【4】ドラド村の村長
ドラド村に到着し、村長の家に向かうあたし達。
ドラド村は鬼が暴れて困っている村だった。
ドラド村の村長の家は、この村で一番大きい家だそうだ。
そう言われて辺りを見渡せば、すぐに見つかる程この村は小さかった。
「とったどぉぉーーーーッ!」
後ろにくっついて来ていた子供達の一人が大きな声を上げた。
何かと思えばその子、あたしのつけしっぽを掴んでいるではないか。
「娘ネコは多分しっぽが弱点だから、掴まれると力が抜けるんだぜ」
「おぉーーーッ! スッゲェッ!」
娘ネコにそんな設定なんてなかったと思うぞ、それは確か「ドラと碁とボール」って言う別の漫画の設定だ。
主人公のサルが、その3つを手に入れる為に世界を冒険する話で、、まぁその説明はまた今度にしとこう。
あたしはもう1本しっぽを生やし、しっぽを掴んだ子供の手をバシッと叩いた。
『しっぽが1本だけだと思うなんにゃん』
と、言ってニヤリとしてやったら「ぽかーん」とした顔してたよ、所詮子供なんてこの程度なのさ。
さて、村長の家の前にやって来たんだけど、その家はこの村にしてはやけに立派な家だったよ。
この村で、ここまで大きく建てる必要があるのかって位に不釣合いな大きさの家なのだ。
ともかく中に入って書類にサインを貰わなければなるまい。
『あのさ、説明とかはクリーダに任せるんにゃん』
「わかりました」
クリーダが村長の家のドアをノックして入ると、あたしもその後を追って入った。
入る時に後ろを振り返ると、子供達がまだ近くをウロチョロしていた。全く懲りない子供達だ。
「こんにちわ
魔戦士組合の者ですが、村長さんはご在宅でしょうか?」
村長の呼び出し係をクリーダに任せ、あたしは周りをキョロキョロ見渡した。
『ふわぁー、この家の不思議さと来たら更に驚くんにゃん』
刺しゅうの凝ったカーペット、威嚇する様に吼えているかに見える虎の毛皮、熊が魚をくわえてる木彫りの何か。
壁には三角の布に謎な文字が書かれたものがいくつも貼ってあって、同じ様に謎な字が書かれた木刀まで飾ってある。
その調子で、この部屋いっぱいに見たこともないものが、すっごくたくさん並べられているではないかー!
この家は面白いッ! 面白いぞぉーッ!
「(そんなにジロジロ見ては失礼ですよ)」
小声でクリーダに注意されたすぐ後、村長らしき老人が出てきたよ。
「むッ……! おった!」
何故か老人はあたし達を見るなりそう言ったんだ。「おった」って方言か何かかな?
『んにゃん?』
「……? あの」
「わかっとる、わかっとる! お前たちはゲジローから派遣されて来たのだろう?」
「魔戦士組合です」
「あぁ、そうも言ったかもしれんな!
ともかくよく来た! よく来た!」
「依頼主様で間違いなければ、開始承諾のサインを頂けますでしょうか?」
老人は何故かうむうむと感極まった表情で頷くと、書類にサインをしてくれた。
「この村に鬼が出没して暴れると言う事ですが、
それはどんな鬼で、どんな状況なのか説明して頂けませんでしょうか?」
「鬼かッ! 鬼はのぅ……それはそれは恐ろしくでっかい鬼だったぞい
30メートルはあったかのぉ」
「30メートルですか……」
『そんな鬼が暴れたら村がなくなっちゃうんにゃん』
「いや、もしかしたら20、、10メートル位だったかもしれんな」
村長の証言はとんだアバウトだったよ。
しかも、暴れたって言う村に破壊の痕跡は見当たらなかったし、一体どういう事なんだろ?
「その鬼は村に現れるのですね?」
「いやいや、村には入ってはこんのだが、村の周辺までは来てるらしい」
「らしい……と言いますと、村長さん自身はご覧になったことはないのですか?」
「わしは遠くに見かけただけでな、だから大体でしか大きさがわからんかったのだ」
「そうですか、その鬼の目的は一体何ですか?」
「さぁの、ただたまに出てきては暴れるのでうるさくて困っておる」
「その鬼はいつ頃に現れるかわかりますか?」
「まぁ夜だな、今夜は間違いなく出るだろうな」
「わかりました、では今夜は村周辺を探してみる事にします」
「ところで、あんたら何て言うの?」
「わたしは氷女で」
『あたしが娘ネコだんにゃん』
クリーダはパフォーマンスで部屋にさらっと雪を降らし、あたしはしっぽをネジネジしてみせた。
「おぉ、やっぱり思った通りだったわい
やっぱりおったおった!」
あたし達は、全くあてにならなそうな村長の話が、今度は横道にそれ出したので早々に切り上げて外に逃げた。
「……どう思いますか?」
『どうもこうもないんにゃん』
だって、10~30メートルの曖昧な大きさで村には入ってこなくて、目的がはっきりしないがとにかく暴れる鬼だよ?
これってどういう事? その暴れるってどんな感じなんだろう。
村の外で大暴れしてるって事だよね、村人はその行動に困っているって訳か、鬼は一体何が目的で暴れてるんだかね。
「さて、夜までまだありますがどうしましょう」
『あたしはおなかが空いたんにゃん』
「なんだお前ら、腹が減ってたのか?」
声の方向を見ると、さっきしっぽを掴んだ子供がいた。
『おや、さっきのワンパク坊主かんにゃん』
「ふん、しょうがねぇなぁー
母ちゃんにはオレから言ってやるから、ウチでメシ食わせてやってもいいぞ」
その子は10歳位の男の子で、布をマントの様にしていて拾った様な棒を手に持ってる「典型的な田舎の子供」という感じだ。
さっきの子供達の中ではリーダー核なのだろうな、ちょっとツンが入ってる辺りとか。
「ちょっと待ってろよ、今母ちゃんに聞いてくるからさ」
そう言うと、男の子はどっかへ走って行った。
『ほぇ、あの子は何なんだんにゃん?』
「わたし達にご馳走してくれる気でいるようですね」
『おぉーッ! 田舎の子供にしては気がきくんだんにゃん』
少しするとさっきの子が走って戻ってきた。
「母ちゃんがいいってさ! 付いて来いよ」
『およ? いいのかんにゃん?』
「あぁ、母ちゃんがいっぱいご馳走してくれるってさ
お前らホントにラッキーだったな」
「ありがとうございます」
へぇー、クリーダってこんな小さな子供にも礼儀正しいんだね。
あたし達はドラド村で、親切なワンパク坊主に出会った。