表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は聖女兵器  作者: 不某逸馬
前章
1/92

Prologue『お前を聖女とは認めない』

 諸侯が居並ぶ玉座の間。


 彼の手の甲に当てられた額に、光が灯る。

 他の誰よりも眩しい光が。


 衆人の誰もが思った。この二人こそ、運命の――と。


 けれども彼は言う。


「お前を聖女(フローラ)とは認めない」


 僅かに茶色味がかった黒髪。灰色の瞳。

 雪のような白皙の肌に、均整の取れた長身。

 女性であれば誰もが羨望の眼差しを送る、美しい王子。


 しかし言葉の通り、彼女を見つめる王子の目は、氷河のように寒々しく痛々しかった。

 ただ、そんな凍てつく目を向けられても、彼女は平然としている。何故なら彼女は、この目を知っていたからだ。

 冷酷さとか、己の威を鼻にかけての尊大さとか、そういったものではない。


 憎悪と怒りと悔しさ――。


 彼女のよく知る、目だ。


「お前だけじゃない。この世の聖女(フローラ)全てを、俺は認めない」


 やっぱり――と、彼女は確信する。


 嘲ったり、冷たくあしらったりしたいわけではない。むしろ相手に対して優位に立ちたいとか冷たくしたいと思うなら、温室育ちな本当の愚か者でもない限り、わざわざこんな言葉を口にはしないからだ。

 もし本当にそうしたいなら、ただ空気のように無視をすればいいだけ。


 けれどもそうではないから、こんな暴言を口にしたのだ。


 無視出来ないから――。


 無視したくとも出来ないから、王子はむしろ己に言い聞かせるように、冷たい言葉を放ったのだ。


 王子の瞳を真っ直ぐに見つめ返した彼女だけは、そんな彼の心を見透かしていた。


 彼女の存在が強く刻まれているからこそ――。


 その感情を何と呼ぶべきだろうか。

 もしそれが、恋というものなら――。


 だったらそれを、利用するだけ。


 王子も、王も、親友でさえも、この国の全てを彼女は利用するだけだった。

 全ては、己の目的のために。


 彼女は思い出す。あの夜の出来事を。




 あの夜に、彼女は全てを奪われた。


 巨人とあの聖女に、何もかもを奪われたのだ。


 だから彼女は心に決めた。


 あの女を。


 あの聖女を。


 あの巨人を。


 絶対に、許さない。


 必ず、復讐してやるのだと。


 そのためなら何だってする。何だって利用しよう。




 そう。


 この王子のように。


 彼女は分かっていた。


 王子も、自分と一緒だと。


 王子が自分を見つめる感情。それは彼女を無視出来ないものと、無視とは無縁の激しい敵意の相反する二つ。

 彼もまた、復讐者なのだ。


 だったら答えは一つだ。


 ――貴方はあたしを認めなくたっていい。


 でも、復讐したいという想いは同じはず。だったら、向ける敵意はあたしじゃないと彼女の目が語っていた。


 ――だってあたしは……僕は(・・)聖女(フローラ)ではないから。


 彼女は敵意を向ける王子に、微笑んだ。


 ――聖女(フローラ)じゃない。でも聖女(フローラ)


 ――僕は聖女兵器(アルマ・フロス)――なのだから。




 偽りの聖女と――憎しみの王子たち。




 物語のはじまりは、その少し前に遡る――。



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ