【15】悪寒
あたし達はドラド村の仕事を無事終えて、あたし達の暮らす街に戻って来た。
辺りはすっかり暗くなっていたけどそのまま魔戦士組合へ向かい、書類を提出して報酬を受け取った。
『やっぱり難易度低いと報酬も少な目だんにゃん
死ぬ思いまでしたのに……』
「そうですね……
でもドラド村の方達にとっていい事したと思って次もガンバりましょう」
『そうだんにゃん!
んじゃー、次の仕事でも見ておくかんにゃん!』
クリーダがパートナーじゃなかったら多分死んでいたであろう、あの「鬼退治」の報酬はビックリする程安かった。
いや、ホントは報酬は最初から書いてあったんだけど、あたし達がちゃんと見てなかったんだよね。
「鬼退治」っていう単語にばっか目がいっちゃってたよ、とんだおっこちょこいさ。
しかも難易度が低い設定なのに、結果として軍の最高機密と戦う事になった訳じゃない?
そりゃね、当然組合に文句は言ったさ、だって報酬は組合が見積もりを出してるはずだから。
でも受けた時点で全てを了承した事になるからって追加の報酬は出すことは出来ないって言われたさ。
その代わり、近いうちのランクアップは期待していいって言われたから、今回は特別に許してあげることにしたんだ。
え? ルクトイの事を組合いに言ったかって? そんなの言える訳ないじゃん!
仮にも軍の最高機密だったんだからさ、そういう情報を漏らしたら安心して眠れなくなっちゃうよ。
後注意する事はね、依頼の内容は秘守義務があるから依頼を受けた人以外には喋れないんだ。ここの職員となら相談窓口で話せるけど、それが軍の最高機密ともなるとまず話せない訳。
とにかく守らないといけない決まり事は絶対守る事、もし魔戦士組合に入る事があるなら気を付けた方がいいよ。破ったらペナルティーが重いからね。
あたし達は依頼の仕事が貼られている掲示板前へと移動した。
『なになに? 難易度Aで報酬250万丸、難易度Sナント報酬1000万丸だんにゃんー!
さすが難易度の高い仕事は報酬も高いんだんにゃん』
因みに鬼退治の難易度はD、報酬は5万丸ですよ! それを二人で分けるんですよ!
ルクトイ30匹倒して5万丸かー、最高機密ってずいぶんやっすいもんなんだねぇ。
あのサルファー将軍が聞いたら、きっと地べたに両膝と両手を落とす事だろうな。
「あらー?」
唐突に聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
聞き覚えのある声なんだけど、あたしはその声にただ悪寒しか感じなかったんだ。
「久しぶりぃー!」
『や……やぁ……久しぶりだんにゃん』
あたしは引きつった顔で挨拶をした。
「ぷーーーッ! なにその語尾ーーーッ!
あんたいつからそんな面白くなったのーーッ!?」
『えぇ……っと』
「でもあんたって、ここに居るって事は魔戦士組合に入ったって事?」
『う……ん、入ったんだんにゃん』
「へぇー、でもよく入れたよねぇ
魔法学校時代からは考えられないわ」
「スフェーン!」
更に別の声がして、あたしは更に悪寒が増した。
「シンナバーこっちこっち! ビックリするのがいるよ!」
「なぁになぁに? どーしたの!?」
「ほらーッ! このおチビたんをごらんよ」
「ありゃ? このチビっこはどっかで見た事ある気がするなぁー?
どーこだったかなぁ……あれぇ? 小さ過ぎて見えないや」
シンナバーは手のひらを目の上に置いて遠くを見渡すポーズをした。このポーズを過去に何百回も見たことか。
「おぉー懐かしい~! こんな表情って昔よく見たよねぇ」
「うんだ、感動の再会って奴だ! 呪おう!」
「アハハハハハッ! 祝えよ!」
「そうだ、せっかく久々に会ったんだし
次の仕事ウチらと一緒にやってみない? ……やるよね」
「何言ってんのー!? おチビには無理に決まってるっしょー! 超ウケる!」
「だって久しぶりだしー!
積もる話や積もるごにょごにょとかだってイッパイあるのよ」
「ふーん、ごにょごにょとかいいけどさぁ? でも仕事以前に死んじゃったりして」
「アハハハハハ! 縁起いい事いうなよ!」
「ギャハハハハ!!」
最悪だ……まさかこの街でこの二人に出会うなんて思わなかったよ。
「ところでそっちのは誰?」
スフェーンがクリーダにやっと気が付いた。
「はじめまして、彼女とペアを組ませてもらってるクリーダ・ヴァナディンです」
「えぇーーーッ!?
悪いことは言わないからあんた絶対この娘とペア組むのやめた方がいいよーッ!」
「彼女にはわたしからお願いしたんです
今も仕事を済ましましたし、全く問題ありません」
「へぇー、世の中には変わった人もいるんだねぇ?
クリーダってクラスは何?」
「科学魔導士です」
「カガク? シンナバー知ってる?」
「初耳ーッ!」
「悪いんだけど今回の仕事は人数いっぱいだから、あんたはお留守番しててくれない?
明日出発で2~3日もあれば終わるからさー!」
「2~3日後に燃えカスたんになってるかもしれないけど?」
「ぷーッ! それはありえーる!」
「ギャハハハハハハーーーッ!」
「でさー、おチビ達がやったって仕事ってなによ?」
『……お……鬼退治……』
「ブッ! ……アハハハハハーーーッ!! お……鬼ってッ!」
「ギャハハハハハハーーーッ! もうだめーーッ! 笑い死にそうーッ!」
それから2人は暫く笑い転げてたよ、その大笑いしてる仕事で死にかけたんですけど?
「それじゃ、おチビたん? 明日の朝ココ集合ね? 来なかったら……わかってるよね」
あたしはスフェーンの最後にトーンを落とす、その強制的口調が大嫌いだった。
『え……ぅ』
「そんな嫌そうな顔しないでよ、あたし達の仲でしょ?」
スフェーンはあたしの髪をスルっと手串でとかし、にっこりして言った。
『う……うん』
そして、スフェーンとシンナバーは、魔戦士組合をゲラゲラ笑いながら出てったんだ。
それからしばらくクリーダとあたしは掲示板の前で黙って立っていた。
「気分が悪いので先に帰りますね」
『あッ!』
クリーダは怒っているのかな? さっさと帰っちゃったよ。
あたしだってあの2人なんかと一緒に行きたくないのに、でも断れないんだよ。
……今日はずっと一緒に居てほしかったなぁ
あたしはがっくり肩を落とし、重い足どりで魔戦士組合を出て家へ帰った。