【43】種ゲッツの予感
まさかあの誓いの言葉が今ここで出て来るとは思わなかった。
あたしはヘリオの腕からずり落ちへたり込んだまま俯いていたんだ。
でもそれは、誓いの言葉をヘリオに言ってしまったショックからじゃなくて、本当に体に力が入らなくなってしまって立てないんだ。
頭と体が食い違ってるのって気持ち悪い、頭では立ち上がろうと思ってるのに何故体が言う事を聞いてくれない。
「お前達って……そういう関係だったのか」
ずっとそのままで立ち尽くしていたヘリオが遂に口を開いた。
『うん……ごめんなのだんにゃん』
座り込んで俯いたまま返事をするあたし。
「謝る必要なんてないさ、多分そういう場合もあるんだろうし
オレにはちょっとよく分かんない世界だけどな」
その言葉に対してあたしは黙っていた、こういう事はきっと言葉にしてしまうと多くの情報を失って正確に伝えられないから。
暫く経ってもまだ立ち上がれないあたしを見かね、ヘリオはお姫様抱っこしてくれた。
抱っこしたまま来た道を引き返して進むあたし達。
『いつもすまないねぇー』
「今回が初めてだろ……、
だけどお前大丈夫なのか? 立ち上がれないなんて、ちょっと体も熱いみたいだし熱が出てるんじゃないか?」
『いんや、大丈夫だんにゃん
これは多分生理が近いせいだと思う……やたら眠いし』
「ふーん、女って大変なんだな」
『この所忙しかったからすっかり忘れてたんにゃん』
ヘリオは少しの間、何か考えてる様な顔をしていた。
「なぁ、明日の作戦参加するのやめとけよ
そんな体で無理出来ないだろ? 報酬ならオレのを分けてやるからさ
って言っても……成功したらだけどな」
『大丈夫、明日になれば治ってると思うんにゃん、まだ2~3日はあるはずだから』
「そっか……だが無茶だけはするなよ」
『言われなくてもわかってるんにゃん』
いつも眠くなるのは最初だけだから、きっと今回も大丈夫のはずだ。
この仕事が終わったら少しの間は休ませてもらおうとは思っているけど、今回の仕事はピンと来た仕事だから絶対に参加しておきたかったんだよ。
「だけどいいのか?」
『何がだんにゃん?』
「女同士じゃ子孫残せないだろ? この事、お前の両親は知ってるのか?」
『そう、それが唯一の課題だけど、その時は誰かから提供してもらう予定なのだんにゃん』
「誰からかって……そんな……」
ヘリオの表情が少し曇った、だからと言って誰でもいいって訳じゃないんだけどさ。
『それでね、クリーダがお父さん役で、あたしがお母さん役をするって事はもう決まってるんにゃん』
あたしは頭の上のつけ耳をくりんと回して見せると、ヘリオは動かした耳を見て目をパシパシしていたさ。
『それからねぇ、あたしの両親はもう居ないんだ、
でもお婆ちゃんならすっごく元気だんにゃん』
「そうだったか、ならお婆ちゃんは知ってるんか?」
『もちろん知る訳ないんだんにゃん
手紙のやり取りはしてるけど、もう三年位会ってない』
「辛い人生だな……」
何故かしみじみと言うヘリオ。
『そうだね、でも楽しいんだんにゃん』
「ならば、お前はお前の信じるものを貫け、オレもそうする」
何か吹っ切れたかの様な言い方をするな、あたしの事を諦めてくれたのかな?
『んむ? ヘリオは何を貫くつもりだんにゃん?』
「それはだな……オレの最初の直感を信じて貫く」
『ふむー、よく分からないけどガンバれんにゃん』
「おう! ガンバるぜ」
ヘリオの直感って、イマイチどんなのか分かんないけど、まぁ適当に応援しておくか。
「さっき言ってた誰かから提供してもらうって話だが」
『あぅん?』
「それさ、オレが提供してやってもいい、と言うか提供したいんだが」
おや? 思わぬ所で種ゲッツの予感!? うーむ話してみるもんだよね。
『へぇー、随分と奇特な人がいるもんだんにゃん
街角で箱持って募集でもしようかって思ってたのに』
「それはやめとけ……みっともない」
『半分は冗談だんにゃん、でもなんでまた?』
「そりゃー、男は好きな女に自分の子を産ませたいものだからな」
『そう言う事なら、ヘリオもきっと辛い人生だんにゃん』
あたしもしみじみと言ってみた。
「そうだな、でもそれも楽しそうだ」
もしヘリオからの提供を受けたとしても、ヘリオが望んでいるあたしは手に入る事はないだろう。それでもいいのだろうか。
もし本当にあたしがヘリオを愛していたならきっと断るんだろうか。それとも……あたしは彼にそこまで甘えているのだろうか?
魔戦士組合のテントに戻ると、クリーダがあたしの書置きを手に持って待っていたよ。
あたしがヘリオに抱っこされているのを見て、一瞬凄く驚いた顔をしたかと思ったら、すぐにキッとヘリオを睨みつけたんだ。
『違うんだんにゃん
ヘリオの剣を修理したら何故か立ち上がれなくなっちゃって、仕方ないからヘリオが抱っこしてくれたんだんにゃん』
「そうですか……ヘリオさん、この子に何もしてないですよね?
もし何かあった時は、わたしの命に変えてでもあなたを滅ぼします」
少しの余裕も感じられない真顔で言ったよ、クリーダはきっと本気だな。
「あぁ分かってるさ、オレもお前らの将来を壊したくはないからな」
そう言われて、クリーダは不思議そうな顔でヘリオを見ていたよ。
あたしの為にクリーダが布団を敷いてくれて、ヘリオがその布団に寝かせてくれた。みんな優しいなぁ、凄く嬉しかったよ。
横になってすぐにあたしは眠ってしまったらしい、目が覚めて横を見るとクリーダが一緒に寝ててくれた。
あたしがクリーダのつけ耳を指でツンツンしてバサバサさせて遊んでたら、少ししてクリーダが目を覚ました。クリーダはあたしを見るとすぐに微笑んでくれたんだ。
『あれ、ヘリオは?』
「軍に用事があると言ってあれからすぐに出て行きましたけど……
どうやらまだ戻っていないみたいですね」
『ヘリオは明日、軍の試作品を使うらしいんだんにゃん』
「試作品? それは武器ですか?」
『剣らしいんだんにゃん』
「剣を半分にされたせいで、軍の試作品を使う事になったのでしょうか
だとすると、使い慣れた剣が直った事で、断りに行ったのかも知れませんね」
『それがねぇ、ヘリオは最初から軍の試作品を使う事になっていたらしいんにゃん』
「最初からですか……気になりますねその試作品」
『ね、後で見せてもらうんにゃん』
「あ……それはそうと、体の調子はどうですか?
もし、体調がおかしかったら今回の作戦には参加しない方がいいと思うのですが
別にこの作戦に拘らなくても、他にいい仕事を探せばいい訳ですし」
『ありがと、でももう大丈夫だんにゃん』
「因みに、原因は生理ですか?」
『うん? よくわかったんにゃん』
「計算上はそろそろのはずですからね
後何日かはあると思って今回の仕事は受けたのですが、次回からは直前から少しの間は仕事を入れない様にしましょう
前後する場合もある事ですから」
『ゴメンだんにゃん』
「いえ、これはわたしのミスです
もっとよく調べておくべきでした」
調べておくべきでした……か。クリーダってあたしの生理の予定なんてどうやって知ったんだろ? これは聞くべきなのか聞かないでおくべきなのか。
『クリーダ先生、素朴な疑問!』
あたしは生徒の様に手を上げた。
「はい、なんでしょう?」
『クリーダってどうやってあたしの予定を調べたのかんにゃん?』
気になったら聞いてみるべきだよね、何しろ思い立ったら即行動する主義なのだ。
「そ、、それは……前に話した様にわたしはずっと……」
『そうだった、見てたんだったんにゃん』
そんな事まで見られてたんだ。と、言う事は……もっと他にあんな事とかこんな事とかも見られてたって事なんだろうね。もう今更隠す必要なんてないけどさ。けどさ。
こんな感じであたしは生理前の一時的な不調の為、すっかり二人には迷惑をかけてしまったんだ。
嫌でもやって来るアレの為に、スケジュールを組まないといけない計画性のある冒険者ってストーリー上はそうそう居ないと思います。と言いつつもやっぱり行き当たりばったりです。
はしょるべき所とはしょらない所を明確にすべきなんでしょうね、周囲の状況は大分はしょってるんですが、携帯向けという前提なので会話多目にして、その他の説明を少なくはしてるつもりですが、たまにくどい程解説を入れてしまう癖が困ったものであります。
これからもよろしくお願いいたしますm(_ _)m