【10】最高機密
あたし達は軍のテントの前で兵士たちに包囲されたまま、さっきの隊長らしき男の帰りを待っていた。
包囲している兵隊達、剣は鞘に収めたんだけど、無言のままあたし達を取り囲んでいるよ。
うっはー! 何かイヤな感じだなぁー!
場の緊張を解そうと思って、せっかく渾身のアクションを放ったのにコイツらと来たら一言も喋らないんだよ。
ノーリアクションってどんだけ恥かかせてくれるんだーッ!?
あ、もしかして軍の兵隊ってすっごく不自由なのかな? そうならしょうがないかー。
任務中の勝手な行動は怒られちゃうんだろうね。うん、きっとそうに違いないさ。
後で「あの娘ネコかわいかったな~! また見たいなぁ~!」とか、「じゃぁオレは氷女がいいな」とか言って盛り上がるんだろうな、文字通り盛り上がるんだろうな。
……うげ。
そんな冗談は置いといて、こうしてる間もルクトイ達の演習は続いていて、何もない砂地には轟音が響き渡ったままだし。
あー、早く終わらして帰りたい。
そう思ってちらりとクリーダを見たら、彼女は羽ばたき機に腰掛けて頬杖をついてぼーっとあたしを見ていたよ。まぁ……考えてる事は大体同じだろうな。
辺りの他の様子はと言えば、テントの入り口に灯りが2つ、その入り口の両脇に兵隊が1人っつ。そのテントの中は全く見えない。
他のテントも大体そんな感じだけど、人が余り外にいないって事はテントの中にでもいるんだろうか?
それにしても、あのたくさん居るルクトイってどうやって動かしてるんだろう?
専門の魔法使いがいるのか、それとも何か道具を使っているのか。
教科書にはそこまで載ってなかったからねー、そこが一番知りたいのに。
兵器としてなら魔法使いがいらない方が便利なんだろうけど、いくら何でもそこまで便利なのかどうか。
あたしがルクトイが気になる理由、小細工魔法は召喚魔法に似ている所があるんだけど、あのルクトイは召喚は必要ないけど召喚士が召喚した魔獣とほぼ同じだからなんだ。
召喚魔法は操るものを召喚して、小細工魔法はこの羽ばたき機や荷馬車の様にその場で作り出すって違いはあるけどね。
因みに小細工魔法は何かを作り出す為に特に材料は選ばない、地面の土だろうと井戸の水だろうとゴミの様であっても実は何でもいいんだ。
あらゆるものに小細工を施す事が出来、しかも維持する為の魔力が必要ない。
そのお陰でかなり大きなものも操る事が出来たりするのだ。
例えばルクトイクラスの質量だって扱えるんだけど、それは召喚魔法でも上級者ならもちろん扱う事が出来る。
ただし、召喚士は召喚中は常に魔力を消費し続ける為、比較的短期決戦で決めたがるんだけど。
とりあえずは、ここに来てやっとルクトイのいる空だけが、変な感じで明るい理由だけは分ったよ。
ルクトイの主砲がいかに強力とは言え、あの爆発だけじゃこんなに明るいはずないからね。
今は真夜中のはずなのに、辺りは薄暗い夕方程度の明るさがあるんだ。
その理由は、ルクトイがたまに空に向かって何か打ち上げているんだけど、その打ち上げたものが雲を発光させているらしい。
空が燃える様に見えるのは、ぼんやり光る雲に爆発の炎の赤が映ってるからみたいだ。
『さっきの人はまだかんにゃん?』
いい加減暇なので、兵士の1人に声をかけてみたけど、やっぱり目だけ動かすだけで無言だった。
羽ばたき機の羽をいきなりわさわささせて脅かしてやろうか、と目論んだ時にさっきの男が戻って来た。
「お前達は魔法使いか?」
『うむ、魔法使いだんにゃん』
「そうか、ならばあの中では特に気をつける事だ
不用意に魔法を使った場合、適切な処置をとらねばならぬからな」
『ふむり』
「ついて来い、将軍に合わせてやる」
散々待たされたけど、やっとここの責任者に会えるらしい。
あたしとクリーダは軍のテントの中に案内された。
大きなテントだけど、何故かあまり人がいないんだなぁ。
警備兵らしいのが10人位と、偉そうな男が1人と、その男に諂ってるのが2人か。
でもって、この偉そうな男が将軍なのかな?
「私はここの責任者のサルファーだ
魔戦士組合と言うのはキミ達か」
『そうだんにゃん』
そう答えたら、偉そうな男の横の2人がビックリした顔をしてたんだけど、何か変な事したかな?
「はい、魔戦士組合です」
クリーダがあたしの口を押さえて勝手に喋り始めたよ、やっぱり何か変な事したのか? 心当たりがさっぱりなんだけど。
一通り依頼の内容をクリーダが説明すると、サルファーって人は「うぅむ」と唸っていたよ。
「演習場所は移動しよう」
それが、考えた末にやっと出た答えか。そんなの即答でいいだろう。
「サルファー将軍、ありがとうございます!
では私達はドラド村に戻ってその旨を伝えたいと思います」
あたし達が帰ろうとして振り返ったら、いつの間にか大勢の兵隊が道を塞いでいたんだ。
そればかりか、あたし達は両腕を掴まれて動けなくされちゃったよ。
「将軍……これはどういう事ですか?」
「キミ達はルクトイを見ただろう?
あれは軍の最高機密なのだよ、よって帰す訳にはいかんのだ」
『軍の最高機密ならもっと密かにやるもんだんにゃん!』
「ドラド村はうっかりしていたよ、まさかそこまで音が届くとは思わなかった」
『大音量で届きまくりだったんにゃん!
とんだ安眠妨害だんにゃん!』
「「きさま、その変な口を慎め!」」
将軍の横に居る2人が今になってズカズカと出て来たと思うと、木琴のバチみたいなものであたし の頭をペチペチっと叩いた。
1人1発で、2人で2発叩いたよ。
『いったぁーッ!!』
なんだコイツ等は!
あたし達が動けなくなったとたん強気になったぞ!?
更にこの2人、動きも台詞も完全にシンクロしてるじゃないか。
「「そもそもそのおかしな耳としっぽは何だ!?」」
腰ぎんちゃくが耳を触ろうとしたから、耳をバサバサっと動かしてやったら超ビビってんの。
でもまたバチでペチペチって殴られた……! それ、超痛いんですけどー?
「「将軍、この者たちは魔法使いらしいので我々に任せ下さい」」
「うむ、キミ達に任そう」
そしたらまた振り返ってペチペチっと殴られた……なんであたしばっかり!?
それにしても想定外な事になってしまったな。
これからどうなるんだろう、まさかの軍法会議にでもかけられるのか?
ルクトイが軍の最高機密って、そりゃーね。
ずっと存在してないと思ってた位だから、すっごい秘密にしてたんだろうさ。
だったらもっと周囲の地形を考えてやればいいのに、近くにドラド村があるの分ってたんだしさ。
それから最悪な事に変な注射打たれちゃったんだ。多分麻酔だと思う。
おかげで首から下がすっかり動けなくなってんの。
ふーん、魔法使い対策にはいいかもね。
でもねー。
一番最悪なのは、あたし達がさっきの2人の腰ぎんちゃく達に抱えられてどっかに運ばれてるって事。
げぇー! まさかこのまま汚されてしまうのかー!?
とんだ大ピンチだ!
おや、クリーダはあたしの方を見て微笑んでるよ。いつもながら余裕だよねー。
流石の科学魔導士もこうなってはどうしようもないだろうに。
さぁ、どうなる大ピンチ! セカンド!
やっとヒロインの役どころって感じがしてきたなぁ、オラ何だかワクワクしてきたぞー!
軍の明け透けな最高機密を見せられてしまったあたし達は囚われてしまった。