【16】クラスメイト
あたしは二度と会いたくないと思っていた2人に、魔戦士組合で出会ってしまった。
魔戦士組合で会ったスフェーンとシンナバーは、魔法学校のクラスメイトなんだ。
あたしはあの頃の事は何も思い出したくない、わざわざこの街に引っ越して来たのもあの二人に会いたくなかったからなのに。
もう少し遅く来ればと思って仕方がないや、明日なんて来なければいいのにな。
時間と言うものは無情なもの、明日は必ず来るものなんだ。
すっごく気が向かないけど、先にいないと機嫌が悪くなる二人だからあたしは早めに行って魔戦士組合で待っていた。
「おー! いたいた! エラいぞーッ!」
「おチビは朝からヤラレる気満々じゃないか!」
「ぷっ! シンナバーはうまい事言うなーッ!」
人をネタに勝手に盛り上がって爆笑するうるさい二人、ホント昔と全く変わってないや。
「それにしても、おチビたんって随分オシャレになったよね」
「ねーッ! 何か女子供って感じするわー!」
「それもらった! 女子供だッ! アハハハーーーッ!」
「あ、そうだ! おチビたんがどんだけ成長したかチェックしてやろうよ」
「あー、そりゃ重要事項だぁ」
『えっ? ちょっと!』
二人があたしをペタペタ触りはじめた。
「へぇ、ちゃんと育ってるんじゃん」
「ますますスフェーン好みになったんじゃないのー? こりゃー楽しみだ」
二人はニヤリとしてあたしを見ていた、今あたしの顔には不安がにじみ出ている事だろう。
「そんじゃ、盛り上がった所で出かけようかぁ?」
「ぷぷーッ! おチビも昔に比べて大分盛り上がってたしね! 背は変わんないみたいだけど?」
そうやってすぐ人をネタにして! 騒々しいこの二人があたしは大嫌いだ。
「でもさー、場所ってどこだっけ?」
「何忘れちゃってんのーッ! ナボラ湖だってば! そこで鬼退治するのッ!」
「おッ! 鬼ッ!!! アハハハハハッ!! 鬼は違うだろォー!」
「あれぇ? 鬼じゃなかったっけ? 確かそう聞いてたんだけどぉ?」
あたしはこのしょうもない盛り上がりに心底うんざりだ、はたから見ると面白そうな二人に見えるらしい。
魔法学校であたし達3人って周りからは仲良しだと思われていたからね。
他のクラスメイトに会ったりすると、「スフェーンは元気?」とか「シンナバーは?」とか聞かれたよ。あたしはその名前のかけらすら聞きたくない位に二人が嫌いなんだ。
しょうがないから一応二人のクラスを説明するとね、スフェーンが攻撃型の魔法を使うソーサラー、シンナバーが回復系の魔法を使うプリースト。
シンナバーみたいな毒舌がよく聖職者になれたもんだと思うけど、一応これでいて教会の娘なんだ。信じられないけどそうなんだ。
そして、諸悪の根源はスフェーンだ。
「ほらッ! おチビたんはボーっとしてないで乗り物出す!」
『でも材料がないよ』
「だったら探して来ればいいじゃない? ほら……さっさと行く」
「そして二度と生きて帰って来る事はなかった……スフェーンは冷たくなったおチビを見つけて踏み潰しましたとさ」
「なにそのバッドエンド! 面白いじゃない!」
「でしょー!?」
あぁもぉ嫌だ。
スフェーンに言われ、あたしは乗り物の材料を探しに行った。
乗り物と言ってもあの軍の乗り物は使いたくなかった、あれはクリーダとの思い出がありすぎるからね。
今頃クリーダはどうしてるのかなぁ……ずっと怒ったままだったらイヤだなぁ……クリーダの事を考えるとため息が出てしまう。
少し探して何とか材料になりそうなものを見つけると、小細工魔法で乗り物を作って魔戦士組合に戻った。
「即興にしてはまぁまぁかー」
「そんな事言っちゃダメよ! おチビは乗り物作る位しか能がないんだからもっとホメ殺ししなきゃ!」
このやり取りがいちいち疲れる、だけどこんな程度はどうって事ないんだ。もっともっと嫌な事があるんだよ。
「席はおチビたんがここで、あたしがここねーッ!
そんでシンナバーがここーッ!」
「ひどーい! それじゃあたしがおチビに届かないじゃん!」
「だっておチビたんはあたしのだしぃー」
「こらッ! おチビはみんなのおチビなんだよ! だからおチビには人権はないんだよ!」
「シンナバーって言う事がホント冴えてるねー!
その冴えに免じておチビたんを半分与えよう」
「わぁい! 今晩のご飯にするよッ! 煮て焼いて食ったら木の葉で隠すよッ!」
シンナバーはこんな風に一見意味がわからない事言う様で、的確な精神的ダメージを与えて来るんだ。
結局あたしが真ん中で、右にスフェーン、左にシンナバーと左右とも挟まれる事になってしまったよ。
とっても気が重いけど、あたし達の乗った乗り物はナボラ湖方面へ向かって進みだした。
「そういえばさ、昨日魔戦士組合にいたクリ何とかっての何なの?」
『クリーダの事? お仕事のパートナーだよ?』
「そのクリーダって人が、おチビたんと組もうって言ったんだって?」
『う、うん……』
「しっかし、物好きよねーッ?
乗り物以外に取り柄のないあんたと組もうなんて」
「まさかいやらしい関係?」
「でたね! ライバル意識!
次回スフェーン大ピンチ! 乞うご期待!」
『そんなんじゃない!』
「いやー、だっておかしよぉー?
絶対おチビたんとペア組んでも得しそうもないのに頼んでくるとかって」
「つまり、あたし達も今損してるって事だねーッ!
なんなら迷惑料は体で払ってくれてもいいんですよ? だがスマイルは0丸だったッ!」
「ぷッ! シンナバーあんた最高ッ!」
「はぁー、今日はなんだか朝からお腹すいちゃった! おチビ! お前を食べるッ!」
「あたしもおチビたん食べるーッ!」
あたしは左右からガジガジかじられた。
憂鬱なあたしと悪魔の様な二人を乗せたこの乗り物は、ナボラ湖に向かって進んで行った。