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僕は聖女兵器  作者: 不某逸馬
前章
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Chap.1 - EP4(5)『霊蝕門 ―ラグイルによると―』

 皆がジャンヌに視線を向けると、もう一度溜め息を吐き「出てきて」と告げる。


 まさか――ホランドが口走るより先に、ジャンヌの掲げた指先から光の糸が溢れ出し、それが形となる。


 ジャンヌの指先に、妖精のような小さな人型。


 花びらのような翼をはためかせる、オレンジ色の神聖なる異形。


神霊(フロース)の具象化だと……?」


 さすがのコーネリアですら、驚きを隠せないようだった。

 オヴィリオやギルダ、三名の騎士は言わずもがなで呆然としている。反対にホランドは、ジャンヌに咎めるような視線を送っていた。


 分かっている――。


 言葉にはせず、ジャンヌは目だけで返した。


 具象化出来るほどの力がある事を、やがて敵となるであろうコーネリアの前で見せるべきでないのは言わずもがなである。けれど、そうも言ってられないだろうとジャンヌは判断したのだ。


 確かに姉・ヘレーナの復讐が目的だが、だからといって目の前で苦しむ多くの人を見殺しにするなんて出来るはずもない。それが甘さであり、そのせいで目的が遠のいてしまう危険性はあったが、そんな方法で復讐を果たしても、後悔するだけだ――。


「いいんだね」


 小さく、それだけをホランドは呟いた。


「見ての通りです。あたしの神霊(フロース)に、周囲を探ってもらいます。あたし達で無理でも、神霊(フロース)なら、何か分かるはずです。――きっと」


 ラグイルも状況が分かっているのだろう。いつもの悪態を口にはしない。

 ただし、肩をすくめるような素振りをしたので、渋々なのは明らかだったが。


 ジャンヌはラグイルに顔を近付け「お願い」と言った。


「けっ――」


 愛らしい顔をしかめながら、ラグイルは天高く上昇する。


 その姿を目で追ったコーネリアが、未だ信じられないような顔をして思わず呟いた。


「初めて見た……具象化などと……」


 確かに聖女でも、神霊を具象化出来る者は非常に少ない。

 しかもジャンヌほどあそこまではっきりとした形で出現させた聖女は、中央協会に所属する最上級の聖女ぐらいしかいないだろう。


 そういう意味でコーネリアが驚くのはそれほど怪訝(おか)しい話でもないだのが――。


 しかし、思わず口をついて出た彼女の言葉に、ホランドは違和感を感じ取っていた。


 確かにジャンヌの持つ神霊力とその潜在能力は驚きに値するものだった。けれども、コーネリアが仕える〝蒼穹の聖女〟クローディアは、それ以上の力を持っているはずなのだ。三人もの聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)を率いているのが、その何よりもの証である。


 にも関わらずコーネリアは、神霊の具象化を初めて見たと口にした。


 聖女に近い聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)なのに、クローディアの具象化は見てないというのか? いや、実際ジャンヌだって今の今ままでオヴィリオにも具象化を見せていなかったのだし、クローディアが身内にも警戒しているというか抜け目ないという可能性だってなくもないのだが――。

 それでもやはり、妙な反応だと言わざるを得ない。


 もしくは、具象化など出来るはずもない――聖女ではなく魔女であるならば――話は別だろうが。


 やがてものの数分も経たぬ内に、ラグイルは上空から舞い戻ってきた。


「先に言っておくが、邪霊(ウェルミス)の事は専門外だぞ。だからはっきりした事はワカんねぇから、そいつは理解しておけよ」


 見た目とはまるで違う口調に、オヴィリオや他の者達はさらに面食らった顔をするが、ジャンヌもホランドも気にせずに話を促す。


「あいつらが、どんな風にこっちと向こうを繋ぐのかなんてよく知らねえけどよ、でも奇妙っつーかキモチ悪い感じなのはあるな。はっきり言えば、オレが見ても分かるくらい、あからさまに怪訝(おか)しいぜ、こいつは」

「て言うと?」

神霊(フロース)だろうが邪霊(ウェルミス)だろうが、こっちの存在でないってのは同じでよ、普通、オレらの側からこっちの世界に〝門〟は繋げられねえんだ。こっち側からの何かがねえと、そいつは無理だ。で、聖女(フローラ)とか魔女(ウェルム)だのがその役割になんのが普通っつーか、それ以外オレは知らねえんだけど、当然ながらその場合、力の出処はそいつ自身になる。でも今のこの街はある種の結界みたいになってて、複数の場所から力が出されてるっぽいんだよ。ようはその結界が魔女(ウェルム)代わりっつー事だな。しかもそのせいなのかどうかは知んねえけど、門が一定の場所に留まらず、移動までしてやがる」

「ちょ、ちょっと待って分かんない。どういう事?」

「だぁーかぁーらぁー、魔女(ウェルム)が門を開いてるっぽくねぇっつってんだよ。一箇所から力が出されてるんじゃなくって、複数の場所から邪霊(ウェルミス)っぽいクセぇ力が出されてて、そいつが門を開けてるんじゃねえかって事」


 ラグイルが呆れながらジャンヌに吐き捨てると、宙を浮いたま寝そべる恰好になり、そのまま皆の視線を無視して漂いだす。


邪霊(ウェルミス)のような力って、それって一体どういうものなの」

「ンな事オレが分かるわけねーだろ。最初に言ったじゃねえか。オレは邪霊(ウェルミス)じゃなく神霊(フロース)なんだからよ」

「じゃ、じゃあその力が複数の場所からって言ってたよね。その場所って何処か分かる?」


 ジャンヌの質問に、やれやれといった態度で、ラグイルが説明をする。


 場所は四つ。


 その位置を聞いたこの街の出身者であるギルダが、そこに補足のように続けた。


「今、神霊(フロース)様が仰られた場所……。一つは中央の噴水広場です」


 ギルダの発言を受け、ホランドが何かに気付いた顔で答える。


「確かあの母子が、異変が起きたのは、噴水広場からだって言ってましたよね……。噴水と一体化した屍喰人(ゾンビ)が突然あらわれたとか……」


 ラグイルが示したのは、噴水広場、森の北側の古い祠、トナカイ牧場の小屋、東の見張り塔の四箇所。


「ここから一番近いのは、東の見張り塔だな?」


 コーネリアの質問に、ギルダが「はい」と答える。


「よし。ではまずその見張り塔に行ってみよう。もしかしたら、何か分かるかもしれん」


 危険ではあるが、今の状況でこの意見に反対を述べる者などいるはずもない。


 一同は跳ね橋を下ろし、馬を駆った――。

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