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第二十五話 薮より出づる恥

暫く沈黙が続き、時間にして2分が経とうとした時、それは破られた。

「あの」

「あのさ」


 二人同時によって。


「もうすぐ定期テストですね」

間髪入れず甘音は続けた。譲り合うことはなく、当然の様に自分の話を続けた。

「えあ、そ、そうだな」

まあいいか、クソどうでもいいことだし。

「テスト勉強してますか?」

「いいや、してない。」

「ですよね。だから、いつものお礼に私が勉強教えて差し上げようかと思いまして」

”ですよね“?

「ああ、まあ嬉しいけれど、急にどうして。それにまだ1ヶ月前だぜ?早いんじゃないの?」

「中の下らしい思考ですね。今からじゃないと遅いくらいですよ。」

“中の下らしい思考ですね”?

「そ、そうなのか。でも甘音の手を煩わせるのは悪いしいいよ。俺のせいで成績下がったりなんかしたら申し訳ないし」

「っふ」

え、嘲笑?なんかさっきからちょっと棘があるんだが。俺なんかしたっけ?あ、殴ったか。それは俺が悪い。もっと罵ってください。軽蔑してください。踏んで唾かけてください。

「私は勉強しなくても授業だけで満点取れます!そんなことより、あなたの成績が心配なんです!!いいから黙って私に従ってお礼されてればいいんです!!」

お礼する側の態度じゃないよね!?

「ど、どうしたんだよ今日!?なんか変だぞ!?俺が甘音を怒らせるようなことをしたなら謝るし正直に言ってくれ」

 言っていて心が痛む。嘘を平気で連ねる自分に吐き気がする。

「…るいです」

「え?」

「ずるいです!!」

何が?!


 嫉妬。ある特定の人物に対しての羨みや尊敬が歪んで反発的な感情を抱いてしまうこと。また、自分の好きな人の心が他者に向くのを憎む感情のことを指す。

 甘音更紗の場合、おそらく後者であったろう。まだ彼と出会って数ヶ月ではあるが、料理やショッピングモールに行ったこと、介抱の時間、その中で彼の優しさや自分軸のある彼の強さに触れる。想いが積もるには十分であった。

 そんな彼が最近、自分との時間を取ってくれていないことに彼女は少しばかりの寂寥感を抱いていた。もちろん、彼の邪魔をしたいとは思わない為、彼女はそれに対しなんら不満は持っていなかった。ただ彼女は聞いてしまった。彼が天堂愛美と付き合っているのではないかという噂を。

見てしまった。彼が神崎千花と2人で隣町でデートしていたところを。

それらはやがて、彼女の胸の内をコーヒーカップのように掻き乱す。緩やかに、ただし確実に彼女を蝕んでいた。



 時刻は午後5時12分。落ちたシャーペンの音が部屋に響く。俺は今天堂の部屋でお勉強会なるものをしている。苦手な数学を教えてもらっているところだ。ただやはり機嫌はよくなさそうに見える。俺はシャーペンを拾う時、さながら怯える小動物のように、ちらりと彼女を見る。そしてすぐ逸らし、解きかけの問題に目を落とす。

「拓海くんは好きな人、いるんですか」

パキッとシャー芯が折れる。唐突すぎる質問につい動揺してしまう。

「な、なんだよ薮から延べ棒に」

「勝手にグレードアップしないでください」

落ち着けおれ。

「なんだよ薮から肉棒に」

「しまえ。」

 命令形。怒らせちゃったかも。

「私聞いたんです。あなたが愛美さんと付き合ってるんじゃないかって…」

「いやいや、あいつはただの幼馴染だよ。それにもし付き合ってるならこうやって甘音と2人きりで会わないよ」

「でもでも!じゃあ昨日先生とデートしてたのは!!」

「だから聞き間違いだろ?!」

 信じてなかったのか…!?

「ふーん…。私知ってるんですからね」

「な、なにをだよ…」

 かいていないはずの汗が頬をつたったような気がする程、緊張している。唾ってどうやって飲み込んでたっけ?

「あなたはあのとき、私にお礼してたんじゃない。」

少し間をおく甘音。両手を大腿に挟んでもじもじしている。よく見てみると顔が少し赤い。そして、俯きながらその潤いのある健康的な赤みをした唇を僅かに動かす。

聞き取れるか聞き取れないか、そんなギリギリの小声だった。



「ぼっき……してたんですよね」

 

 

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