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【12】最高の玩具

 あたし達は軍にあっけなく捕まり、そして処刑されようとしていた。


 魔戦士組合に入って最初の仕事すらこなせないのか、あたしの人生はこれから始まるはずだったのにな。

 クリーダはずっと黙ったままあたしを見つめてくれてる、ゴメンねあたしと組んだばかりにこんな目に合わせちゃって。

 また涙が頬をつたって流れ落ちた時、クリーダが声を出さずに唇だけでこう言ったんだ。


「うれしい」


 って。


 兵士がルクトイに指示をしたら、目の前でずっと止まっていたルクトイが動き始めたよ。

 そっか、ルクトイは魔法で動かされてるんじゃなくて、軍の人間のいう事を聞く様に出来てるんだね。


 ルクトイが止まり姿勢を整えた、いよいよ最後の時が来たのだな。

 それからあたしはクリーダの顔を見ていたんだ。ずっとずっと見ていたんだ。


 ずっとずっと……?


 あれから3分位は経ったんじゃなかろうか。

 腹をくくったから時間が長く感じるんだ、ってもんじゃない時間が経過している様な。


「クス……」


 あれ? クリーダが笑った!?

 あたしはクリーダが見つめている方向へと目をやったよ。


 そうしたらさ


 目の前のルクトイの目が何度もピカピカ光ってるんだ。


『にゃんらー(ナンダーッ)!?』


 ルクトイは主砲を撃つときに大きな目が光ってたんだけど。

 目をピカピカ光らせてるだけで全然何も起こらないぞ!?


「それじゃ……」


 クリーダがそう言うと、あたし達を板に縛り付けていた紐が一斉にブチっと切れたんだ。

 体に力が入らないあたし達はそのまま地面に向かって崩れ落ちてゆく。

 ……と思ったら、クリーダは姿勢を崩すどころかしっかりとあたしを支えたんだよ。


『にゃんれー(何でーッ)!?』


 まさか! クリーダは麻酔にかかっていなかったのかーッ!?


「はぁ……、あなたを見ていてわたしはとてもとてもたまらなくて……」


 クリーダはあたしを抱き上げると、顔を近づけてのぼせた様な目でそう言ったのさ。

 なんと言う事か! あたしが取り乱してるのを見て、ひたすらハァハァしてたって言うのかーッ!

 これ程あっけにとられたのは生まれて初めてだ。


 そして、今の軍の様子はと言えば。

 必死に目を光らせている目の前のルクトイと、様子がおかしい事に気が付いた兵士達が遠くで右往左往している。

 驚く事に、他のルクトイも周囲を囲むようにしてたんだけど、やっぱり目を光らせてるだけで何も起こらないんだよ。


「では、はじめますよー!」


 クリーダがそう言った直後、あの雷の様な音が全ての方向から聞こえ、全てのルクトイが爆発してしまった。

 その光景にあたしは何が起こったのかすら分からず、ただ目が点の様になっていたよ。


「お粗末な最高機密さんですね」


 えーーーーッ!?


 ルクトイって軍の兵器で、しかも最高機密のはずだったよね!?

 それが完全に無力化されるわ、いとも簡単にやられちゃうわって……科学魔導士ってそんなに強かったのか!!

 ともかく、クリーダが1つの軍の戦闘力を完全に奪った事だけは確かだ。


 そして、クリーダはあたしを抱きかかえたまま、サルファー将軍に向かって歩き出した。

 周りの熱風から守る為に周囲に雪を降らせてくれている、その様はまるっきり氷女そのものだ。全く終始美しい人だよ。

 かすかに風に乗って香るクリーダの香りが心地良い、やっぱりいい匂いだ。


 サルファー将軍も兵士達も、余りの出来事を目の当たりにして動く事すら出来ず呆然と立ち尽くしていた。


「サルファー将軍、こんな欠陥品は最高機密にはなりませんよね」

「あ……あぁ」


 そう答えたサルファーは、口を閉め忘れている様だった。開いた口が塞がらないと言うのはこう言う事なのかな。


「「すごい……これが愛の力なのね……超感動したわ」」


 岩2人の口調がまた変わってる、もしかしてこっちが本当だったのか?


 その後、あたし達は軍にとがめられる事もなく、乗り物まで用意してもらえちゃった。

 帰り際にあの隊長と部下達が敬礼しているのを見て、あたしは笑顔を返してあげたよ。


『ひろいめにあっらもんらー(酷い目にあったもんだー)』

「えぇ、やり甲斐がありましたね」


 クリーダはあたしを膝の上に座らせて、揺れて落ちないようにしっかりと支えてくれている。

 その様子は大きなお人形を抱っこしてる少女の様にとてもうれしそうだ。


 今日は不思議な事ばかり起こったな。

 クリーダとの事もだけど、何故クリーダには麻酔が効いてなかったのか、何故ルクトイが無力化されてしまっていたのか。

 まだまだ知らない事がたくさんあるんだね、あたしはクリーダの事がもっともっと知りたいな。


「フフッ」


 クリーダはまだ殆ど動かす事が出来ない、あたしの手や足で遊んでいてとても楽しそうだ。


「こんなチャンスは滅多にないですものね」


 そう言ってクリーダはあたしの首筋に唇を這わし、あたしはそれを喜びで受け入れた。


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