Ep.23 今日のご飯
2回戦目は案外すぐに行われた。先程同様に、司会者の隆々たる選手紹介に合わせ熱波包まれる会場へ身を乗り出す。
そして、すぐ様相手の名前が喚呼される。
「長年培われた経験と愛で、多くの相手を薙ぎ倒してきた天下無双の老夫婦!!!ジジ&ババ ペアーーーッ!」
オーディエンスの歓声の中から姿を現したのは、推定80歳とみえる老人らであった。2人ともシルバーのジャージを着ており、また伸びや屈伸をする姿や優しい表情から、まるでこれから散歩をするかのような余裕が感じられた。
「なんでこんな爺さん婆さんがここにきてやがる…?」
「油断はするな拓海。どんな相手だろうと、全力で戦うべきだ。」
魁斗は冷静であった。見たところ武器は持っていない。身体一つで戦う気だろうか。身体のどこかに武器を隠しているだけかもしれない。魁斗の思考は、いつもより煩く回っていた。もう何度もここへ足を運んでいるためか、感覚的にこの老人が只者でない事を悟る。
「ここが墓になっちまってもいいのかあ?!」
対して拓海。彼はダメだった。興奮のあまり、落ち着きを失っていった。しかしながらそれは、いつものことであった。瞳孔は開ききっており、いかにして自分の欲を発散するか、それだけが脳を支配していた。
「試合開始ぃ!!!!!」
その声はいつだって俺のトリガーになる!ランナーがピストルの音に反射的に反応するように、その声が俺の欲望の枷を外す。
全力で駆け出すと、ジジに狙いを定め右手で握り拳を作る。
対しジジは構えることなく、背中で両手を組んでいる。
その様子にようやく一瞬違和感を覚えるが、スピードを緩めることはせず、距離を詰める。そして、迷うことなく、拳をジジの顔面めがけ振りかぶる。
「死ねジジイ!!!!!!」
力いっぱいに殴ったその拳は、見事顔面にヒットした。
…ババの顔面に。
「っはあ?!なんでババアが!?」
まさかの状況に拓海は一瞬固まってしまう。
決して標準がブレた訳ではない。そしてババが動いた様子もない。しかし、拳は不動のはずのババに向かって打っていた。
「よくやった。婆さん。」
「これくらい容易いですよあなた。」
ババの顔面には口元に血がついているだけでダメージはさそうに感じられた。それどころか自分の拳を見ると、メリケンサックが潰れ、拳から血が出ていた。
「あっぐ…いってえ…!!」
改めて自分の手を見る拓海。
中指第一関節の肉がなく、骨が剥き出しになっていた。
よくババの口元を見ると何やら咀嚼するような動きをしている。
そこでようやく気づく。攻撃されたのは自分であったことに。中指の肉を喰われたことに。そしてあの口元の血は自分のものであることに。
「ふむ、いい肉だね。」
「こらお前、また食ったのか。」
「すみません我慢できなくて。」
「晩飯食えんなっても知らんぞ。」
「あら、作るのは私ですが。」
「そうだったな。いつも感謝してるよ。まあ、女が飯作るのは当たり前だがな。」
「そうですね。私ったら女のくせに反抗なんてしちゃって、すみません」
ぺこりと軽く頭を下げるババ。しかし決して嫌がっている様子ではなかった。そういった関係で今日まで築いてきたのであろう。
一部始終を見ていた魁斗は理解した。拓海が攻撃する瞬間、刹那の隙に拓海の拳に噛みつき、そのまま軌道を自分へと変えていたことを。
「拓海!油断すんじゃねえ!」
そう叫んだ直後であった。
「お前さんもな。」
拓海の背後からジジが顔をだす。魁斗が拓海を注視しているその隙に、空を切る速さで背後に回ったのであった。ジジは手をまっすぐにすると、魁斗の背中にそれを刺そうとする。
だが、魁斗はその手を掴み、雑巾絞りの要領でぐちゃぐちゃにした。
「ばかが!!油断すんなってオレが言ってんのにするわけねえだろ!!くっせえ、加齢臭がぷんぷんして嫌でも気づくはボケが。」
声も上げず蹲るジジに蹴りをいれる。蹴って蹴って蹴って、やがてジジは意識を失った。
「あ、あなた!!!!!」
ジジに近寄ろうとするババ。そのババの髪を掴む拓海。
「って事だ婆さん。あんたらじゃ勝てねえ。」
魁斗に続くように拓海もその掴んだ頭を地面に叩きつける。そしてもう片手で首を抑え、髪を引っ張る。
「ほげええあああああ!!!!!」
叫ぶババ。もう拓海にとっては興奮材料でしかない。
「なんだよババア!!いい声出すじゃん!!俺、熟女でもイケるみたいだわ!!ありがとなババア!!新しい興奮をくれてよおお!!!!!」
そのまま雑草を抜くように髪を引きちぎる。
そして魁斗と同じように何発も蹴りを顔面に入れる。
ババはそのまま力無くぐったりと地面に横たわる。
「お前の最後の晩餐は俺の中指だな。」
会場は、あまりの展開の早さに言葉を失っている
数秒ほど流れたその静寂はやがて、司会の言葉で打ち破られる。
「しょ、勝者…冴咲&天堂ペアああ!!!」
この男たちにとって、未だ余力を残すに容易い様子であった。




