表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/60

【5】ドラド村の夕刻

 あたし達はワンパク坊主の家でたんまりとご馳走になった。

 ここの郷土料理なのかな? 出された料理はとっても美味しかったよ。


『ふぅー、おいしかったんにゃん』

「とてもおいしかったです、ご馳走さまでした」

「はいはい、お粗末さま」


 ワンパク坊主のお母さんが、ニコニコして言った。

 最初はずいぶんとビックリしてたけどね、そこはこのワンパク坊主がちゃんと説明してくれたさ。さすが子供リーダー。


「へへーッ! なんたってうちの母ちゃんの料理は村一番だからなッ!」


 ワンパク坊主は人差し指を鼻の下でゴシゴシして得意そうだった。因みにゴシゴシってやる仕草をする子供を今日初めて見たよ。


『よしッ! お返しとしては足らないけど、いいものをあげるんにゃん』


 あたしは荷物袋からとっておきのものを出し、テーブルの上に並べた。


「お? なんだこれは?」

『あたしのとっておきのお菓子なのだんにゃん

 みんなで食べるのだんにゃん』

「これって食べれるのかー?」


 事もあろうか、ワンパク坊主はあたしの出したお菓子を不信の目で見ている。

 ゲジゲジの主人公達は食べるものが基本的に違うからなー。

 トカゲとか虫の幼虫とか食べるからなー。


『まぁまぁ、すっごくおいしいから食べてみるのだんにゃん』

「虫とか入ってないだろうな」

『入ってないんにゃん! ほれほれっ!』


 あたしはお菓子をワンパク坊主の口に無理やり入れてやった。


「うぐぅ……!?」


 しかめっ面をする子、まだ信用してないな。


『どうだんにゃん?』


 少ししてハッと言う表情をする子供、スイーツ大好きなあたしのとっておきが不味い訳がなかろう。

 無我夢中で食べつくすワンパク坊主は、素直な田舎の子供らしさが満点だった。

 具体的には両手にお菓子を持って、互い違いに食べる仕草なのだ。これも今日初めて見たよ。


「もぐもぐ、んぐ、、これってお前が作ったのか?」

『まさかー! あたしに作れる訳ないんにゃん!

 お店で買って来たんだんにゃん』

「そっかー、虫とか食べてる位だし料理とか作れないよな」


 虫はともかく、作れないについては余り反論は出来ないな。

 料理は一応するけど、本の通りやってるのに何故か同じにならないんだ。

 トマトを入れて、水っぽさがなくなるまで煮込むって書いてあったとして、まず最初から汁気がない。全くない。

 素材のチョイスのせいなのか、どこかで間違っているのかはわかんないけど、説明書き通りにやってるのに全然同じにならないんだ。

 しょうがないから、わざわざ水を足して水っぽさがなくなるまで煮込むんだなー。

 出来栄えはイマイチ、それでも味はまぁまぁなんだけど、出来たものが果たして説明通りの産物なのかはちょっとあやしい。


『そういえばボクの名前、まだ聞いてなかったんにゃん』

「ベニト」

『ふんふん、ベニトって言うんだんにゃん

 あたしはねー』

「知ってるよッ! 娘ネコだろう?」

『あぅん』

「それでそっちが氷女」

「はい、氷女です」


 ベニトにクリーダがニコっと微笑んだら、ベニトったらちょっとモジモジしてやがったよ。

 クリーダはこんな年端も行かない子供すらドキッとさせちゃうんだな、きっとあたしが同じことやってもダメなんだろうけど。


「お前たちってさ、ゲジゲジのゲジローの手下なんだろ?」

『仲間って言えだんにゃん!』

「でもさー、氷女は氷使うから強いけど娘ネコって弱いよな? 活躍した事なんてないし」


 確かに……、娘ネコは喧嘩っ早いから真っ先にかかって行くんだけど、いつもすぐにやられて逃げてる気がする。

 男ネズミと同じくゲジローの引き立て役って位置付けだろうね。


『そ、そんな事はないハズだんにゃん』

「鬼は大きいからすっごい強いんだぞ、ゲジローは来てないのか?

 オレはきっとまたすぐ負けちゃうと思うんだけど……

 あッ!! そうか! 最初にお前達がやられて、後でゲジローが敵討ちするんだろ!!」


 ゲジロー役が居ないんでね、それより勝手に盛り上がりそうなストーリーを創作するなよ。


「ベニトさんは鬼を見たことがあるんですね」


 クリーダは村長から聞いた適当な鬼情報を補填しようとしているのかな?

 それにしても、子供に対して「~~さん」って言うのはどうなんだろ。


「当ったり前じゃん! 見たことあるよ!!

 すっごい強くて大きいんだぜーーッ! 鬼!!」

「それはどの位の大きさですか?」

「街の入り口に2本木があるだろ? それの倍位はあったな」


 村の入り口の木ねぇ……どんなだったかな、全然気にしてなかったよ……木だけに。


「それは大きいですね

 鬼が暴れている所も見たのですか?」

「あぁ、見たさ」

「その鬼はどうして暴れていたのですか?」

「そんなの知らねーよ! 鬼に聞けばいいじゃん」

「そうですね、直接聞いてみる事にします」


 そう言ってクリーダがまた微笑むと、ベニトはまた頬を染めた。


『おんやー? 顔が赤いって事は~、もしかしてベニトはク……じゃなくて、氷女が好きなのかんにゃん?』

「うッ、、うるさいッ! そんなんじゃねーよッッ!!!」


 何かうつむき加減になっちゃって、やっぱり子供って素直だねー!

 この子の初恋の相手はクリーダだったりして、ベニト本人はゲジゲジの仲間の氷女って思っているから残念だけどさ。


『じゃぁ、ベニトは誰が好きなのか言ってみるのだんにゃん

 やっぱりあたしかんにゃん?』

「バァーカッ! お前みたいなチビな訳ねーだろッ!」

『なぁ~にぃ~ッ!? あんたの方がもっとチビだんにゃん!』

「バァーカッ! バァーカッ! へっへーッ!」

『こら待つのだんにゃん!』


 あたしはとんだ失礼な事を言う、ワンパク坊主のベニトを追いかけ回してやった。

 小さい子に言われても「な訳ねー」って辺りはちょっとキズ付くんだよ。


「結構お似合いですよ、娘ネコさん」


 って言うクリーダって、ちょっと本気で言ってそうな気もするナァ。

 あたしとクリーダと出会ってまだ日が浅い訳けど、まだ彼女が何を考えてるかよく分からないんだよ。

 穏やかな口調の奥で、すっごい闘志が燃えてる時があるのは分ったけどね。


 思えばクリーダって結構近くに住んでたみたいなのに、なんであたしは彼女の事を知らなかったんだろ?


 ドラド村の夕刻は少し騒がしかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ