【36】道の真ん中で
あたし達は胡散臭い作戦にあえて参加する事にしたんだ。
突然変異の魔物の討伐って言う依頼は一年前にもあって、ズッコケ芸人の話だとランク10のバーサーカーはそれで命を落としたらしい。
ランクって強さの目安もあるけど、魔戦士組合が設定した目的はどんだけ仕事が出来るかだから、単純にはランクと強さは比例しないんだ。
かといって、特例の仕事を100%こなせたって事からも、相当な実力を持ってる事は確かなんだろうけどさ。
『ねぇねぇ、クリーダ?』
「何ですか?」
『さっき言ってたバーサーカーってどんなクラス?』
「文献を読んだだけで、わたしも実際に見た訳ではありませんが、
戦う事でトランス常態になり、自らをただ戦うだけの存在にする狂戦士だそうです」
『へー、戦うだけの存在ねぇー
で、トランスってなんなの?』
「そうですね、バーサーカーの場合だと人間の壁を超えるって事じゃないでしょうか?
人間は絶えず色んな事を考えてますけど、戦う事だけに全てを集中するのでしょう」
『何か危ない人みたい』
「そうですね、パーティーは組んだりはしないみたいです
戦い出すと味方とか敵とか関係なくなってしまいますから」
『うへー、あたしはランク10になれたとしてもバーサーカーにはなりたくないかな』
「えぇ、一緒に冒険出来なくなりますからならないで下さいね」
そんな事を話しつつ、あたし達は服の素材を買いにヨザワ屋というお店にやって来た。
ヨザワ屋はかなり年季の入った落ち着いた佇まいの建物で、何代も続く老舗のお店だ。
お店の中にはクルクルと巻かれた布達や、素材達が所狭しと並べられている。あたしはそれらを見てるだけでウキウキしてたまらなくなるんだ。
「やぁ、いらっしゃい
今日はどんなのを探してるんだい?」
早速ヨザワ屋の店主が声をかけてきた。今日はって言われてる通り、あたしはこのお店の常連なんだ。
『クリーダの服を作ろうと思ってるんだけど、
丈夫でかつ柔軟性があってオシャレなのないかな?』
「ふむ、丈夫で柔軟性があってオシャレなのね、クリーダさんってこの人かい?」
『うん』
「ちょっと待っててね」
そう言って店主は奥の棚からいくつかの布を持って戻って来た。
「こんな感じなのはどうだい?」
店主が選んだのは全て濃い色の布だった、クリーダって黒っぽい色の方が似合うのかな?
『クリーダはどんな色が好き?』
「そうですね、黒っぽい色はわりと好きですよ」
『ふむふむ? おじさん、ここで作ってってもいい?』
「あぁいいよ、いつもの部屋を使いなさい」
あたしはその中で少し光沢のある黒い布を選び、それとは別に白い布を持って来てもらった。
いつもの部屋があるっていかにも常連っぽいけど、お金の問題があるからそれ程頻繁には買えやしない。
ただ、あたしは素材を買うとその場で作りたくなっちゃうから、いつも無理言って部屋を借りて作らせてもらってたんだ。
いつもの部屋のドアをパタンと閉めた。窓のないこの部屋なら落ち着いて創作を練る事が出来るって訳。
『とりあえず……』
あたしはクリーダの服を脱がした。
「そんなに見ないで下さい……」
『だって、ちゃんと見ないと作れないじゃない』
完璧としか言いようのないスタイルにうっとりしつつ、その白い肌の上に少し光沢のある黒い布をあててみた。
やっぱり肌が白いと黒い布って映えるね。白い布も買ったのは、全身まっ黒くしちゃうと全体が棒の様に1つになっちゃうから。だからアクセントとして白も入れるんだ。
『よーし、ツーピースっぽいワンピースにしよう』
小細工魔法でサクツとベースを作ってみた。
全体的にタイトで体のラインがよく出る様に、腕は二の腕から細くして袖口だけを広めに。
ウエストで二つに分けて、上を被せる感じで合わせてツーピースっぽく。
次に胸からウエストそしてヒップまではピッタリさせ、そこから下はゆるく広げる。
背中は大胆に開けて、その上から小さなコウモリの羽を思わせる様なマントを付けちゃって、両肩も立体的に見える様な感じに布をかぶせ、その先端は鋭利に尖らせる。
胸の間も鋭角に開けて、チョット大人らしさを演出しちゃおうか。
「あ……」
『アウチッ! 下着が白だった……ここは外してブラトップを作っちゃおう』
柔らかめの布を少しもらって来て、それと表生地を合わせて見せるカップを作ってみた。
『おぉーッ! いいねいいねーッ!』
「ちょっと派手すぎないですか?」
『うん派手だよ、でもすっごーく似合ってるーッ! いいなぁー』
羨ましく思ったのは、あたしには着れない領域の服だからさ。こういうのはある程度の身長がないと決まらないんだ。
後は各所エンドに白地の布でフィニッシュを作ってやって、スカートの裾には長いラインで白を入れると足がもっと長く見えるかな?
うーん、ウエストは白のフリルを入れた方がいいなぁー。
こんな感じで、いつもあたしは楽しみつつこの部屋で服を作ってるんだ。
「おじさーん! 出来たよーッ! 見てーーッ!」
「どれどれ、ほほぉーッ! いい出来じゃないか」
「ちょっと恥ずかしいです」
クリーダは着慣れないからかかなり照れくさそうにしてたよ。
うんうん、今回のはかなり会心の出来だと思うよ、何しろいつもよりモデルがいいからねッ!
「うん? その長い靴下はなんだい?」
店主はクリーダに履かせた膝上まである、長いソックスに目が止まったらしい。
『ニーハイの事? かわいいでしょ?』
「ほー、今はそういうのが流行なのかい?」
『うん、でもケガしない様にってのが狙いなんだけね
今回ちょっと大変そうだから』
「そうかい、あんまり無茶はしないでおくれよ? ケガでもしたらおじさん悲しいからさ」
『うん、ありがとッ! 気をつけるよ』
あたし達は余った布を抱えてヨザワ屋を後にした。
うはぁー、しっかしこの服、クリーダによっく似合ってるなぁー。
そう思って見てたらクリーダがあたしの手を握ってにっこり微笑んでくれた。もうなんかドキドキが止まらないです。
『リドナまでってどの位かかるのかな?』
「歩きだと3~4日かかりますけど、乗り物なら一日で到着出来るでしょうね
前の日には到着しないといけないので、明後日出発しましょうか?」
『じゃぁ明後日……?』
そう言ったのは、あたしの家とクリーダの部屋を繋ぐ道に立っていたから。
「あ、あの……」
『うん?』
「もしも、もしもなのですけど……」
クリーダがもじもじするのなんて初めて見た。一体どうしたんだろ。
『なになに?』
「これから一緒に住むとかって……ダメ……ですか?」
真っ赤な顔して俯いて口篭ってて、その衣装と相まってもぅヤバイオーラが出まくりダァーーーッ!
そう言えば一緒に住むなんて今まで考えた事なかったな。何だかんだで色々目まぐるしかったし。
でも、考えてみたらそれってごく当たり前の事なんだよね。
『あー、そうだよねその方がいいかぁ』
「えッ! 本当にいいのですかッ!?」
『うん、じゃウチ来る? ってうわぁッ!』
クリーダはあたしを抱えてそりゃもう大喜びだったさ。
道の真ん中でクルクル回る陽気な二人を、街の人達はビックリして見ていたよ。
どうでもいい所に力を入れすぎてすみません、そこだけは押さえておきたかったです^^
今後ともヨロシクお願いイタチ(人'д`o)まつ