【3】辺境の村ドラド
クリーダとあたしは初仕事へと旅立った。
あたし達の初仕事で向かっているのは、マトラ王国の辺境にあるドラド村という小さな村である。
そのドラド村は、一度も行ったことないからどんな村かは全く分かんない。後でのお楽しみだ。
それで今回の仕事の内容だけど、これがなんだか凄いんだよ。
ドラド村にたまーにやって来ては大暴れする鬼がいて、その鬼を退治して欲しいっていう何とも楽しそうなものなのだ。
なんたって今どき鬼退治ですよ? 鬼ッ! 魔物じゃなくて鬼なんですッ!
鬼と言えば有名な童話があったっけね、マモッタロウっていう大昔の童話が。
マモッタロウっていう子が主人公で、大好物が桃って言う初期設定があるんだけど、それは最初だけで後に桃は一回も話題にされない不思議な物語だったなぁ。
桃を食べて成長したマモッタロウはある日、ザルと絹と石を持ってお団子食べながら優雅に鬼退治に行くんだよ。
普通そこは桃だろう? って思うんだけどさ、まぁとにかくお団子な訳。
そんでイザ鬼のいる島にたどり着くんだけど、そこまでナント手に持っていたザルと絹で作った船で渡るという素晴らしさなのさ。
人が乗れる程大きいザルなんて手軽に手に入るものなのか? それの入手に全く困難がなかったってどう言う事なんだい?
しかも絹で小細工してないで、ちゃんと船用意しとけよってツッコミ所もあったりするが、とにかくこれは有名な童話なんだ。
でもって退治に使ったのが残った石、これに対しては何も言うまい。
そうやって一方的に鬼を成敗したマモッタロウは、鬼から金銀財宝をもらって家に帰ってくるんだ。
この話は、「鬼=悪」という設定が暗黙となっているから成り立ってる訳、なんたってここで退治された鬼は、ただ島に住んでただけで別に村に悪さをしていた訳じゃないからね。
って昔の童話にも出てくる位で、常識的には鬼っていうのは架空の存在なんだ。
それに比べると魔物はよくいる存在で、よく討伐の対象にもなってるみたいだけど。
今回この仕事を選んだのは「鬼」っていうワードにピンと来たからだったんだ。
本当は「伝説の鬼というのをぜひ見てみたい!」っていう興味心が大きいかな?
それに、魔戦士組合の難易度評価も低めだったし、最初の仕事としてはいいんじゃないかって。
おっと、お喋りしてたらどうやら目的地が見えてきたぞ。
予定通り、日が傾く前にドラド村へ到着しそうだよ。
『あれがドラド村かんにゃん?』
「多分そうですね
荷馬車のお陰で早く到着する事が出来ました、ありがとうございます」
『なんの、役に立てて良かったんにゃん』
クリーダは礼儀正しいナァ。
あたしはふと、クリーダに最初に出合った時の事を思い出した。
そういえば、クリーダって凄い音出して床踏んでた時も口調変わらなかったんだよね。
この人は取り乱して怒ったりする事もあるのかな?
人間だし、そりゃあるんだろうけどさ。
あたし達はここまで何事もなく村に到着した。
村に着いたらまず、組合からの書類を依頼者に見せ、開始承諾のサインをもらわないといけないらしい。
前にそれをせず事後に書類を出した人がいて、「勝手にやったんならサインしないよ、組合の依頼も取り下げるから」とか言われてゴタゴタした事があってかららしいけど。
『依頼主はやっぱり村長さんんにゃん?』
「みたいですね」
あたしはこの荷馬車を引く木馬に興味を引いて、周りに集まっている子供達に聞く事にした。
『村長さんはどこんにゃん?』
「なんだコイツ!? 変な喋り方してっぞー?」
「何て言った?」
「村長んにゃんだってさ」
『えとね、、村長さんはどこにいるんにゃん?』
「ギャハハハハハハーーーッ! なんだコイツーッ!」
「おもしれぇーーーッ! ネコみたいな喋り方してやんのーッ!」
「バァカ! ネコは喋らないんだぞ!」
「わかった! ほらゲジゲジのゲジローに出てくる娘ネコだろッ! おまえッ!!」
「それだッ! じゃぁコッチのはナニよ!?」
『ウギャァァァァーーーーッ!!!』
あたしが両手を頭の上に目一杯上げて、引っかく仕草をしながら威嚇してやると子供達は驚いて逃げて行った。
因みに子供たちの言っていた「ゲジゲジのゲジロー」とは少し前人気のあった漫画のタイトルだ。
悪い大鬼をやっつける、正義の小鬼とその仲間達のお話である。
こんな辺境の村にも知れてる程なのかぁ。
『あぁ、そうか! それで鬼なのだんにゃん』
「鬼とかゲジゲジって何ですか?」
『そうだッんにゃんッ!
クリーダは今から氷女になるのだんにゃん』
「わたしが氷女……ですか……?」
『そんでーッ! あたしが娘ネコになるんにゃん!
あたし達はゲジゲジのゲジローに派遣されて来た、
正義のヒロインになるのだんにゃんッ!』
「よく分かりませんが、さっきの子供達に関係あるのですね……わかりました」
『くるりんっとホイッ!』
あたしは軽快に1回転し、小細工魔法で衣装を変化させた。
あたしにはつけ耳とつけしっぽを、クリーダには何だかわかんないけど氷女っぽい物をチョイスしてあげた。
「あ、これは雪の結晶ですね」
勝手に持たせた氷の杖の、先っぽのアクセントを見てクリーダが驚いていた。
靴は白のロングブーツに変え、ピアスは雪の結晶の形をモチーフに特大にアレンジ。
ローブはモノトーンにして、ジグザグにカットを入れてあげた。
もちろんその他もらしくなる様にね。
『うーん、我ながらいい出来だんにゃん』
「すごいッ! 小細工魔法はこんな事も出来るんですね!」
『あたしがいれば服には困る事はないんにゃん』
どうやらクリーダは氷女の衣装が気に入ったみたいだ。
あたし達がばっちりコスを決めた頃、逃げた子供達が大人を連れてやって来た。
「あ……あんた達は何者だ?」
一定距離以上は近寄ってこない所を見るとかなり怪しんでいるな、まぁ辺境の村じゃよそ者なんてそんな扱いだろうけど。
『あたし達は魔戦士組合から派遣された娘ネコと』
目でクリーダに続きを言えと訴える。
「氷女です」
クリーダったら迷う事なく氷女って自己紹介しちゃったよ、しかも少しも恥ずかしがるどころか微笑んじゃってるよ。
「えっと……それは遠いところご苦労様です
この村の村長はこの先の大きな家に住んでいますだ」
あれ? 村人達には派手過ぎたのか反応がイマイチ?
あたし達が村長の家に向かっていると、さっきの子供達もゾロゾロと後ろに付いてくる。
しっぽをつかもうとした子には、そのしっぽでビンタをお見舞いしてやろう。
何事も最初が肝心なのだ、特に子供達にはね。
ドラド村に到着したあたしとクリーダは、村長に会いへと向かった。