ep.19 冷汗
いつもならすぐ終わる朝礼。しかし今日は違う。
眠い目を擦り、適当に耳を傾ける。
「みんなも噂で聞いていると思うが、先日隣の悪門高校が何者かによって襲われた。」
俺の事だ。全く、どこから流れてやがる。…ん?そうだよ、どっから流れんだよ。俺はあの日、居たやつ全員ぶっ倒した。見られていた気配もなかった。悪門高校とウチの学園に繋がりがある奴の話なんてのも聞いたこともない。…のに、黒マスクにパンツ一丁という姿まで割れている。魁斗にすら言っていなかったというのに。
「帰りは1人で帰らないようにしろ。1人で帰るしかない生徒は私に言え。一緒に帰ってやるぞ。不審者に対抗するにはな、こちらがそれ以上の不審者になればいいんだ。パンツ一丁に黒マスク…か。私でも出来る範囲内だな。」
ウゲェ…と、男子生徒数名が気持ち悪がる。
そう、神崎千花<<カンザキチカ>>はその常識外れな思想から、密かに生徒たちに「かんざキチガイ」と言われている。
「なんなら歩く時は腰を振りながら、首を鶏の様に動かすんだ。うは、我ながら素晴らしい発想だな。っぷ…だめだ、想像したら面白すぎて笑いが…っぶふ…」
きしょい。
俺が言うのもなんだがきしょすぎる。何故先生になったんだ。何故なることができてしまったんだ。一体この国は何をやっているんだ。
「あ、そうだ、パンツといえば、冴咲」
???!!!! 嫌な汗がブワッと噴き出す。
まさか…まさか…
「今日、日直の仕事忘れているぞ。ほら、日誌、ちゃんと職員室に取りにこい。配布資料もな。しっかりしろよ」
…っはあ、なんだ日直のことか…。驚かせてくれるぜ…。
にしても「パンツといえば」じゃねえよ。枕詞にしては関連性無さすぎるって。適当に日本語使ってんなこの人。
全く、完全に目が覚めた。ウトウト眠ってらんねえな。ほんと、質の悪い枕だ。
「すみません、気をつけます」
額の汗を拭いながら、控えめの声で言った。
昼休み。今日は食欲が湧かなかったため、机で突っ伏して寝ていた。
「たっくん、元気ないー。おーきーてー。ご飯たべよー」
指で俺の背中をなぞりながら言う。愛美ちゃん、頼む寝かせてくれ。……ん、よく背中に意識を集中すると、何か書いている。……こ…ろ…す
”殺す“?!
バッと起き上がる。
「あーもう今起きないでよー」
「いやいや、殺害予告されて起きない奴があるか。それにさっき起きろつったじゃん」
「殺害予告?ぶふ、何それ」
「いや、ころす…って書いてたじゃん」
「違うよー、大好きなたっくんを殺すわけないじゃん」
「んじゃあなんて…」
「“ころすけ”だよ。あと一文字だったのになー」
「キテレツ言ってんなよ。絶対殺すって書こうとしてたな。あのスピード」
「上手いこと言うねー。でもね、私の大百科事典に、そんな物騒な言葉はありませんー。」
コイツ、返してきやがった。生意気な奴だな。
「ほら、立って。かい兄はもう先に購買行っちゃったよ」
「いや、俺はいいや。食欲ないし…」
「ふーん、じゃあ私もここでかい兄待とーっと」
そう言って俺の一つ前の椅子を取ってきて目の前に座る。
俺はもう一度突っ伏す。窓から吹き抜ける風が心地よい。
木々の揺れる音がオレの全てを癒してくれる。
「あ、たっくん、ハゲてる」
バッと起き上がる。
「…まじ?」
「うそ」
ニヒッと悪戯に笑う愛美
「もう!なんなんだよ!寝られねーじゃん!」
「寝ちゃったら、おしゃべりできねーじゃん!」
なんだよこいつ?!
そんなやり取りをしている内に時間は刻一刻とすぎていき、昼休みは残り5分に迫ってしまった。
「なあ、魁斗、遅くね?」
「そうだね、何か用事でも思い出したのかな」
そうだと…いいが。
そう思ったと同時に、俺の携帯がバイブ音を鳴らした。
連絡の通知。 魁斗からだ。
『悪門にこい。殺してやる』
バッッッッ
「ちょ、どうしたの!」
考える前に、俺は教室を飛び出していた。
昼休みの終わりを告げるチャイムが学校全体に木霊していた。