ダイイングメッセージ
とある中学校。二階へ続く階段の踊り場。そこでふぅ、と息をつく女。……と、上から響く靴音に顔を向けた。そこにいたのは
「……ねえ、お姉さんって刑事さんだよね?」
「え、う、うん。まあ、お姉さんって歳でもないけどね。おばさんよおばさん」
「ふっ、知らないの? 俺、自分より年上の女性はみんなお姉さんって呼んでるんだ」
「そう……知らないけど、あ、ありがと?」
「いいんだよ。それでぇ、事件の捜査だよね。難解すぎて、一人押し付けられちまったってところかな。ふぅー……まさか、あいつが死ぬなんてなぁ……」
「君、被害者の子と知り合いなの?」
「うーん、親友って言うか腐れ縁って言うかさ、ま、そんなとこ」
「そうなんだ……でも、今授業中よ。教室に戻ったほうがいいんじゃない?」
「はははっ! お供え物くらいさせてくれよぉ! これ……あいつが好きだったんだ。ま、俺は甘ったるい飲み物が駄目でコーヒーはブラックがいいけどさ」
「そう、知らないけど……」
「それにしてもさぁ! みんな……冷たいよな。あいつが死んで一日も経ってないのに通常授業だってさ!」
「まあ、余り騒ぎ立てるのもね」
「学校の隠蔽体質ってやつも困ったもんだね……ねえ、あいつをここから突き落とした犯人、知りたい?」
「え? 君、何か知ってるの?」
「ふふん、まあ、このまま静観してさ、警察の力がどれほどのものか見るのも一興だったけどさ。頼まれちまったからにはしょうがないよな。親友にさ」
「頼まれって、え、これなに? 手紙?」
「モシオレガシンダラコレヲケイサツニワタシテクレ……ってさ」
「今、なんかすごい早口だったね……」
「多分、犯人について書いてあるんじゃないかな。はははっ、あいつ……自分が誰かに殺されるってわかっていたのかもなぁ……クソッ、そうと知っていたらなぁ。俺なら力になれたかもしれないのによぉ。……ねえ、お姉さん。犯人、必ず捕まえてくれよな」
「あ、待って! 君の名前は?」
「……ヨモギ。ヨモギ、シュ・ン・ス・ケ。シュンくんでいいよ。
ははっ、また会ったらの話だけどさ。おっといけない。俺とした事が花を忘れたよ。ま、その時にでも会うかもね。お姉さんにプレゼントする花も用意しておこうかな」
「ヨモギ、シュンスケくん……」
「シュンでいいってば。じゃ、またね」
「いや、この紙に君の名前書かれてるんだけど」
「……えっ?」
「ほら」
「は? えっ、え、ちが、ちがちがちがちがちがえっ、え? え? ははっ、え? ちがちがう、ちがうよ? え? は? え?」
「それも赤い文字で大きく。うーん、これは……」
「いやいやいやいやいや違いますよ! いや、あいつもうホント! ふざけたやつでいや、マジでぶっ殺すっていうか」
「殺す……?」
「ちがちがちが、そういう意味じゃなくてぇ! ちょっとあれ、イキった発言というか! ほ、ほらぁ! 中学生ってそういうところあるじゃないですか!」
「それはよーく知ってる」
「大体、俺、あ、僕、昨日学校休んでて殺すとか無理ですし! ほんと、これ、あいつのただのおふざけなんですよぉ!」
「んー、でもそれってアリバイ作りというか、この学校の生徒なら目立たず出入りできるよねぇ。被害者の子も携帯で呼び出したりとかできるだろうし」
「そそそそそんなことぉ! して、してまオエッ、ゲホッしてませんよぉ……信じてくださぁい……」
「でも書いてあるからねぇ……ヨモギ、シュ・ン・ス・ケって。ああ、シュンくんって呼んで欲しいんだっけ? じゃあ、えー、シュンくん。君を殺人の容疑で……」
「ちがちが、あうああば、ほほほんとに、あ、あ、あ」
「差し入れはブラックコーヒーが良いかな」
「あ、あ、あ、あまい、本当は甘いものが好きなんですぅ……」
「……ふふふっ、うちの息子そっくり。冗談よ冗談!」
「へ、へぇ?」
「ちょっとからかっちゃった。事故よ事故。君の同級生ね、足を滑らせて階段から落ちたの。目撃者の子が何人もいるからこの事件は事故でもう捜査は終わっているの」
「え、えぇ……」
「おばさんね、君たちと同じ年頃の息子がいたの。でも……死んじゃってね。今日ここにちょっと寄ったのもそう。つい、感傷的になっちゃってね。そしたら、息子みたいにカッコつけた子が来たからふふふふっ、つい、ね」
「あ、あはは! もー、なんだよもぉー! マジ、ビビりましたよぉ! もぉ! もぉもぉもぉ!」
「あはは、ごめんごめん! あ、でも押さな、危な、あああぁぁぁ!」
「え……嘘、え」
「何だ今の音は……うおっ、あ、せ、生徒は教室に戻っていなさい!」
「え、なに、きゃあ!」
「う、うああああ!」
「死んでる、まただ、また階段で死んだ!」
「呪いだ!」
「なんか紙持ってるぞ」
「先生、なんて書いてあるの!?」
「これは……ダイイングメッセージか……」