【29】脳内マップ
あたしは「スフェーンが興味を持ったものを知りたい」って言う、シンナバーのとばっちりを受けていた。
「なるほど、こんな感じなのか」
『うぅ……なんでこんな目にばっか遭うんだ』
「多分ねー、素質かな?
おチビは男の子には全然モテないけど、オンナには妙にモテる特殊体質なんだよ」
『さりげなく酷い事言われた気がする』
「えー? じゃぁおチビは男の子と付き合った事あるの?」
『えーと、えーと』
「あたしが知ってる情報にはないから、この3年間の間になるけどさ」
『フッ……』
どうせね、あたしは遠くを見る目をするしかなかったさ。
「なしっと……メモメモ」
『メモるなッ!』
「まぁ、おチビって男の子の免疫が全然ないもんねー、ナボラの広場でドーナツ食べてた時もさ
まさかの興味0?」
『そんなの、興味なくはないけど』
「バイか、守備範囲広いなぁ
なら相手が振り向いてくれないジレンマも多少は分かるよね?」
男の子かぁ、そりゃー今まで好意を持った人なんていっぱいいたさ。
だけど、みんなあたしなんかを見る事なんてなかったよ。
それが、半年位前にたった一人だけ仲良くしてくれた人が居てね、食事とか誘ってくれたり「もしかして」とか思ったんだ。
結構いい雰囲気になってデートの約束までしてくれたのに、直前で「ごめん」とか言われて……アレは呆然としたな。
理由聞いたけど「命に関わる事」とか意味分からない事言って走ってっちゃった。
何かの組織に狙われててあたしに迷惑がかかるからとか、不死の伝染病とかアレコレ想像してたけど、たまに見かける限りはそんな感じはなかった。
でも、あたしを見つけると真っ青な顔して辺りをキョロキョロし出して、近付こうものなら凄い勢いでどっかに逃げて行くんだ。未だにその理由は謎。
「ねぇ、あたしが噛み付いた痕どうする? 消す? 記念に残す?」
『消して下さい……
スフェーンのはそのままでいいよ、消したらまためんどうな事になるし』
「そうだよね、今度はあたしがクリーダと戦うはめになっちゃうし」
シンナバーが片手でスッと撫でると、ズキンズキンしていた痛みは一瞬で消えた。やれやれだ。
あの二人って今頃どうなってるのかな? 無茶してないといいけど。
「じゃぁ最後に、ちょっと仲良くしちゃおうか」
『うなッ!?』
ビックリしたよ、何とシンナバーのやたら健康そうな体が目の前にッ!
スフェーンのトレースって言っても、そこまでする必要があるのかな?
「ギャハハ! おチビたんッ! ちゅきちゅきーーッ! ってこんな感じかぁ?」
シンナバーがあたしをギューっと抱きしめた。
やっぱギューっていいねぇー。別に特別な気持ちがなくてもギューってするのって気持ちいいもんなんだ。
あ、麻痺の効果が切れてたみたいだ、それとも解除してくれたのかな?
シンナバーの指先はあたしをやさしく撫でてくれた。くれたって思うって事は実際嫌じゃないんだろうね。
どうやら別に好意を持ってなくても、あたしの体はそれなりに受け入れるものらしい。
そして、じきに体が反応し出すとあたしは声をもらし始めたんだ。気が付いた時にはシンナバーの背中に手を回してしっかりしがみ付いてたよ。
シンナバーの口元は少し甘い味がする、さっき食べてたドーナツの砂糖が付いてるみたい。あたしはそれらをペロペロと舐めてあげたんだ。
あたしの手が勝手にシンナバーの体をなぞって、色々な情報を得ようとしてる。肌触りとか筋肉や骨、脂肪の付き具合、そしてどんな反応をするかとかまで。
その情報は少しずつ脳に蓄積されて行って、マップの様なものを作って行くの。それはきっとシンナバーも同じだと思うんだ。
二人の弾む息や、時折かすかに漏らす声がお互いの気分を盛り上げて行き、徐々に行為そのものに集中して行ったよ。
暫くして、乗り物の中で息を整えてるあたし達は、仰向けに並んで手を繋いでた。
『シンナバーの味がする』
指を舐めて見せたあたしを見て、シンナバーが少し笑って言ったんだ
「えーーッ!? やっぱおチビって変態だよね」
ってね。
でも、シンナバーも舐めてくれたんだ。それを見て不思議と充実感が沸き起こったよ。
むくっと起き上がったあたしは、窓の外にとんでもない物を見つけた。
それはクリーダとスフェーンが歩いていった方向に出来た、得体の知れない真っ赤に光る大きな玉だ。
『な、何あれ……』
「さぁ……、あたしは見たことないよ、あんなの」
スフェーンじゃないって事はクリーダがやったのかな?
赤い玉は中心にどんどん光が集まって行き、それはやがて強烈な閃光をほとぼらせ大爆発を起こした。
あたし達の乗り物を衝撃波らしきものが通り過ぎて行き、地の底から響くような振動と、雷の様なけたたましい音が鳴り響いたよ。
『これってちょっとヤバイんじゃ……』
「行かなきゃ」
シンナバーは血相を変えて服を中途半端に纏うと、空高く立ち上った巨大な炎の柱に向かって乗り物を走らせた。
いつも見て下さり感謝の極みであります。
少し具体的に書いてみたつもりですが、うーん、どんなもんしょね。思った様には書けないのは確かなんですが。
それと、理性と欲望の優劣を織り込んでみたつもりですが、それも少々ままなりませんね。