【27】二人残されて
今回からまたルビーさんが視点です。
スフェーンはケジメを付けると言って、クリーダと戦う事になったんだ。
二人はあたしとシンナバーを乗り物に残して、何もない平原のはるかへ消えて行ったよ。
一体何がどうなってるのかさっぱりだ、ケジメってどういう事なんだ。
あたしが関係してるのは分かってるけど、スフェーンはクリーダと戦って何が得られると言うんだろ。
それでケジメを付けられたとしたら、大手を振ってシンナバーと仲良くするって事?
全く……どっちがいやらしいんだか。
スフェーンの事はやっぱり今も嫌いだし、それは今後も変わる事はないと思う。
別に誰と何しようが全然かまわないけど、それに巻き込まれてるシンナバーはどう思ってるんだろう。
『シンナバーってスフェーンの事好き?』
シスドのドーナツをはむはむしてるシンナバーにそう問いかけたら、凄い慌てて食べてたドーナツを落としちゃった。
ドアを開けて横向いて腰掛けてるシンナバーの足元に、食べかけのドーナツがコロッと転がった。
「な……ッ! いきなりビックリさせないでよッ!」
『あ、ごめ……』
うわぁ……顔真っ赤だ。そんなに好きなんだー。
「あたしが勇気を出して告白したの見てたでしょ!?
ここまで来るのにどれだけあたしが苦しんだか……
おチビみたいに何もしなくても向こうから寄って来る人にはわかんないんだよッ!」
シンナバーは転がったドーナツをポンと蹴って飛ばしてた。
『…………』
やっぱ複雑な心境なんだね。納得なんか出来てる訳ないよね。バカにされてる様に思えるよね。あたしシンナバーを傷付けちゃったかな。
「おチビ覚悟ッ!」
『あぎゃ!?』
突然シンナバーがあたしに覆いかぶさって来た。
『ナナナナナナッ!?』
「ふふーん? 奇跡のパーティー編成みたいな事言わないの
あんた今あたしに悪いって思ったでしょ?」
『え……別に』
「ホントは思っても思わなくてもいいんだけどねッ!」
シンナバーはあたしをガシッと捕まえたまま、何故かスリスリしはじめたんだ。
『うひゃ!? ちょっと! 何してるの!』
「そんなの決まってるじゃないッ!
スフェーンがした事と同じことをしたいんだよッ!」
『えぇーーーッ!? 別にあたしは何もしてないよッ!』
「そんなの分かってるよ、あたしはスフェーンが夢中になってたものを知っておきたいだけなんだ」
シンナバーはスフェーンと全てを共有して、少しでも近づきたいって思ってるのかな?
クリーダがあたしに誓わせたあの言葉を急に思い出した。
『あたしは今後、クリーダ・ヴァナディンと、一生の人生全てを共有する事を誓います
身も心も魂までの全てを共有する事を誓います』
「なにそれ?」
『誓いの言葉だよ』
「へぇーいいなぁ
あたしも誓いたい……そして誓わせたい」
『うん、誓うといいよ
あたしは無信仰だからお婆ちゃんに誓ったんだけどね』
「そうなんだ、あたしも神様にはちょっと誓いたくないナァ」
『えーーーッ!? 一番信頼してる人と誓うんじゃない?』
「うーん……なら尚更かも」
聖職者のくせに神様を一番に信頼してないってどうなんだろうね。
「何かおチビっていい匂いするよね」
『へ? 何もつけてないよ?』
「うん体臭」
『体臭って……どんな……?』
「なんだろ、例えるなら食欲をそそられるおいしい料理みたいな感じ
だからってカレーの匂いがするとか、加齢臭がするとかって意味じゃないよ?」
『加齢……』
シンナバーがあたしのにおいをスーハースーハー嗅いでる。なんかヤバイものでも発してる様な気がしてしまうな。
「知ってる? 食欲と性欲って反比例するものだって」
『性ッ! いえ、知りません……たとえ知ってたとしてもそんな恥ずかしい事口に出してなんて言えませんから』
「女って性欲を満たせない場合、食欲でそれを補うんだよ
例えばドーナツを大量に食べるとかねッ!」
『それは誰の事だぁーッ!』
「おチビって性欲あんまりないじゃない?
多分ドーナツとかいっぱい食べてるせいだと思う」
『それを言ったらシンナバーだっていつも腹ペコだったじゃ……』
「だから食べて補うんだよ」
シンナバーとこんな話をするとは思いもよらなかった。