【21】ラボナ湖の怪物
次の日の朝、あたし達は仕事をすべく依頼人にサインを貰いに行った。
依頼者はナボラの市長、オーピメント・テンという人物で、この街の司祭でもある。
ナボラは街なのに、なぜか一番偉い人は市長なんだよね。
テン市長とでも言われたいんだろうか? 見栄っ張りでしかも駄洒落が好きそうだ。
「やぁ、シンナバー
随分と久しぶりじゃないか、元気だったかね?」
「は……はい、大変ご無沙汰しておりおり元気です」
なんだーッ!? あのシンナバーがタジタジじゃないか。
「まさか名づけ親の私がキミに助けてもらう日が来るとはな、まぁ今回はよろしく頼むよ」
「はい! 精一杯頑張らせて頂くですます!」
シンナバーって、テン市長が付けた名前だったのか。祝福を与えたはずの子がとんだ毒舌だとはきっと知らないだろうな。
依頼書の開始許可のサインを貰い、あたし達はあの噴水前のベンチに腰掛た。
一休みせずに出かけたい所だったんだけど、どうもスフェーンが全くダメになっている様だ。
「スフェーン? あんた大丈夫?」
「ん……なぁに? あたしは大丈夫よ」
そう言ってるけど、何だか上の空の様にぼーっとしてる。
「ダメだこりゃッ! 肝心のアタッカーがコレじゃぁねー
今回の仕事失敗するかも」
『スフェーン? 今日は辞めとく?』
「おチビたん、ちゅきちゅき大ちゅきー」
スフェーンはあたしににっこりしながら、その目は涙を流していた。あたしは彼女がとても哀れに思った。
「ふぅ……、荒治療になるけど連れてけば何とかなると信じよっかー
もしダメそうならおチビがスフェーンを回収して撤収ね」
『……うん、わかった』
「とりあえず、あたしが今回の依頼の内容を説明させてもらうよ」
魔戦士組合では仕事を始める前に、確認の意味を込めて依頼内容を説明する。
それを説明する者はパーティーのリーダーだ、誰がリーダーになるかは臨機応変だけど、高ランクの者がなるのが普通だ。
だから、このパーティーでは一番ランクの高いスフェーンがリーダーのはずだったんだけど、今の彼女にはそれは無理そうなのでシンナバーが代役を務める事になったんだ。
「今回の依頼のクリア条件は、ラボナの結界を破って入って来る怪物を確実に抹殺する事、つまり逃がしても結界を破られてもダメね
因みに普段は怪物を聖職者の魔法で防いでるけど、聖職者は殺生はご法度だから組合に依頼された訳
その場合、怪物を押し返すのにここの聖職者総動員してやっとって話だからそのつもりでいてね」
はっ? 総動員? 何か思ってた内容とちょっと違うなぁ。
『えぅ……、ちょっと聞くけど』
「なに? そこのおチビ」
『この仕事って』
「難易度? それならAで報酬は100万丸だけど?」
『エーーーーッ!? ウッソォーーーーーッ!』
「そんな事ウソついてどうすんのッ! 街の聖職者総動員ってスケールからしてもAでしょ?
いつものスフェーンの火力があればやれる仕事なんだよ!
スフェーンはやれば出来る子なんだッ! 今は出来ない子だけどねッ!」
『違うんだ、あたしが驚いたのは報酬の方』
「へぇ、おチビって意外としたたかなんだ
でもねぇ、スフェーンがこんなんじゃー」
『うむー』
あたしはふにゃっと寄りかかっているスフェーンを横目で見てうなった。
「とりあえず、怪物は毎日湖側から上がってくるらしいから待機してましょ」
乗り物にスフェーンを引きずる様に乗せ、あたし達は湖の岸に移動して待機する事にした。
岸辺に着くとスフェーンだけを乗り物の中に残し、あたしとシンナバーは辺りの監視を始めた。
「奇麗な湖なのに出てくるってどんだけ無粋な怪物なんだろね、自分が怪物だって事分かってるのかッ! 自重しろよッ!」
『怪物にそんな期待する人見たの初めて』
「おチビは古いッ! 時代の流れについてけない怪物はあたし達に淘汰される運命なのだよッ! ザマーみろッ!」
『ブッ! 淘汰する側が限定されてるのかッ!』
シンナバーっていつもこんな面白い事言ってたんだ。
バッドエンドの対象が、あたしじゃなくなっただけで面白くなった無責任さに気が付いた。
もしかすると他の人にはこんな風に聞こえていたのかもね、きっと別の誰かが対象だったらあたしも一緒に笑っていたのかな?
そうだとしたら、あたしも他の人の事は言えないな。
『ん……?』
「どうしたの?」
『何か辺りの雰囲気が変わった気がしたんだけど』
「そう? 注意して見てて、あたしはスフェーンを起こしてくるから」
シンナバーはそう言って乗り物に向かった。
辺りにイヤな雰囲気を感じる空気が集まっている。これが怪物が出る予兆なのかな?
嫌な雰囲気が感じられる方向を見ていたら水面から50cm程、霧とは違うもやもやした異物が現れ始め。それは次第に集まりやがて大きな塊に変わって行った。
『でたぁーーーーーッ!』
「えぇーーーッ!? スフェーンは全然ダメだよッ! 起動しませんッ!
おチビッ! 何とかしてて!!」
『何とかって……どうすれば』
目の前の塊はどんどん寄り固まって大きくなっていく、何だかわからない物が寄せ集められた様な作りのその黒っぽい塊は、一見してまともな生物の類ではなかった。
それは魔物とも違うただ汚いだけの塊だ、それに一番近いものと言えば腐った生ゴミだろうな。
その生ゴミの様な黒い物体からだろう、すっごい嫌な臭いがしてる。これは……雨風に晒されて放置された泥と生ゴミの混ざった様な臭いだ。
『うげ……コイツすっごい臭いよッ!』
「こっちにも臭ってるよ、見た目通りの吐きそうな臭いだーーーッ!」
こんなとんでもなく臭い奴が湖に潜んでいたのかーーーッ!?
とてもじゃないけど、もう二度と湖の水は飲みたくないよ。ナボラの飲み水はこの湖から引いてるから、既に大分飲んだ事になっちゃうけど。
怪物はゆっくりと岸へと上がってきた。その身の丈はナボラの立派な塀を軽く越えられる程で、15メートル位あるんじゃなかろうか。
その怪物の表面からプツプツと言う音が聞こえる、何かが発酵してる様なそんな音だ。
そして怪物を構成しているものも、やっぱり訳分からない物の寄せ集めにしか見えない。
陸には上げないといけないから放っておいたけど、これ以上は進ませる訳にはいかないか。
あたしは両手で親指と人差し指を立てたものを作り、斜めに構えてポーズを作ると小細工魔法を発動させて怪物を取り押さえてみた。
怪物の足元の土などを使い、怪物がこれ以上前進出来ないように様にしっかりと結合させて固めてやったんだ。
とりあえずな感じで怪物の進行を止めれたみたいだけど、ずっとこうしてても退治は出来ない。次の手を考えないと。
困ったぞぉ、こんなのにコレが効くかどうかわからないけどやってみるか。
地面からタケノコの様に尖ったものを勢いよく伸ばし、怪物を串刺しにしてみた。
タケノコは怪物に「ぐにゃ」って感じで突き刺さったよ。
やっぱりなー、全く手応えがないや。流石生ゴミだ。
「おチビーッ! スフェーン無理やり連れて来たよッ!」
連れて来られたスフェーンは、足が地面に付いていない様にフワフワしていた。
「さぁスフェーンッ! 本気出してゴーッ!」
スフェーンが両手を前にかざすと、その両手が赤く輝いた。その次の瞬間、怪物の上半身が激しい光を放って燃え出した。
『どう? やれるかな?』
「ダメ……、全然威力が出てないよ」
スフェーンがどれ程の魔法が使えるか正直あたしは知らない、だけどシンナバーの話では今のは全然ダメみたいだ。
「スフェーンッ! しっかりしてよッ!」
「もうあたしはダメなんら、いっその事死にたい……おチビたんに殺されて死にたい」
スフェーンは涙を流し、膝からガクッと崩れ落ちてしまった。
『スフェーン……』
その時、あたし達の後ろから聞いた事のある声がした。
「それじゃ、わたしがお手伝いしましょうか?」
あたし達の後ろから聞こえたその声の主は、あたしを見てほっぺを膨らませたんだ。
どんなもんでしょう?一番いい方向に持って行きたいです。