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【20】印

 クリーダの付けた印をスフェーンに見られてしまった。


 スフェーンは目を見開き呆然とした顔でそれらを見つめ、震える手で印の正体を確かめる様に触れている。


「いやらしい、信じられない」


 どんなあたしを望んでいたのか知らないけど、スフェーンの理想である必要なんて全くないじゃないか。

 何も知らないくせに勝手な評価をされて、あたしはちょっと腹が立った。


『信じてなんてくれなくていいよ、

 あたしはスフェーンがどう思おうと自分で考えて自分で行動するんだから』


 そう言ったとたん、スフェーンがギュッとつねった。


『イタッ! 何すんのよッ!』

「これ付けたのってあのクリーダって人なんでしょう?」


 スフェーンは凄く落ち着いた声で聞いたよ。

 その返事をあたしは少し考えていた、クリーダを巻き込みたくなかったからね。

 でも、この際だからハッキリとさせようと思って言ったんだ。


『うん』

「いつからなの?」


 そう聞かれてあたしはビックリした、一昨日からだって事にね。だってすっごく前な様な気がしてたから。

 一昨日までそういう対象と思ってなかったクリーダを、今は大事にしたいと思ってる事にも驚けた。


『一昨日から』

「そんな……たったそれだけで」


 スフェーンはガクッとあたしの上にうな垂れ、その拍子に結んでいた長い髪がほどけてパサッと落ちた。

 やわらかい髪があたしの体に広がり、少しくすぐったい。


「全部食いちぎってやる」


 そう聞こえた次の瞬間、胸に激痛が走った。


『うぎゃーーーーッ!!!』


 スフェーンがあたしに噛み付いたんだ。

 たまらずあたしは逃げようとしたけど、強い力で押さえ込まれて動けなかった。


『やめてッ! イタイッ!!!』


 余りの痛みにスフェーンをバシッと殴ったらやっと離してくれた。


「ほら、あたしも付けられたよ」


 スフェーンが噛み付いた所が真っ赤になって、点々と血が出て来ているのが見えた。

 押さえ込まれたまま、あたしは魔法学校の頃を思い出していた。


 <一緒に帰ろう>


 スフェーンはいつもあたしを誘い、そしていつもスフェーンの家に寄る様に言ったんだ。

 それがあたしはたまらなく嫌だった。だからなるべく理由を付けて断ったり、言われる前に走って帰ったりしてたよ。

 でも、そうすると後ですっごく機嫌が悪かったなぁ。


 ある日どうしても逃げられない状況になって、仕方なくスフェーンの家に寄った時、あたしは彼女と関係を持ってしまった。

 その時あたしは、そういう行為に対するただの興味なんだろうって思ってた。まさか彼女が本気だったとは全く思ってなかったんだ。

 でもね、スフェーンは自慢げにクラス中に話して回ったんだ、それはとてもショックだったよ。


 それからみんなから特別な目で見られる様になっちゃった。

 それまで仲の良かった友達もあたしを避ける様になったし、黒板にはスフェーンとあたしが抱き合う落書きまでされてた。本当に苦痛だったなぁ。

 あ、スフェーンと幼馴染のシンナバーだけはずっと変わらなかったかな。その前からずっと毒舌のバッドエンドメーカーな訳だけど。

 半ば諦めたあたしは、毎日スフェーンの家に寄る事になったんだ。心は閉ざしていたけどね。


 魔法学校を卒業して、ついにスフェーン達に会わなくて良いって開放感から、あたしはあの街に引っ越したんだ。

 それからは、たった1つの取り得である「小細工魔法」を使って何でも屋みたいな事してたのさ。

 教会だって作ったし、ナベだって直した。今やあの街のあちこちにあたしの手がかかっている位に何でもやったさ。


 ――自由な3年間だったなぁ


 覆いかぶさったままのスフェーンを見ると、スフェーンは少し心配そうな顔をしてじっとあたしを見ていたよ。


「もしさ」


 落ち着いた声を取り戻したスフェーンが口を開いた。


「最初から優しくしてたら、あたしの事好きになってくれたのかな?」

『……わかんない』


 その問いかけに正確には答えられない、そういう事は論理的に考えられるものじゃないんだ。


『でも』

「でも?」

『嫌いにはならなかったと思う』


 あたしはあえて嫌いと言ってあげた、この状況で中途半端な事を言う事はお互いの為にならないから。


「やっぱり、嫌いなのね

 あたしはあなたが昔も今も大好きなのに」

『ごめん、でもそう思うんだからしょうがないんだ』

「わかったよ、すっごく嫌かもしれないけど

 後1度だけいい思い出を見させて……最後のわがままだと思って」


 スフェーンはさっき噛み付いた所に点々と出て玉になっている血をやさしく舐めた。

 あたしはその様子を見て、スフェーンに対する気持ちは変わらないけれど、やさしく髪を撫でてあげた。


時に、人は非情でなければならない場合もあるんじゃないかと思うのですが、いかがでしょう。

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