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【42】理性と体のせめぎあい

 あたし達はヘリオの剣の練習を終え、魔戦士組合のテントに戻って来た。


 太陽の角度からしてお昼にはまだ早い、今のうちにヘリオの剣の修理をしてあげないといけないな。

 修理する為には結構な量の鉄が必要になる。どっかに要らないくず鉄があればいいけど、そんな都合よく鉄が落ちてるもんじゃないだろうな。


『ヘリオの剣を直すのには結構な量の鉄が必要だんにゃん』

「そか、オレはちょっと軍に材料がないか聞いてくるわ」


 明日に向けてヘリオは早く剣を直したいんだろうな、一言言うとさっさと軍のテントの方に向かってったよ。


「わたしもちょっと街で探して来ます」

『それなら、あたしも行くんにゃん』

「いえ、あなたはテントで休んでいて下さい

 お昼までには戻りますから」


 クリーダも責任を感じてるのかな? ずいぶんと早歩きで歩いてったよ。

 この状況であたしだけテントで休む訳にもいかないんだけど、今日は何だかとっても眠いんだ……朝早くに起きたからなのかな?

 止まってるとフラっとする位に眠い、少しだけ休んでから探しに行こう。

 テントに入ると、あたしは硬い床に殆ど倒れるように横になりすぐに眠り込んだ。



~~~~~~


 それ程長くは寝てなかったと思うけど、誰かがあたしに声をかけてゆさゆさゆすってるのをまどろみの中で聞いていた。


『うーん……後少し』


 声が止んで髪を優しく撫でられてる、声の主はきっとクリーダだろう。素材探しから戻って来たんだね。

 髪を撫でられるのは大好きだ。まどろみの状態で髪を撫でられ、何とも言えない至福の幸せを感じていた。

 少しずつ意識がはっきりして来た所で、あたしは髪を撫でてくれたお礼に横に寝そべってるクリーダをぎゅーっとしてあげた。

 あれ? クリーダってこんなに体が硬かったっけ? それにやたら大きいぞ!?


『はてな?』


 想定外の感触にあたしが目を開けると、目の前に居たのはまさかのヘリオだったんだ。

 何でヘリオが横に居てあたしの髪を撫でてたんだ? あたしは目が覚めた直後で事の状況を把握出来ずにいた。


「お前って意外に積極的なんだな」


 若干ニヤた顔でヘリオが言う。あぁ、多分あたしがギューっとした事について言ってるんだな。半分夢うつつだったから現実なのか夢なのかがハッキリしなかった。


『はれ?』

「オレもお返しをのぎゅーをしてやろう」

『わぁッ!? ヘリオみたいなのがいる!』

「みたいなのって何だよ、本物だっつーの!

 ほらぎゅーってしてやる、遠慮しなくていいぞ」

『ぎゅー要りません! ぎゅー要りません! さっきのは間違えたんです!』

「んあ? 間違えたって一体何を間違ったんだろうな」

『だ、誰って……そんなのヘリオには関係ないんにゃんッ!』

「いや、関係あるね

 だってオレお前気に入っちゃったし」


 気に入ったという曖昧な言葉は困るんだ。クリーダも最初に使ってたけど、どっかの粋なおじさんが「ヨシッ! お前さん気に入ったからオマケしといてやるよ!」って、みんなに言ってる社交辞令トークが先行してしまう。


『あ、急にめまいが……おやすみなさい』

「コラ寝るなッ!

 見つけたんだよ、鉄のある場所をさ」


 あたしは鉄を見つけたと言う言葉に反応して目を見開いた。


『ホントに!?』


 そしてあたしはピョンと飛び起きた。


「あぁ、前に軍の車両がスクラップになったのがあるらしくてさ

 軍の車両も同じ鉄だから大丈夫だよな?」

『うん、鉄なら大丈夫だんにゃん』

「んじゃ、今から案内するから付いてきてくれ」


 クリーダがまだ戻って来てないし、又心配するといけないから書置きを残しておいた。


 そして、ヘリオの案内であたし達は街の繁華街とは逆方向へと歩いた。やがて街の外に出ると、辺りは大きな木々が立ち並ぶ林になっていた。

 たまに足元に落ちている小枝を踏むと、小枝が折れる軽い音を足に感じる。


「ここってデートとかにもいい感じの雰囲気してるよなぁ」

『そかー? 確かに静かだけど景色が単調でイマ一つだんにゃん

 そんで、スクラップはどこらにあるんだにゃん?』

「あぅ……もうすぐだ」


 デートでこんな見所のないただの道に来るカップルなんてフツー居ないだろ、ヘリオっていつもどんなデートしてるんだ。

 暫く歩いて行くと所々天井が破れて少し朽ちかけているテントが見えた。テントに軍のマークが入ってるって事は、もしかしてこれって一年前に使われたテントなのかな?


「ここならいいか」


 ここなら? くず鉄のある場所へ行くって目的でここに来たのに随分とおかしな事を言うなぁ。


『んむ? くず鉄車両はどこにあるのかんにゃん?』


 あたしはテントの周辺をキョロキョロして軍の車両を探してみた。が、それらしいものは全く見当たらなかった。


「すまん……車両があるって言ったのはお前を呼び出す為の口実で、

 本当はこのテントがあるだけなんだ」

『呼び出す口実って?

 何だかよくわかんないけど、この骨組みも鉄みたいだから素材の足しにはなると思うんにゃん』


 そう言いながらヘリオの顔を見てたんだけど、何かヘリオの表情がおかしい。何か素材探しよりも大切な事がある様な感じに見えるぞ?


「剣の事なんだが、実は最初から軍の試作品を使う事になっててな」

『軍の試作品? って事は?』

「すまない、剣の事はいいんだ

 お前を人目のない所に誘いたくて嘘言ってたんだ」

『でも、ヘリオはその剣を大事にしてるみたいだし、

 そのままにするのはやっぱもったいないんにゃん』


 あたしはヘリオを気にせず、小細工魔法をテントの骨組みにかけてスルスルと抜き始めた。思ったより骨組みの本数が多い、これならヘリオの剣を直せるかもしれないな。


「ちゃんと聞いてくれ」


 ヘリオはあたし前に回ると、あたしの両肩を掴んで真顔でそう言ったんだ。


『ちゃんと聞いてるよ、車両の話はウソでも鉄があった事は本当だったんにゃん』

「いや、そうじゃなくて、ここにお前を誘った理由をだな……」

『ふむ、じゃぁその理由を言ってみるんにゃん』

「もう分かってるかもしれないが、

 オレはお前を昨日見た瞬間に一目惚れしてしまったんだ、それをちゃんと伝えたかった」


 それから、あたしとヘリオは黙ったまま少し時間が過ぎていった。静かな林の中から聞こえる鳥の囀りだけが音を発していると言う不思議な時間だ。

 一目惚れって多分好きって事で間違いないんだろうけど、何かあたしにはピンと来ないものなんだ。

 過去にこういう事がありましたって報告された様で、へぇーとは思うけどさ。多分あたしの経験不足が原因だろうけど、現在進行形どうなのかが釈然としない。


『そうか』

「そうだ」

『じゃぁ、その剣を下に置くんにゃん』

「ダァァァァーーカラッ! この剣はもういいんだよ

 オレのカミングアウトを聞いてなかったのか!」

『それはそれ、これはこれ

 あたしは一度受けた事は放り出したくないんだ

 だから先にその剣を直したいんにゃん』


 ヘリオは暫くあたしの目を見ていたけど、やがて黙って剣を地面に差し出した。

 剣が置かれた後、あたしは骨組みをつかんでは投げる動きと共に小細工魔法を使った。あたしの横に寄せ集められたテントの骨組みが剣に吸収されて行くと、半分になった剣の先が少しづつ生えて行き、骨組みを使い切る直前に剣は元通りの長さになった。

 その後で、硬度を出す為テントの布を燃やして炭を作って、それを剣に吸収させてやる。

 ヘリオの両手剣の表面は黒光りし、剣独特の緊張した美しい光の反射を見せていた。


 これで元通り以上の剣の完成だ。飾りっ気1つもないシンプルな両手剣だったので、サービスとして装飾の模様を剣に刻んでやった。若干は殺伐度が下がったんじゃないだろうか。

 黒い刀身にキラリと輝くこの刃は、その自重と相まって相当な切れ味がある事だろう。


『はい、直ったんにゃん』

「あ、あぁ……試し斬りしてみる」


 ヘリオは地面から生えた大きな腕に剣を手渡され、少し戸惑いを表情に浮かべ少し仕方なさそうに言った。

 ヘリオは片手で持っていた剣を両手で持ち直し近くの木を斬り付けると、幹は小気味良い軽い音を発して寸断された。

 更にヘリオはその木が倒れる前に幹を高速で斬り続け、遂には木1本をたくさんの輪切りに変えてしてしまった。


「すげぇ……メチャクチャ斬れるな」

『うまく行ったんにゃん、それじゃぁ帰ろっかんにゃん』


 あたしは目的を果たした事で安心して、すっかりさっきの事を忘れていたのだった。


「ちょッ! さっきのオレの告白の返事はナシかよ」

『んー、何か全くピンと来ないんだんにゃん』

「なら、ピンと来る様にしてやるさ」


 ヘリオはどう近づいたのかわからない程、スムーズにあたしの前に立つと、かがんであたしを抱きしめたんだ。

 それに対して、あたしは何が起こったのか少しの間理解が出来なかったよ。


 ヘリオの力強い腕と大きな胸板があたしに触れ、その体温が徐々に伝わって来た。

 どうしてだろう、あたしの意思と関係なく体から徐々に力が抜けてゆくんだ。

 一体あたしの体はどうなってるんだ、ここでこの流れのままにヘリオを受け入れる訳には行かないのに。


 そう思ってるのに、あたしの手が勝手にヘリオの背中に手を回してるんだ。ヘリオとは昨日会ったばっかで別に好きでもないのに、どうしてなんだか全然分かんないよ。あたし、どっかおかしいのかな?

 あたしがヘリオの背中に手を回した事で、彼はあたしが受け入れたと思った様だ。さっきより強くひしっと抱きしめて来たよ。


 あぁ、違うんだ……でも何て心地が良いんだろう……もぉどうしたら……誰か助けてよ……。

 精神と体が何かを引っ張り合って戦っている、頭では受け入れてないのに体が勝手に求めてるんだ。

 既にあたしは自力で立つ事が出来なくなって、ヘリオに支えられている状態になっていた。



 ――その時


 あたしの口からあの誓いの言葉が突然発せられたんだ。


『あたしは今後、クリーダ・ヴァナディンと、一生の人生全てを共有する事を誓います

 身も心も魂までの全てを共有する事を誓います』


 すると、ヘリオはその誓いの言葉に驚いた様に、あたしを抱きしめるのを突然やめたんだ。

 あたしはヘリオの両手から滑り落ち、そのまま地面にペタンと座った。


 誓いの言葉……それはあたしとクリーダにとって、とても大事な言葉のはずなんだ。


ルビーさんの数少ない異性からの告白の巻。

主人公ですが、格好付けずに精神的に弱い所などを書いて行ければと思います。


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