【2】初仕事への出発
最初の仕事の出発に向けて、あたしは1つ大事な事を決めなければならなかったんだ。
あたしはついに魔戦士組合に入った。
正直言うとちょっと信じられないんだ、まさかこのあたしが魔戦士組合に入ってるなんて。と思いつつ、組合員の印を見つめニンマリとするあたしがいる。
組合員の印は、剣と盾を合わせたシルエットの上に、魔法を現す6角の星をそえた形をしている。
魔法の6角はトゲトゲの部分が精霊の火土雷氷水風に相当したそれぞれの色になっていて、その中央は6精霊の根本属性である光と闇という対極な属性が色でちゃんと表現されている。
簡単に言うと6種類いる精霊は、光か闇のどっちかに分けられるって事。
ここまで来たらついでなので説明しておこう、光属性なのが火と風と雷の精霊で、闇属性なのが氷・水・土の精霊なのだ。
もし、将来魔法を扱おうと思っているなら暗記してしまった方がいい、魔法学校の入学テストに絶対出るからな。
本当はもっといっぱい属性はあるんだけど、それは教科書を見て学んでくれたまえ。
さて、あたしとクリーダの初仕事の出発まで後二日ある。
その間に出発の準備を整えなきゃいけないんだけど、あたしにはその他にもしなきゃいけない事があるんだ。
それは何かと言うとだな。
この仕事をはじめるにあたり、あたしは今後新しい自分になろうと思ってる。
何とかデビューみたいだけど、そうでもしないとやってけないと思うんだ。
まずは話し方を変えてみよう、それに服装も髪型も変えないといけない。
小細工魔法のモーションにも工夫が必要かな、ホントはモーションなんか全く必要ないんだけど。
ただ、エイヤッ! とやるだけじゃ華がない。
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あぁもぉ、二日なんてアッという間だったよッ!
出発の日になってしまった。
とにかく髪もナチュラルカールにしたし、凛々しさと優しさを兼ね備える感じのローブも新調して、早速組合員の印も付けた。
思った通り、新しいローブに輝く組合員の印はとってもいい感じだ。
でも話し方だけがまだ決まってないんだよ。
『さーて、どんなもんしょぉー』
考えあぐねていると、仰向けに寝転んでいるあたしに飼いネコのダイヤが乗って嬉しそうに足踏みをした。
『いだッ……いだだだッ!』
ピンポイントに加重のかかるネコの足踏み、これが実はちょっと痛いのだ。
『暫くあんたともお別れだねぇ
ちゃーんとゴハン食べるんだぞ?』
ダイヤはゴロゴロのどをならして「にゃーん」と鳴いた。
クリーダと約束した時間が近づいたので、あたしは待ち合わせの場所へ向かった。
待ち合わせの場所は街からすぐの丘を上ったとこ。
走っていくとクリーダはもう来てたよ、時間に正確な人だね。
『お待たせー! 待たせちゃったかんにゃん』
「……? 今さっき来たとこです」
『そかー、じゃぁはりきっていってみるんにゃん』
「え……えぇ」
なんかクリーダは引いそうだなぁ、「んにゃん」はマズったかー?
『どうかしたのかんにゃん?』
「何か雰囲気変わりましたね」
『あたし、毎回キャラ作る事にしてるんにゃん』
「そうだったんですか、面白い試みですね」
あたしはこの間も「そういう設定だった」と言う事にしたかったんだけど、クリーダはどう思っているだろう。
『そうそう、目的地までは結構あるんにゃん?』
「そうですね、今日中にはたどり着けそうもない位の距離がありますね」
『まかせるのだんにゃん』
あたしは自己流「華麗の舞」を踊りつつ、ホイっと小細工魔法を使った。
辺りからは色んな素材が飛んできて、農家で使う様な荷馬車を作ってみた。
荷馬車に干草が積まれている、ごくスタンダードのタイプだ。
引っぱるのは生きた馬じゃなく木馬なんだけどね。
「!? ……少し驚きました
小細工魔法ってこんな事も出来るのですね!?」
『小細工魔法士は、小細工を駆使する事でほぼどんな事も出来る「万能魔法使い」なのだんにゃん』
クリーダったら本当に驚いていたよ、でもビックリした顔も美しいんだ、美しいんだよ。
「この荷馬車に乗って行くのですか?」
『その昔、人は荷馬車の干草を見ると寝そべりたくなったと言うそうだんにゃん』
「なるほど……」
『干草に寝そべってこそ旅って感じがするもんだんにゃん』
あたしは荷台の干草にゴロンと寝そべって見せた。
「せっかくの新しいローブに干草がずいぶんと付いちゃってますけど」
『それが荷馬車の醍醐味ってヤツだんにゃん
さぁ、クリーダも乗った乗った!』
クリーダを無理やり荷馬車に乗せると、目的地へと出発した。
『よいではないか~! よいではないか~!』
「……あの……」
『よいではないか~! よいではないか~! ……んむ?
どうしたんにゃん?』
「何ですか? その『よいではないか~』って言うのは」
『クリーダは知らないのかんにゃん?
荷馬車の上では言うものらしいんにゃん!』
「知りませんでした、そうなのですね勉強になります」
『クリーダも一緒に言うんにゃん!
さぁ、よいではないか~! よいではないか~!』
「あ、はい
よいではないか~! よいではないか~!」
それから10分程して、あたしは旅に出るのは荷馬車じゃなくて幌馬車だったと言う事に気が付いたとさ。