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僕は聖女兵器  作者: 不某逸馬
前章
25/97

Chap.1 - EP3(1)『聖堂聖騎士 ―予期せぬ来訪者―』

 複数の足音が、城の石畳に響き渡る。


 しかし大人数ではない。むしろ大国からの来訪者にしては、少なすぎる人数だと言えた。


 けれども百人千人の精兵を引き連れるよりも、遥かに剣呑で危険な四人の男女。


「相っ変わらずシケた城だぜ。辛気臭ぇっつーか、ショボいんだよなぁ。あとさぁ、暗ぇんだよ、雰囲気が」


 紅毛金髪(ストロベリーブロンド)を後ろでひっつめた男が、砕けた口調で嘲笑う。


「いつも言ってるだろう、いちいちデカい声を出すな。頭に響く……。ハァ……ダルい。つうか、俺にはこっちぐらい静かな方がいいわ。オーデンセは何かとやかましいんだよ。ここは静かでいい……」


 白金(プラチナ)の短い髪をした眼鏡の男が、病的な顔色でそれに反論した。

 二人の言い様に対し、黒味を帯びた茶色(ブルネット)の髪色をした女性が嗜める。


「相変わらず、お前達兄弟はまったく……。いい加減、非礼にすぎるぞ」

「え〜、別にいいじゃんか。属国だろォ? こんな城の事をどう言おうが、オレ達はご主人様なんだからよォ」

「どこまで愚昧なんだ。この城やこの国に対して言ってるのではない。わざわざこんな僻地にまで足をお運びになられた、クローディア様の労苦に対して非礼だと言っているのだ」


 むしろそちらの方が非礼すぎるとしか聞こえない、女性の言葉である。それに対して分かったのか分かってないのか、兄弟と呼ばれた二人は「へぇ〜い」と下賤な言葉遣いで生返事をする。


 三人は全員、騎士の出立ちであった。


 紅毛金髪(ストロベリーブロンド)の男は痩身に似つかわしくない大剣を履き、短髪の眼鏡は鞘越しでも分かる反りのある曲剣を腰に帯びている。一方で女性騎士は、左右の両腰に二本の剣を差していた。

 共に形状の似た身なり。明らかに同一の所属になる騎士。

 しかもかなり高位の者であるのは、衣類の仕立てだけで分かった。


 この三人を引き連れているのが、一際高貴な服装の女性。


 彼女が身に纏うのは、深海のような濃い青のドレス。胸元や二の腕飾りには、この世には存在しない青い薔薇のあしらいがあり、シンプルなようで複雑なラインが、王侯貴族以上の品格を見る者に与えた。

 艶のある黒髪に、紫がかった深い紺色の瞳は、深沈として底の見えない思慮を思わせる。



 この女性こそ、ゼーラン王国を事実上の支配下におく、ダンメルク王国の聖女(フローラ)



 クローディア・クローグであった。



 そして彼女の引き連れている三名の騎士が、彼女から神霊の力を分け与えられた三人の聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)


 聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)――それは平たく言えば聖女との契約者である守護士(ガードナー)の下位的存在。

 守護士(ガードナー)と比べれば力は劣るし使用出来る能力も限定的だが、聖女と神霊由来の異能を扱える特殊な騎士の事を指す。


「静かなのは――」


 先頭を歩くクローディアが口を開いた瞬間、三人はぴたりと会話をやめた。


「私達が来たからでしょう」

「怖れているという事でしょうか?」


 三人の内、双剣を差す女性騎士が尋ねる。


「それも勿論ですが、我々を警戒している、という方が正しいでしょうね。城に満ちている神霊力(フロース・ウィース)に、そんな香りを感じます」


 クローディアは光を映さない瞳で、無表情に告げる。


 満ちている――と言ってもそんなものを感じ取れるのはクローディアだけである。

 聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)の三人は勿論、普通の聖女(フローラ)でさえ神霊力から感情を読み取る事など出来はしない。

 巨大なのに精緻。まさに万能の力――それが彼らが仕える聖女の神霊力。


 配下なのに、今更ながらにゾッとする――。


 〝蒼穹の聖女〟クローディアの底知れなさに、三人は改めて慄然とした。


 そもそも――。


 大国であれ一国の聖女が、聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)を率いているなどという事があり得ないのだ。


 通常の神霊との契約は、守護士(ガードナー)と一対一でしかない。


 聖女は、神霊(フロース)の力を契約者である守護士(ガードナー)に与える。

 その代わり、聖女兵器(アルマ・フロス)の顕現をした際には、守護士(ガードナー)に力の触媒になってもらう。

 いわば持ちつ持たれつの関係が、聖女(フローラ)守護士(ガードナー)なのである。

 そのため、通常であれば守護士(ガードナー)との契約を済ませた聖女(フローラ)に余剰な神霊力など有るはずもないのだが、聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)を持つ聖女というのは違っていた。


 彼女らは触媒となる守護士(ガードナー)がいなくとも、一人だけで強引に聖女兵器(アルマ・フロス)を呼び出せるほど、強大なのは勿論、性質すら変化可能な特殊な力を持っているのだ。

 しかも力が大きすぎるが故に、有り余った神霊力を他の者にも分け与えられるのである。


 その余った力を与えられたのが聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)


 それほどの強大な力を持っている聖女は、テルス教中央教会直属の使徒聖女以外では聞いた事がなかった。それは最早、一国家の下にいるには過ぎる力。

 まさに規格外。


 比類なき力を持つ、聖女クローディア。


 それほどの存在である彼女が、わざわざゼーラン王国に足を運んだのは、誰がどう見ても明からさまな脅しであろう。


 ゼーランにも聖女(フローラ)があらわれた? だからと言って余計な考えは持つなよ――。


 そう言いに来たのだという事は、露骨なほどに明白。


 王城の玉座の間に通されたクローディアらは、まさにそのような振る舞いでパウル王達と接見をする。

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