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ep.18 欲望

次の日…拓海は一人で公園のベンチに腰掛けていた。

(オレはモブだ。教室の隅で目立つことなく過ごしたい…。雨音はオレにとってこの生活を脅かす、関わりたくない存在だったはずなのに…)

拓海はあの時、関係を終わらせたくないと思った。関わりたくない存在なのも本心だが、関係を終わらせたくないのも紛れもない本心だ。しかし…それ以前に、拓海は考える。この闘争心を…欲望をどこにぶつけようか。また甘音を殴ってしまっては本当にこの関係が終わってしまう。前は記憶もゲロと一緒に流れてくれたが、次はない。

「…やるかぁ」

拓海は立ち上がり、欲望を吐き出す為に歩き出した。


拓海の通う学校の隣にある、治安が終わっていると噂の高校、「災魂県立悪門高校さいたまけんりつわるもんこうこう」。拓海の通う学校の生徒も、ここの生徒にカツアゲされたりしており、その治安の悪さは県内トップクラスだ。


「オラオラぁ!立てやボケェ!」

ガラスは割れ、教室では誰も勉強などしない。校内では今日も喧嘩が勃発しており、カースト上位を狙う者たちが下剋上を狙い上位の者に挑んでいる。そんな時だった。黒いマスクを被った、パンツ一丁の男が現れた。

「あ…?何モンだ?テメェ」

不良の一人がその存在に気づく。黒マスクの男は歩いて連中に近づくと、全員を殴り飛ばしていく。

「ゴバァ!!」「ギャ!!」「グエェ!」

黒マスクの男も後ろから羽交締めにされ殴り蹴られるが、怯むことなく振り解き拳を振るう。次々と倒していき、残ったのはこの学校で頭を張る、田中一番のみとなった。

「オメェ…ドコ高のもんだ?」

返事はない…が、ここで田中はある事に気づく。黒マスクの男の息が荒い。しかし、疲労から来るものとは違う。

(コイツ…アヘってる?!)

マスク越しからでも分かる。涎を垂らしパンツを濡らし、男子高校生がしてはいけない顔をしている。

「ンヒっ!!」

黒マスクの男が変な声を出す。白い無地のパンツにはシミができ、テントを張っている。

「なっ…なんだお前ェ!!」

田中が殴りかかるも、顎に強烈なパンチをもらい倒れる。

「ンオオッッ!!ンアッ!ハァハァ…ジュルル!」

男は更に快感に襲われ絶頂する。倒れた生徒たちを横目に、男は学校を後にするのだった…。


「ねぇ聞いた?隣の高校、不審者が入ってきてそこに居た生徒全員殴り倒されたらしいよ」

「ええ、ウソ!あそこ不良しかいないのに!」

次の日。悪門高校襲撃の噂はすぐに広まり、拓海の学校にまで届いた。

(噂ってのは広まるのが早いな。まぁバレないだろうけど)

拓海は机に座り、窓の外の景色を眺めていた。空の青と葉の緑、浮かぶ雲を眺めていると、教室の喧騒から解放される気がする。

「よぉ!拓海!」

聞き慣れた声に振り返ると、魁斗と愛美がいた。

「おお…おはよ」

「拓海…隣の学校締めたのオマエだろ。地下闘技場の話聞いて我慢出来なくなったんだな?」

「拓海君、ホントに血気盛んだね!」

「オイ、あんまデカい声で言うなよ」

バレないと思っていたが、この二人には勘づかれてしまったらしい。やはり幼馴染だな…。

「でもな拓海、パンツ一丁はやばいと思うぞ。完全に不審者だからな。」

「うるせぇぞ魁斗。お前だってやる時レンチ使うのやめた方がいいと思うぞ」

魁斗は喧嘩する時、鎖で繋ぎ合わせた二本のレンチを振り回して戦う。ここまでアブナイ奴はこの街にはいないだろう。

「静かにー、朝礼始めるぞー。」

先生の声と共に、二人の欲望は日常に呑まれるのだった。




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