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僕は聖女兵器  作者: 不某逸馬
前章
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Chap.1 - EP6(12)『犯した罪 ―在らざる花―』

 神霊の槍(マヌス・スピア)を〝うた〟のある歌で再構成し、一撃必殺の武器へと変える力。それを聖伝化(トラディティオ)と言った。


 八本の神霊の槍(マヌス・スピア)を巨大な一本の槍にするのが、ラグイルの聖伝化(トラディティオ)


 その槍の名を――



 〝金枝篇(ミストルテイン)



 と呼ぶ。


 金枝篇(ミストルテイン)は直線攻撃ならば防御は不可能。例え逃げても、直線上なら永遠に追いかける、無限に伸びる槍である。

 ただし、ラグイルですら追えない横向きの回避や素早い動きで躱されてしまえば、避けられないわけではない。それだけに威力は絶大だが使用の難しい、扱い辛い最終手段であった。


 ミトロンというかつてない強敵を倒すには、この究極の武装しかないというのが、ジャンヌとラグイルの一致した見解である。

 だがミトロンの速度ならば、金枝篇(ミストルテイン)は容易く躱されてしまうだろう。何せ発動に際しての挙動が大きい。それに攻撃は直線的。


 そこで考えたのが、ラグイルの糸と相手の蔓を利用した、炎の結界である。

 しかも、ラグイルが糸を使って放つ炎は神霊力による聖なる火炎。

 仮に、火がつく事くらい構わない、と無理にここから逃げ出そうとすれば、全身が炎にまかれるのは明らか。何せ、聖女兵器(アルマ・フロス)は花と虫を象徴(トーテム)としているだけに、炎は共通した弱点であるものが多い。そしておそらく、ミトロンの花はバラであろう。つまり炎は、仮に弱点とまではいかなかったとしても、少なくとも避けたい攻撃のはず。


 ならば炎の結界内で回避すればいいのではと思うかもしれないが、さすがにここまで限定された空間なら、ラグイルとて槍を外しはしない。

 金枝篇(ミストルテイン)が直線攻撃と言っても、完全な〝点〟の攻撃のみというわけではなく、人間の槍のように振り回せないわけではないからだ。


 とはいえ、アザウザの時のように長々と〝歌〟っていられる時間的余裕はない。

 〝歌〟の簡略化版。それでも威力や精度は充分すぎるほど。

 アザウザで出した時よりも多少小ぶりであったが、巨大な事には変わりなかった。


 その槍――金枝篇(ミストルテイン)――を構え、狙い定めて。



 宙を舞う火の粉が、地に着く刹那の速度。


 時の密度は永遠のようで、静止画フレームよりも一瞬の煌めきの中――。




 物語と化した槍が、光となって放たれた。




 しかしさすがは〝蒼穹の聖女兵器〟。この光をかろうじて躱す――が、光は横に尾をたなびかせて追撃した。

 ミトロンの逃げ場――あるはずもない。どこもかしこも炎の壁。

 無限と永遠の槍が、青の巨人を裂き、炎で包んだ。


 そのまま、両断される巨体。


「――やった!」


 思わず、ジャンヌから声が出る。

 ほんの一瞬の隙をついたとはいえ、練り上げた策略と攻撃をたたみかける事で、遂にあのクローディアと、最強の呼び声高いミトロンを倒したのだから、それも当然だった。

 ところが。


「待て。……おい、何だこれは」


 操縦球に響く、ラグイルの声。


「え?」

怪訝(おか)しい。何なんだよ、この手応え――いや、手応えのなさは」

「何よ。反撃の間を与えずに倒したんだから手応えがないのは当然じゃない。そんな、もっと戦いたかったとか言うつもり?」

「馬鹿。そりゃ歯応えだろ。国語を知らねえのか、このバカ。オレは手応えって言ったんだ」

「……どういう意味?」

「斬った感触がねえんだよ。気付かなかったのか? 斬ったのに、斬った手応えがねえって言ってんだ」


 その時だった。


 目の前で両断されたはずのミトロンが、光を点滅させるようにして、消えていったのは。


 何が――と思う間もなく、次いで起こる、衝撃。


 激しい斬撃が、ラグイルの背中を斜めに斬り裂いたのだ。


 ――!!


 吹き飛ばされる恰好で、前のめりに倒れる巨体。炎の中に突っ込むも、ラグイル自身の炎であるため火は燃え移りはしない。

 けれども背中に受けたのは、間違いなく深傷。

 傷の深さ、深刻さを感じながら、ラグイルは後ろを向く。ラグイルだけでなく、操縦球の中のジャンヌも一緒に、驚愕で目を見開いた。


「何で……?!」


 そこには、無傷なままのミトロンがいたからだ。


「愚か――としか言いようがないわね」


 クローディアの声。


「さっき見たばかりでしょう? イバラの異能ちからを。だったら、他のもあると考えるのが普通じゃないの?」


 ジャンヌは思い出す。聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)の一人、リカードは分身を出す能力だった事を。


「まさか……さっきのは分身」

「そう考えるのが当然よね」

「そんな……そんな事、有り得ないわ! だって、分身の力はあたしもラグイルも分かっていた。だから出す間も与えずに攻撃したはず。どれだけ動きが速くても、力を出すのを見逃しはしない。なのに、どうして」

「戦いの中で出したのではないわ。最初からよ」

「え?」

「最初に腕を斬った時。あの時もう既に、ミトロンは分身を出して本体と入れ替わっていたのよ」


 まさか――と思うものの、それが現実で答えだと、ジャンヌは理解した。理解したからこそ、余計に信じられなかった。


 リカードの分身は、攻撃の威力や質量を伴うもの。分身であっても破壊力があったし、ならばミトロンの分身もただの目眩しではなく、同様のものだと考えるのが当然だろう。


 だけど――。


「じゃあ今まで戦っていたのは……偽物の分身……」


 フッ――という笑い声が、青の聖女兵器(アルマ・フロス)から聞こえてきた。


「分身ではなく本体を閉じ込めていたなら、私の方が今の貴女のようになっていたでしょうね。それほどに凄まじい力だったわ。当たっていれば――だったけど」


 ミトロンの周囲に、巨大な光の玉がいくつも浮かび上がる。


 ――!


「さあ、これで全てを幕引きにしましょう」


 それは、クローディアの守護士(ガードナー)ジェラルド王が見せたものと同じ光球。それの巨人サイズのもの。


 ミトロンが、片手を振り下ろした。


 光の玉が、ラグイルに直撃する。


 これと同時に、王城の中で剣を交えていたジェラルド王を、突如イバラのドームが覆った。

 ただし剣を交えていたといっても、目の前のアクセルオは全身傷だらけで最早立つことすら叶わない有様だったが。


「どうやらあちらの決着の方が早かったな」


 イバラに包まれながら、ジェラルドが呟く。

 その声を最後に、アクセルオは光に包まれた。

 顔を上げる事も出来ず、己の体が宙に浮いたかと思えば吹き飛ばされたのを自覚しながら。最後に聞こえてきたのは、巨大な爆発音だけ。


 城の外で起きたラグイルとミトロンの戦い。


 その決着は、ミトロンの放った光球によって、ラグイルごと城の一部が吹き飛ばされる事で幕引きとなったのだった。

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