【13】夜明け
少々毒入りですがついてきてもらえます様に・・。
危機一髪! ……だったのか、実はそうじゃなかったのかわからんちんだったけど、あたし達は無事に目的を達成しドラド村へと向かっていた。
『ほらッーッ! 見てみるんにゃん! 手がーッ手がーッ!』
寝てる時に手が痺れた時ってうまく動かせないでしょ? 今まさにそんな感じ、それが面白くて遊んでるんだ。
ご覧の通りやっと喋れる様になったんだけど、ちゃんと喋れないのってホントに辛いもんなんだね。
「キスマーク……いっぱい付けちゃいました
後でいくつあるか数えてみてくださいね」
『んなッ!? キッキッ……ッス!?』
「わたしのっていう印です
心配しなくても服の外から見える所には付けてませんから」
クリーダの顔は髪で目が見えない程うつむいていた、でもその口元はくっと上がっている。
多分すっごいニヤっとしてやがるんだろう。してやったり感を味わってるのだろう。
さっきから何かしてるとは思ってたけど、そんな事してたのかーッ!
もちろんとってもうれしいさ、その印とやらを早く見てみたいさ。
あたしが仰向けのまま首だけを動かして「ウーウー」してたらクリーダが起こしてくれて、さっきみたいにお人形を抱く様に膝の上に抱え込でギュッとしてくれた。
そして、あたしの手をとると指を絡ませ、
「ほら、ここに1つと、ここに1つ……」
クリーダはあたしの手を持ち、1つ1つあたしの人差し指でマークの場所を教えてくれた。
『ぎょぎょッ! また随分と付けてくれたもんだんにゃん』
「フフっ、まだ他にもあるんですけどね」
クリーダは少し得意そうに全ては自分のものと言うかの如く、あたしの全身くまなく手を滑らした。
『自分だけズルいんにゃん! あたしも付けたぁーぃ!』
「付けてくれるのですか?」
喜んだのかな? なんかクリーダの声のトーンが少し上がったよ。
クリーダはあたしの背中を浮かし手で膝を持ち上げると、膝の上であたしの体をクルリと回転させそっと抱え込んだ。
うーん、面と向かってみると結構ドキドキするもんなんだなぁ。
言ったものの自由に動けないあたしに、クリーダが白くやわらかい部分の肌を唇に寄せてくれた。
その白い肌はクリーダの匂いが凄くした、ウッハァ~いい匂いだぁー。すっごく幸福な気分に満たされてるよー。
クリーダはゆっくりと、そしてやさしくあたしの髪をなでていてくれた。
白い肌から唇が離れると、そこにあたしの印がついていた。これでもうあたしのもの? だよね。
クリーダは、あたしの印が付いたのを見て満足そうな顔をしていた。
「またつけてくださいね」
にっこり微笑むクリーダに
『うむ、まかせておくのだんにゃん』
と答えるあたし。
あたし達の乗った乗り物は朝焼けの空の下で、ドラド村が遠くにかすかに見える辺りで停められた。
きっと昇り始めた太陽の光が、この乗り物に長い影を作らせている事だろう。
何故停められたかって、そりゃぁ村に入るなら身支度はちゃんとしておかないとだからね。
あたしはまだ自分で出来ないから、クリーダがやってくれてる訳なんだけど。
『ねぇ、ずっと気になってたんだけど、
なんでクリーダには麻酔が効かなかったのかんにゃん?』
「いえ、ちゃんと効いてましたよ」
『へ? そうなのかー! でも随分早く回復したもんだんにゃん』
「麻酔の成分はわかってますからね、急いで解毒していたんです」
『おぉッ! そんな事が出来たのかー!
んで、いつ頃動ける様になったんにゃん?』
「ルクトイの前に運ばれた頃です
あなたが周囲の気を引きつけてくれていたので、ずっと解毒に集中する事が出来ましたよ
何とか間に合ったみたいで良かったです」
そっか、それでずっと喋らなかったんだ。
でもまだ肝心な事がもう1つ気になってる。
それはもちろん、ルクトイ達を無力化してしまった事だ。
『ルクトイ達をどうやって無力化したんにゃん?』
「魔法には科学的な原理があります
例えるなら時計の歯車の様なものなのですが、その歯車を1つでも抜いてあげると魔法は失敗してしまいます
わたしはただ1つの歯車を抜いてやっただけです」
そう簡単に言うけど、相当な知識と魔法の能力が必要とされるはず、少なくともあたしにはチンプンカンプンさ。
だってそもそも「科学」という単語がどういうものか知らないからね。
そう言えば、最初にルクトイの主砲について「一般的な精霊魔法と同じ方法で放たれている」って解説してたけど、あの時の自信満々さはそれへの対策が出来るからこそだったのか。
乗り物がドラド村に到着し、クリーダはあたしを背負って乗り物から降りた。
そしたらベニトが凄い勢いで家から出てきたよ、さっすが子供って早寝早起きだね。
「やっぱりなぁー」
『なんだんにゃん』
第一声に込められた意味は大体分かるけどね。
「娘ネコっていっつも真っ先にやられるんだもんな」
『うぐぅ……』
今回は全く反論出来ないね、行きの移動には貢献出来たけどその後は散々だったから。
「ベニトさん、この娘をツリーハウスまで運ぶのを手伝ってもらえますか?」
「しょうがねーなぁ」
ベニトはハリキってあたしをツリーハウスに運ぶのを手伝ってくれた。
運び終わった後のベニトの一言は。
「お前ってさ、子供じゃなかったんだな? 少し母ちゃんみたいだ」
『うむ?』
なんだってーッ!? って事は今まで子供だと思われていたのかッ!!
きっとベニトが後何年かして、大人の女の魅力が理解出来る様になった頃、あたしを思い出すのだろうな。思い出しちゃうんだろうな。
ならば、心に残る程の思い出を作ってあげねばなるまい。