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僕は聖女兵器  作者: 不某逸馬
後章
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Chap.2 - EP3(3)『博士と聖女 ―騎士の願い―』

 ギルダ達お供の者以外、レイアは当然だが、アムロイ、ホランドにもそれぞれダンメルク滞在中の部屋が準備されていた。

 特に話し合いもせず、一旦、各々の部屋へと入っていったのは、ここが純粋な敵地だからである。ダンメルク側がそう思っているかは不明だが、そこまで信頼されているとも考えていない。つまりある程度警戒はされていると思っていた方が良く、監視の目もあると考慮しての行動だった。

 さすがに部屋の中にまで盗聴的な何かを配置はしないだろうが、それでも念には念をおいて部屋に入るや否やラグイルにも協力を仰ぎ、部屋中の調べは済ませておいた。


 安堵をしたところで、一度ホランドやギルダとも話をしておく必要があるなと、アムロイは考える。特にさっき感じたアクセルオの気配。それについては二人の意見も聞いておきたかった。


 そもそもどうして彼がここにいるのか。いや、本当にいるのか。

 だが、アムロイとアクセルオには、聖女(フローラ)守護士(ガードナー)という強い繋がりがあるため、主従でいうところの主にあたるアムロイには――意識をすればだが――アクセルオの気配を感知出来るのだ。


 ロスキレの街で直接対面するまでアクセルオがいる事に気付けなかったのは、単純に半年間彼と会わなかったから繋がりが薄れており、また意識もしていなかったからである。それに邪霊の気配も充満していたというのもあるだろう。


 だがそのロスキレでの再会もあって、再び互いを感知する感度が高まっているのが、今のアムロイの状態なのだ。

 しかも一瞬とはいえ、あそこまではっきりと感じ取れたという事は、おそらくこの城の何処かにいる可能性が高い。


 少なくともあの瞬間は、間違いなく城内にいたはずだ。


 さすがにこれを黙っているわけにもいかないし、どうするのがいいか、アムロイ一人だけで悩むより二人にも相談するのは必然だといえる。

 考えを整理し終えた後、アムロイは意を決したように部屋を出た。


「え――」


 と、扉を開けると目の前に人が立っている。

 思わず面食らう顔のアムロイ。


 そこにいたのは長身の女性騎士。

 腰に二本の剣を差したその彼女は、


「コーネリア・イーグル……」


 三人の聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)のリーダー格にして、この国の騎士団長。


 ジャンヌであった時に邪霊退治の旅で同行しているものの、アムロイの姿としては他の二人同様初見になる。


「先ほどはご苦労でした」

「あ、いえ、どうも……その、何かご用で……?」


 だが問いかけにはすぐに答えず、コーネリアは素早く周囲に視線を走らせた。誰の気配もない事を確認したのだろう。


「少しお話をしてもよろしいですか? ここではちょっとあれなので、ご同行いただきたいのですが」


 不審さを全身であらわすアムロイ。そうなるのも当然だろうと、コーネリアも小さく息を吐く。


「そのような顔をなさるのは分かりますが、どうかご安心ください。あなたに危害を加えたり、ましてやあなたのあるじのレイア陛下に何かしよう、などというわけではございませんから」

「そう言われる方が安心出来ないんですが……」

「確かに――それはそうですね」


 言われて初めて気付いた、そんな顔をするコーネリア。


「一人の騎士として、あなたとお話をしたいのです」


 表情の固さは変わらず、むしろ仮面のようですらあったが、視線にはひたむきさがあった。


 アムロイには、どこか感受性の高いところがある。

 その人の心の動きを、僅かな機微に至るまで読み取ってしまうような感覚だ。平たく言えばコミュニケーション上での勘である。その勘が、今のコーネリアは無害だと告げていた。


「分かりました」


 それに上手くいけば、自分にとって有益な話が聞けるかもしれない。そんな打算もあった。

 何せここは敵地のど真ん中である。虎の巣穴で虎の子を得たいといきたいところだが、巣穴の情報がなければ食べられるのは己になってしまいかねない。ならば僅かな切っ掛けでもいいから、少しでも多くの情報を得たいというのもある。


 コーネリアは人目を避けて案内し、人の出払った厩舎へとアムロイを連れていった。

 厩舎の中、馬の入っていない柵の前に立ち、コーネリアは告げる。


「アムロイ殿、あなたは今回の祭礼をどう思われる」

「どう、とは?」

「あなたは先ほど、モーリス博士に様々な疑問を呈していた。レイア陛下をお守りするために。そのあなたのご様子から、今回の祭礼にはあまり乗り気ではないと感じましたが――如何ですか?」


 これは探りを入れられてるのか。

 しかし目的が分からない。何のためにこんな事を聞くのか、アムロイは見当がつかなかった。


「私はただ、レイア様の無事を願っているだけです」

「つまりモーリスの説明では不安を感じてしまう――そういう意味にもとれますが?」


 コーネリアはあの小男の博士を呼び捨てにした。

 アムロイが聞き逃さなかったというより、露骨であからさまな言い方であろう。


「ホランド司祭の話によれば、百年以上も教会から中止にされていた危険な儀式だという事です。そんな話を聞かされれば、誰だって不安に思いますよ」

「では、あなたは博士の説明に納得をしたと?」

「それは……」

「この儀式、本当に必要なものでしょうかね?」

「え?」

「確かに貴国の現状は捨ておけません。けれどもそれを、今回のような大掛かりな儀式を用いるより、そもそもこうなってしまった原因を探るのが、本来は正しいやり方ではありませんか? 誰もそれには触れないで、ただ目新しい劇薬のような方法を取ろうとしている。それが私には納得がいかないのです」


 そんな事は言うまでもない。

 けれどもそれをアムロイが指摘する事は出来なかった。何故なら原因はアムロイことジャンヌのせいだとされているからだ。


 最も疑われている本人が、復讐という知られてはいけない目標を胸に秘めている以上、下手な言動を慎むべきなのは当然だろう。


「貴女はもしかして、この儀式に反対しているのですか?」


 コーネリアが鋭い目で、アムロイに視線を突き刺す。


「ええ」


 言葉ではなく無言で語っている。ここだけの話だと。


「一体、僕に何を聞かせたいんですか?」

「話が早くて助かります。あなたがレイア様の身を案じていられるように、私もクローディア様をお助けしたいのです。そのために、この儀式を阻止したい」

「儀式を止める……? それがクローディア……様を助ける? どういう事ですか」

「本日、皆様が見られたクローディア様ですが、〝蒼穹の聖女〟と呼ばれるにしてはどこか儚げと言いますか、繊細に見せませんでしたか?」


 アムロイが感じた疑問である。

 前に見た威厳に満ちたあのクローディアの姿とは、まるで別人のように違って見えた事だ。


「本当のクローディア様は、先ほどあなた方が見たように、とてもお優しい方なのです。今日はたまたま、〝その日〟と重なっただけ。いつもはああではない。威厳のある強いお姿をしています。まるでそう――別人と言えるほどに」


 アムロイの表情が強張り出す。

 もしかしたら今、自分はとんでもない秘密を聞こうとしているのではないか――と。


「私もですが、聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)はあのモーリスの手によって、神霊力(フロース・ウィース)を強化されています。だから私達は、通常なら力で守護士(ガードナー)に及ぶはずがないのに、対等以上に戦えるのです。それは勿論、我が主であるクローディア様も同じ事」

「今、何と……」

「クローディア様も、あのモーリス博士の手で、聖女(フローラ)の力を強化されているんです」


 これはとんでもない話だった。


 聖女兵器(アルマ・フロス)戦でのあの強さは、そういう秘密があったからかと納得もしたし、同時に、人間が神霊に手を加えるなどという、有り得ないレベルの話を聞かされいるのだ。


 不敬などという言葉で片付けられない。今の話が真実なら、テルス教へというより、神霊への冒涜行為にも等しいと言えるだろう。


 アムロイが驚きに声を失っている中、コーネリアは続ける。


「力を強化されてから、クローディア様は性格も何もかも変わってしまった。私と初めてお会いした時の優しいクローディア様は、月に数度しかお目にかかれない」

「ちょ……ちょっと待ってください。その、モーリス博士がこの国で召し抱えられたのはいつですか」

「三年ほど前……丁度、クローディア様がこの国の聖女(フローラ)になられてしばらく経ってからですね」

「それ以前より、クローディア様と博士がお知り合いだった可能性は?」

「さあ、多分ないと思います。確か博士は、王が連れてこられたはず。何か気になる点が?」

「あ、いえ……」


 となると、アムロイの姉、ヘレーネから力を奪って殺めたあの事件とモーリスは何も関係ない事になる。

 もしかしたら姉の事件の黒幕はモーリスだったのではないか――などという考えが浮かんだのだが、時系列でそれは否定された。

 しかし奇妙というより、あまりに不審な点が多すぎると、アムロイは思った。


「そのモーリスが、あのような儀式を行おうとしているのです。私は前に、さっき見たような〝本来の〟お優しいクローディア様の時に、直接聞いたのです。儀式が怖い。儀式を止めてほしい――と」


 アムロイは驚愕に目を見開く。


「アムロイ殿、あなたは我々と同じではないし、あのモーリスに何らかの〝手〟を加えられてはいない」

「〝手〟を加える……?」

「この国で神霊力を扱える人間は、大なり小なりあの男によって、何らかの処方が為されている人物が多いのです。その度合い次第では、あの男の手足のような人間もいます。でも、あなたはそうではない。だから私に協力をしてほしいのです。この神霊降誕祭(ペンテコステ)という儀式を、どうにかして中止させるために」

「ま、待ってください。その話が真実かどうかは、私には分かりません。それに例えばの話、もし仰っている全てが間違いで、儀式は純粋に邪霊(ウェルミス)を消し去るためのものだったとしたら、これは勘違いでは済まず、両国にとってもとんでもない被害を齎す事になります。もしくは貴女の話が一部真実で、儀式には何か別の(よこしま)な目的があったとしても、それでも邪霊(ウェルミス)をどうにかするという部分が本当なら、やはりこれも中止をすべきではないという事になります。そもそも、今回の話は、怪しい誰かを糾弾しようというものではないはず。あくまで、あの邪霊(ウェルミス)からの被害をどうにかするというのが目的のはずです」


 アムロイの反論に、言葉を詰まらせるコーネリア。けれども言っている意味はむしろ正しい指摘だとも言えた。


 何が真実で、何が偽りなのか。


 どちらを選ぶかを間違えただけで、何もかもを失う危険な死の選択。


 だがそこへ――。


「今の話、本当か」


 男の声が、二人の沈黙を破る。


 はっとなって厩舎の入り口へ振り返った。そこにいたのは、砂色のような色素の薄い金髪の長身。



 聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)のオズワルド・ホークだった。



「コーネリア、お前、裏切るつもりなのか?」

「一体、いつから……」


 コーネリアも気付いていなかったのか。アムロイも彼の気配をまるで感じなかった。


「答えろ、コーネリア」


 メガネごしの赤い目が、二人を睨む。

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