払われる報酬の半分をも王国が負担しているのは、その様な理由があってなのです」
報酬の半分を国が負担してるなんて知らなかったよ。恩着せがましくこう言った後には何かしら取引とかありそうだけどさ。
「そこで今回計画を一歩進め、魔戦士組合員の選りすぐりの人材に、トリックススターズ・スプレンデンスという称号を与える事になりました」
計画? トリックススターズ・スプレンデンス? なんじゃらほい?
称号長いな……、それって騎士みたいなもんだろうか。
「ご心配なさらずとも王国からの束縛等がある訳ではありません
他の組合員の方々の指標と言うわけです」
うーん……ランク一でもそのトリック何とかになれちゃう訳? 何だかなぁ……、あたしとか目指したいなんて誰か思ったりするんだろうか? 少し無駄な心配が増えたぞぉ。
トリックススターズ・スプレンデンス、明日になったら忘れてしまいそうな称号をあたし達は王国からもらえる事になったんだ。
トリックススターズ・スプレンデンス、無理やり単語を今出した感もする様な。ない様な。
トリックススターズはありがち単語なので置いといて、スプレンデンスは美しい容姿とは似つかない好戦的なあの熱帯魚から頂きました。
前に飼った事があるのですが、エサをあげるとすっごいかわいかったです。
Twitterやってます(無駄なつぶやきと変な毒)
http://twitter.com/erimakineu
Mixiも同じ名前で登録してますのでよろしかったら盗み見とかしてみてくださり^^
でわなたです~!




